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【続編】

63:お願い。届いて

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ロレンソはこの辺り一帯に広がる湖や森について話して聞かせてくれる。春がくると、この辺りは一面緑に覆われ、美しい花々が咲き誇ること。湖の氷も解け、沢山の鳥がやってきて、ボート遊びをしたり、釣りをしたり。とてもにぎやかになるのだと。

ロレンソからそんな話を聞いて食事をしていると、自分の今の立場、ロレンソとの関係が分からなくなってくる。まるでずっと昔からここでロレンソと二人暮らしているような錯覚に陥る。

食後のおかわりの紅茶を飲んでいるとロレンソが私に尋ねる。

「外に出て見ますか? 少し散策しましょうか。一面の銀世界ですが、そこで暮らす動物もいます。見てみたいでしょう、パトリシア様」

雪深いこの国で暮らす動物の生態を観察する。
そんな牧歌的な気持ちは全くない。
外に出たら隙を見て魔力を鳥の形に変え、アズレークにメッセージを届ける。
だから。

「ええ、ぜひ見てみたいです。こんなに雪深い場所に来たのは初めてですので」

そう答えニッコリ微笑む。
私の意図に気づいていないロレンソは、私の笑顔に応え、美しく微笑む。

「では支度が出来た頃に迎えにきます」

そう答えたロレンソが席を立ち、召使いは朝食の片づけを始め、私は身支度を整える。召使いはフードのついた白銀色のロングケープを着せてくれた。スカートの裾同様、フワフワした毛で飾られ、胸元でとめたリボンにも丸い毛がコロンとついている。さらに。頭には真っ白な毛皮の円筒形の帽子を被った。

そこにロレンソが来て、エントランスへと向かう。
部屋の外に出られる。
そう思ったが、魔法であっという間にエントランスに来ていた。

「パトリシア様は乗馬の経験はありますか?」
「あります」
「では馬車ではなく馬で行きましょう」

こうして厩舎へ魔法で移動し、馬に乗り、森の中へ向かうことになった。

護衛の騎士がつくのかと思ったが、それはない。
ロレンソは魔力が強い。護衛の騎士が必要ないぐらいに。
それにこの場所。
最初は皇帝もいる城にいるのかと思ったがそうではなさそうだった。おそらく第二皇子であるロレンソに与えられた屋敷のうちの一つ。こんな雪深い場所にわざわざやってくる刺客は少なさそうに思えた。刺客を送るなら春になってからだろう。

ということで護衛の騎士はいない。そして先頭をロレンソが進む。その後を私が追う形になる。こんな雪の中、馬を走らせるのは初めてのこと。だが問題なく進むことができている。何より馬が雪に慣れているから、問題なく進んでくれるのだ。

これならできる。

ロレンソに気づかれないように魔力を鳥の形に変えた。そしてあの羊皮紙を託し、空に放った。

お願い。アズレークのところまで飛んでいって。



==お知らせ
本文中に失礼します。あとがき欄みたいなのがないので本文中の記載ですみません!
本日はこのあと2話、19時台と20時台に公開します!
小説家になろうの更新に追いつきそうなので、明日からは毎日6話を朝(8時台)、昼(11時台・12時台)、夕方(17時台・20時台)を目安に公開していこうと思います。もし公開希望時間などあればお知らせくださいませ。対応できそうな時間であれば対応したいと思います。それでは引き続きお楽しみくださいませ!
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