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94:完全なポーカーフェイス
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「魔術師レオナルド、もしや今も余裕がないのでは?」
「と、申しますと、王太子さま」
どう見てもレオナルドは落ち着いているようにしか見えない。それなのにアルベルトは「余裕がないのでは?」と尋ねている。まったく理解できない……。
「刺客が去ってある程度の時間が経っていたのに、なぜ刺客たちの足取りを終えたのですか?」
アルベルトがさらに尋ねる。
「それは荷馬車の轍の後が、ぬかるみに残っていましたから」
レオナルドは落ち着いた声で答える。そして二人の問答が続く。
「あの闇の中で、それが見えたのですか?」
「魔法で明かりを使いましたから」
「あなたの後を追うマルクスは、あなたが輝いていたと証言していますが、それは道を照らすほどの明るさではなかったと言っています」
「荷馬車が出す振動や音を感知しました」
「それを感知できる近さまで、迫っていたとは思えないです。それならマルクスがついた時点で、パトリシアはまだ荷馬車にいたはずでは?」
遂にレオナルドが黙り込んでしまう。
「魔術師レオナルド。わたしはプラサナス城で行われた舞踏会で、あることを聞いてしまいました。あの時、わたしは多くの令嬢に請われ、延々とダンスを踊っていました。でもさすがに疲れ、5分ほど休憩をもらいました。その時、ホールを出て、飲み物を取りに行きました。その部屋のテラスで会話する、マルクスとパトリシアを見つけました」
え! ま、まさか……!
衝撃を受け、横に座るアルベルトを見る。
アルベルトは私のことをチラリと見ると、会話を続けた。
「マルクスは、魔術師レオナルド、あなたが自分を律し、諦めようとしていると言っていました。パトリシアはあなたの番(つがい)だと分かっているのに。わたしとパトリシアが相思相愛なら身を引くと」
レオナルドの頬がピクリと動く。
ただ、その顔に表情はない。
完全なポーカーフェイス。
一方の私は。
アルベルトがあの時の会話を聞いていた事実に驚き、そして番(つがい)の件がこの場で明かされたことに衝撃を受け、心臓があり得ないほどドクドクしていた。
「魔術師レオナルド、あなたが優しい人物であると、よく理解しています。だからと言って、あなたの番(つがい)であるパトリシアを、わたしに任せるなんて……。あなたは自分の番であるパトリシアから、目が離せないはずです。片時も離れられない状態のはず。それでも王都へ戻り、ドルレアン家の悪事を白日の元にさらした。でも限界だったのでは? パトリシアの様子が気になって、気になって仕方なかったのでしょう」
レオナルドは、そんな風に思っていたのだろうか?
気になって、気になって仕方ない……そんな焦がれるような状態に、なっていたのだろうか?
アルベルトはレオナルドを見るが、レオナルドの視線は窓の外を見ている。
「祖先の聖獣の魔力が強ければ強いほど、番(つがい)の存在は、どんなに離れていても感じ取れるとか。さすがにプラサナス城は遠すぎても、旅籠がある辺りなら、手に取るように気配を感じられたはずです。そして番の身に迫る危険を察知した。だから慌てて駆け付けたのでは?
わたしは文献で読んだことがあります。番(つがい)に出会わなければ、それはそれで平穏な一生となる。だが番に出会えれば、その日から世界は変わる。共にあれば、世界は輝き、失えば世界から色が消えると。番であるパトリシアを助けたい、その一心であなたは王都からこの場所まで、持てる力を駆使し、駆け付けたのではないですか?」
アルベルトが言うことが事実なら……。
紛れもなく私はレオナルドの番(つがい)であり、そうまでして助けたい相手だったということになる。そう思うと……胸が熱くなる。
「わたしは確かにパトリシアが好きです。でもどうもパトリシアの心は、わたしにはない。なぜなのかと悩みましたが……。魔術師レオナルド。パトリシアがあなたの番(つがい)なら、わたしに出る幕はないです。番同士は惹かれ合ってしまうもの。引き離せば、双方が不幸になるだけです。あなたは、わたしとパトリシアが婚約し、王宮にいればそれでいいと思ったのでしょう。番(つがい)の安否を、身近で感じられればと。でもわたしと結婚をすれば、パトリシアには世継ぎが求められます。わたしとパトリシアが毎夜過ごすのを、静かに見守るなどできないはずでは?」
核心に迫る言葉に、心臓がドキドキしてしまう。
それにアルベルトはこんな話をレオナルドにして、何をしたいのだろうか……?
