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【続編】

52:知っていた? いや気づいた?

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微笑を浮かべたロレンソは、その細く美しい指を伸ばし、私のおへその下に触れた。

ドクンと心臓が大きく反応する。
アズレーク以外が触れられたことのない逆鱗。
そこにロレンソが触れた瞬間、心臓がバクバクと激しく動き始めた。

「パトリシア様、あなたもまた聖獣の血を引き継ぐ者だ。……番(つがい)なのでしょう。アズレークの」

……!
知っていた? いや気づいた?
それなら話は早い。
バクバクする心臓に汗が出るが、必死に言葉を紡ぐ。

「そうです、その通りです。私はアズレークの番(つがい)であり、アズレークは私の番(つがい)。私達の仲は誰も引き裂くことはできません」

「そんな寂しいことを言わないでください、パトリシア様」

頬に触れていた手がゆっくり動き、その美しい指が私の唇の動きを止める。オッドアイの瞳が悲しそうに私を見下ろしていた。

「わたしは……探し回りました。自分の番(つがい)がこの世界にいないかと。でも見つけることができませんでした。疲れ切り、辿り着いたガレシア王国で。まさか町医者を始めるとは思ってもいなかったです。でも……運命だったのでしょう。まさかあの日、あの時、あの場所で。パトリシア様に会えるなんて。奇跡でした」

待って。
私が勉強不足なの?
マルクスにもらった本をちゃんと読んでおけばよかった。
てっきり番(つがい)は一対一だと思っていた。
でもロレンソがこんなことを言い出すということは。
違うのだろうか?
私はアズレークの番(つがい)で、ロレンソの番(つがい)ではないと思っている。
そうではないのか。
ロレンソの番(つがい)にもなれるということ?

「……パトリシア様は番(つがい)のことをまだ詳しくは知らないのですね」

そう言ったロレンソは私の唇からゆっくり指をはずす。
そして何か呪文を唱えると。
彼の背後にはチェアが現れ、ロレンソはそこにゆっくり腰をおろした。

「番(つがい)というのは、運命の相手。パトリシア様の運命の相手は……アズレークなのでしょう。でも聖獣の血を受け継ぐ者というのは、ただそれだけで惹かれ合うのです。それは番(つがい)同士でなくても同じこと。わたしは見ての通り、魔法を使えます。聖獣の血を受け継ぐ者です。そしてパトリシア様もまた、聖獣の血を受け継ぐ者。わたしの番(つがい)は残念ながらこの世界には存在していなかった。でも同種族である聖獣ドラゴンの血を受け継ぐ女性……パトリシア様と出会えました」

喜びで瞳を潤ませたロレンソが、声を震わせて打ち明けた。
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