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84:本当に変わられたな
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「そ、そうなのですか……。でも私はそもそも魔力がないですよ?」
戸惑う私にマルクスは……。
「メスの番(つがい)は……言い方が雑で、失礼に感じたら申し訳ない。メスの番は、器(うつわ)だ。聖獣の血を受け継ぐ器というわけだ。器の魔力が弱くても、最悪、器に魔力がなくても、聖獣の血を受け継いでいる器であるならば。器に注がれるオスの魔力が強ければ、問題ない。そこから誕生する子供の魔力は、強くなる」
つまり私がレオナルドの番だと仮定して、例え魔力が私になくても、レオナルドが圧倒的に強い魔力を持っていれば、関係ないと。
それにしても。
そんなことをマルクスが知っていることに、驚いてしまう。
だがマルクスが言う通りであるならば……。
でも……。
「私が心惹かれたのは、アズレークです。魔術師レオナルドさまではありません。アズレークは、魔術師さまが演じていた人格だったら……」
「それはないと思うよ、パトリシアさま。アズレークに俺は会ったことがないから分からないが、話を聞く限り、その人格は、本気の魔術師さまなのだと思う」
「なるほど……」
そこで安堵するも、次なる不安に襲われる。
少なくとも私は、アズレークに心惹かれていた。
だが肝心のアズレークは、どうなのだろう……?
そのことをマルクスに尋ねると。
「……パトリシアさまは、本当に変わられたな。王都ではあんなにアルベルト王太子に対し、私が好きなのだから、当然あなたも私を好きですよね、みたいな態度だったのに。今は、自分は魔術師さまのことを好きだが、魔術師さまはどう思っているか分からないと、不安になっているのだから」
そ、それは……。
確かにとんでもない自信と上から目線だ。
だがそれはパトリシアの悪役令嬢としての設定が、そうなっているだけであって……。
顔が赤くなっていたのだろう。
マルクスは「そう照れなさんな」と笑顔を見せる。
「番(つがい)であれば、もう本能的に心惹かれているはずだ。本当はその場ですぐ押し倒したぐらいの気持ちになっても、おかしくないと思うがな。特にオスだったら」
とんでもない指摘に心臓が跳びはね、全身が熱くなる。
「そ、そんな、押し倒すとか、そんなことありませんでした!」
「それはそうだろう。アルベルト王太子の『呪い』を解こうとしているのに、自身の欲求を優先させている場合ではない。そこは魔術師さまが、鋼(はがね)の精神で、自らを律(りっ)したのだと思う」
そこで言葉を切ると、さらに続ける。
「魔術師さまは、パトリシアさまがアルベルト王太子を好きだと思っている。つまり、アルベルト王太子とパトリシアさまは、相思相愛だと思っている。だから例えパトリシアさまが自分の番(つがい)であっても、諦めるつもりなのかもしれないな」
「本能的に心惹かれるのに、諦めるのですか!?」
驚く私にマルクスは「ようやく認めたな」という顔で微笑む。
この質問をするということは、諦めて欲しくない、という思いが込められていると、マルクスは気づいたのだろう。
「魔術師さまはパトリシアさまが言う通り、優しい方だ。だから王宮付きの魔術師として、次々とやってくる案件にも、真摯に取り組む。困っている人がいれば、自分の魔法で助けようとしてな。だからこその、仕事中毒(ワーカホリック)だ。そんな魔術師さまだから、相思相愛の二人を引き裂くことなんて、できない。自分をコントロールして収まるなら、そうしてしまうのだろうよ」
やっぱりアズレークは……レオナルドは、イイ人だ。
「ただ、パトリシアさまの気持ちがアルベルト王太子ではなく、魔術師さまにあると分かれば、それは話が変わってくるかもしれない。番(つがい)のことを国王陛下に相談し、パトリシアさまと結ばれることを、願い出るかもしれない」
マルクスのその言葉を聞いた瞬間、自然と私の顔は笑顔になっていた。