「と、申しますと、王太子さま」
どう見てもレオナルドは落ち着いているようにしか見えない。それなのにアルベルトは「余裕がないのでは?」と尋ねている。まったく理解できない……。
「刺客が去ってある程度の時間が経っていたのに、なぜ刺客たちの足取りを終えたのですか?」
アルベルトがさらに尋ねる。
「それは荷馬車の轍の後が、ぬかるみに残っていましたから」
レオナルドは落ち着いた声で答える。そして二人の問答が続く。
「あの闇の中で、それが見えたのですか?」
「魔法で明かりを使いましたから」
「あなたの後を追うマルクスは、あなたが輝いていたと証言していますが、それは道を照らすほどの明るさではなかったと言っています」
「荷馬車が出す振動や音を感知しました」
「それを感知できる近さまで、迫っていたとは思えないです。それならマルクスがついた時点で、パトリシアはまだ荷馬車にいたはずでは?」
遂にレオナルドが黙り込んでしまう。
「魔術師レオナルド。わたしはプラサナス城で行われた舞踏会で、あることを聞いてしまいました。あの時、わたしは多くの令嬢に請われ、延々とダンスを踊っていました。でもさすがに疲れ、5分ほど休憩をもらいました。その時、ホールを出て、飲み物を取りに行きました。その部屋のテラスで会話する、マルクスとパトリシアを見つけました」
え! ま、まさか……!
衝撃を受け、横に座るアルベルトを見る。
アルベルトは私のことをチラリと見ると、会話を続けた。
「マルクスは、魔術師レオナルド、あなたが自分を律し、諦めようとしていると言っていました。パトリシアはあなたの番(つがい)だと分かっているのに。わたしとパトリシアが相思相愛なら身を引くと」
レオナルドの頬がピクリと動く。
ただ、その顔に表情はない。
完全なポーカーフェイス。
一方の私は。
アルベルトがあの時の会話を聞いていた事実に驚き、そして番(つがい)の件がこの場で明かされたことに衝撃を受け、心臓があり得ないほどドクドクしていた。
「魔術師レオナルド、あなたが優しい人物であると、よく理解しています。だからと言って、あなたの番(つがい)であるパトリシアを、わたしに任せるなんて……。あなたは自分の番であるパトリシアから、目が離せないはずです。片時も離れられない状態のはず。それでも王都へ戻り、ドルレアン家の悪事を白日の元にさらした。でも限界だったのでは? パトリシアの様子が気になって、気になって仕方なかったのでしょう」
レオナルドは、そんな風に思っていたのだろうか?
気になって、気になって仕方ない……そんな焦がれるような状態に、なっていたのだろうか?
アルベルトはレオナルドを見るが、レオナルドの視線は窓の外を見ている。
「祖先の聖獣の魔力が強ければ強いほど、番(つがい)の存在は、どんなに離れていても感じ取れるとか。さすがにプラサナス城は遠すぎても、旅籠がある辺りなら、手に取るように気配を感じられたはずです。そして番の身に迫る危険を察知した。だから慌てて駆け付けたのでは?
わたしは文献で読んだことがあります。番(つがい)に出会わなければ、それはそれで平穏な一生となる。だが番に出会えれば、その日から世界は変わる。共にあれば、世界は輝き、失えば世界から色が消えると。番であるパトリシアを助けたい、その一心であなたは王都からこの場所まで、持てる力を駆使し、駆け付けたのではないですか?」
アルベルトが言うことが事実なら……。
紛れもなく私はレオナルドの番(つがい)であり、そうまでして助けたい相手だったということになる。そう思うと……胸が熱くなる。
「わたしは確かにパトリシアが好きです。でもどうもパトリシアの心は、わたしにはない。なぜなのかと悩みましたが……。魔術師レオナルド。パトリシアがあなたの番(つがい)なら、わたしに出る幕はないです。番同士は惹かれ合ってしまうもの。引き離せば、双方が不幸になるだけです。あなたは、わたしとパトリシアが婚約し、王宮にいればそれでいいと思ったのでしょう。番(つがい)の安否を、身近で感じられればと。でもわたしと結婚をすれば、パトリシアには世継ぎが求められます。わたしとパトリシアが毎夜過ごすのを、静かに見守るなどできないはずでは?」
核心に迫る言葉に、心臓がドキドキしてしまう。
それにアルベルトはこんな話をレオナルドにして、何をしたいのだろうか……?
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