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【続編】

32:今日は私もここで休む

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「……抱きとめた、だと?」

アズレークの黒い瞳に、嫉妬の炎が燃え上がる。

ひったくりにあったが、転倒は、ロレンソに抱きとめられたことで免れたと話したのだが……。アズレークの表情が瞬時に変わっていた。

よく考えてみると。

ドルレアン家の放った刺客に私が連れ去られ、そこに駆け付けたアズレークは。電光石火の勢いで刺客を制圧した。その後魔術師レオナルドの姿になったアズレークは、王太子であるアルベルトが手配した馬車に、私とアルベルトと三人で乗り込むことになった。

その時、アズレーク……レオナルドはアルベルトと会話し、ついに私を番(つがい)と認めた。さらにアルベルトは「お互いに好きなのですから、結ばれて欲しいだけですよ。魔術師レオナルドとパトリシアに」と宣言してくれたのだ。

それを踏まえたレオナルドは、「王太子さま。今の言葉に、二言はありませんか?」と言質をとった後。「そのパトリシアには……不必要に触れないでいただきたいのです」――そう言ったのだ。

あの時のアルベルトは、涙ぐむ私の頭を優しく撫で、手をぎゅっと握っていたのだが。もちろん、そこに変な意図などない。しかもアルベルトは……王太子である。それでもあの一言――「不必要に触れないでいただきたいのです」と言ったということは。

どうやらレオナルドは……アズレークは、私が自分以外の男性に触れられることが許せないようなのだ。

そして今も、会ったこともないロレンソに私が抱きとめられた姿を想像し、信じられないほど強く嫉妬していた。

「アズレーク、ロレンソは転倒防ぐために抱きとめただけよ。それにそれはほんの一瞬のことだから」

慌ててそう補足したのだが。
アズレークは突然、ソファから私を抱き上げると、そのままベッドへと運んでいく。もうビックリして「ア、アズレーク」と動揺した声を出すことしかできない。

そのまま私をベッドにおろしたアズレークは。

「パトリシアを一人にしておくと不安でならない。今日は私もここで休む」

そう言うとそのまま私の隣に身を横たえた。
休む!? 休むって、休むって!?
私の頭の中はパニックだったが。
アズレークは魔法で部屋の明かりを消し、さらにブランケットをフワリと私にかけると……。

当然のように私を抱き寄せる。
アズレークの胸の中に包まれ、心臓は爆発しそうで、一気に全身が熱くなった。そんな私をぎゅっと抱きしめたアズレークは……。

既に静かに寝息を立てている。

一瞬。

ポカンとしてしまった。
火傷しそうな勢いで嫉妬の炎をその瞳に宿らせていたのに。
番(つがい)を前にしたら、押し倒したくなるはずだとマルクスから聞いていたのに。

寝てしまった……。

しばし呆然とし、そして爆発しそうな心臓は落ち着き、やがて理解する。
アズレークは連日激務に追われていた。休み返上で働いている。つまり相当疲れていた。屋敷に帰ってくる日もあったが、ベッドで横になってもほんの数時間。こんな早い時間に休むのは……本当に一カ月ぶりだろう。

疲れていた。そして私を抱きしめて……安心できたのかもしれない。かくいう私も。何かあるのでは!?と期待しない限り、この腕の中で抱きしめられていると……。安堵を覚える。守られている気持ちになり、安らぐ。

私を抱きしめても、流石にアズレークは守られている気分にはならないだろう。でも大切な番(つがい)が自分の腕の中にいると、安心することはできているはずだ。

そんな風に考えていると、私も次第に瞼が重くなり。
そのまま眠りに落ちていた。
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