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【続編】

51:聞き間違いかと思った

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すっと立ち上がったロレンソは白銀色のマントを揺らしながら、美しい足取りで私の方へと歩いてくる。
もうその姿は秀麗で、息を飲むしかない。

「あの部屋からわたしの故郷であるグレイシャー帝国へ移動しました。レオナルドはマルティネス家の屋敷にいる……か、あなたを探し回っているか」

耳に飛び込んできた情報に驚愕する。
グレイシャー帝国!?
聞き間違いかと思った。
なぜなら。
氷の帝国と言われるその国は、ガレシア王国の遥か北にある島国だ。
船の移動で何日もかかるような場所。
そんな場所に魔法の力で移動したの……?

驚く私の顔を見て、ことさら淡麗な笑みを浮かべたロレンソはさらに話を続ける。

「目的、それは――」

ベッドに座る私に、前屈みになったロレンソが顔を近づける。
当然、驚くし、体を動かしたいのに……動けない。
ゆっくりとロレンソの手が私の頬に触れた。
ヒンヤリとした冷たい手で。

「パトリシア様、あなたを私の妃に迎えたいのです」

頭の中が混乱している。
妃?
ということはロレンソは皇族の一員……皇子ということだ。
品があるし、高貴な生まれだとは思ったけれどまさか……。
いや、今は皇子かどうかは、どうでもいい。
妃に迎える!?

「ロレンソ先生、私はアズレークの婚約者です。それはさっき、先生もお聞きになっていますよね? それなのにどうして……」

体は動かせないが、声は出る。
だから必死に訴えたのだが。
ロレンソはただの町医者ではないと判明したのだが、いまだ脳の理解が追いつかず、先生と呼んでしまう。

「アズレーク……。それが彼の真名(しんめい)か」

……!
ついアズレークの名を口にしてしまったが……。
真名(しんめい)。
つまりはブラックドラゴン由来の魔力の使い手である彼の本当の名が、アズレークということになるのだが。それは言ってよかったことなのかどうか、なんだか不安になる。

「確かにパトリシア様。あなたはアズレークの婚約者だ。でも幸いなことにまだ結ばれてはいない。つまりそれはわたしにもチャンスがあるということです」

チャンス?
まだ式を挙げていないから、正式に婚姻関係を結んでいないから、自分の妃にできるということ?

「例え式を挙げていなくても、私の心はアズレークにあります。ロレンソ先生と結ばれるわけにいきません。それにロレンソ先生であれば、引く手あまたですよね? 何も婚約者がいる私を選ばなくても」

私の言葉にロレンソが、白銀色と白金色の瞳を細め、微笑を浮かべた。
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