自分でも自覚できるぐらいの笑顔。
当然それを見たマルクスは驚くが、私の笑顔に答えるように、瞳を細める。
そこで実感する。
アズレークが好きなのだと。
結ばれるなら、彼がいいと。
彼と結ばれるには、今の状況だと、私が彼の番(つがい)であることが絶対条件。
だからマルクスに尋ねていた。
「マルクスさま。私が魔術師さまの番(つがい)であると、どうやったら確認できますか?」
「どうだったかな。覚えていない。文献で確認したら教えるよ」
「ありがとうございます」
ニッコリ微笑むと、マルクスは自身の懐中時計を確認して、私を見る。
「さて。おしゃべりはこれでお終いだ。ここは松明が沢山あって、そこまで寒くはない。だが、これ以上ここにいたら、体が冷えてしまう。中にはいるぞ、パトリシアさま」
「ええ、分かりました」
私とマルクスは、部屋の中に戻った。
戸惑う私にマルクスは……。
「メスの番(つがい)は……言い方が雑で、失礼に感じたら申し訳ない。メスの番は、器(うつわ)だ。聖獣の血を受け継ぐ器というわけだ。器の魔力が弱くても、最悪、器に魔力がなくても、聖獣の血を受け継いでいる器であるならば。器に注がれるオスの魔力が強ければ、問題ない。そこから誕生する子供の魔力は、強くなる」
つまり私がレオナルドの番だと仮定して、例え魔力が私になくても、レオナルドが圧倒的に強い魔力を持っていれば、関係ないと。
それにしても。
そんなことをマルクスが知っていることに、驚いてしまう。
だがマルクスが言う通りであるならば……。
でも……。
「私が心惹かれたのは、アズレークです。魔術師レオナルドさまではありません。アズレークは、魔術師さまが演じていた人格だったら……」
「それはないと思うよ、パトリシアさま。アズレークに俺は会ったことがないから分からないが、話を聞く限り、その人格は、本気の魔術師さまなのだと思う」
「なるほど……」
そこで安堵するも、次なる不安に襲われる。
少なくとも私は、アズレークに心惹かれていた。
だが肝心のアズレークは、どうなのだろう……?
そのことをマルクスに尋ねると。
「……パトリシアさまは、本当に変わられたな。王都ではあんなにアルベルト王太子に対し、私が好きなのだから、当然あなたも私を好きですよね、みたいな態度だったのに。今は、自分は魔術師さまのことを好きだが、魔術師さまはどう思っているか分からないと、不安になっているのだから」
そ、それは……。
確かにとんでもない自信と上から目線だ。
だがそれはパトリシアの悪役令嬢としての設定が、そうなっているだけであって……。
顔が赤くなっていたのだろう。
マルクスは「そう照れなさんな」と笑顔を見せる。
「番(つがい)であれば、もう本能的に心惹かれているはずだ。本当はその場ですぐ押し倒したぐらいの気持ちになっても、おかしくないと思うがな。特にオスだったら」
とんでもない指摘に心臓が跳びはね、全身が熱くなる。
「そ、そんな、押し倒すとか、そんなことありませんでした!」
「それはそうだろう。アルベルト王太子の『呪い』を解こうとしているのに、自身の欲求を優先させている場合ではない。そこは魔術師さまが、鋼(はがね)の精神で、自らを律(りっ)したのだと思う」
そこで言葉を切ると、さらに続ける。
「魔術師さまは、パトリシアさまがアルベルト王太子を好きだと思っている。つまり、アルベルト王太子とパトリシアさまは、相思相愛だと思っている。だから例えパトリシアさまが自分の番(つがい)であっても、諦めるつもりなのかもしれないな」
「本能的に心惹かれるのに、諦めるのですか!?」
驚く私にマルクスは「ようやく認めたな」という顔で微笑む。
この質問をするということは、諦めて欲しくない、という思いが込められていると、マルクスは気づいたのだろう。
「魔術師さまはパトリシアさまが言う通り、優しい方だ。だから王宮付きの魔術師として、次々とやってくる案件にも、真摯に取り組む。困っている人がいれば、自分の魔法で助けようとしてな。だからこその、仕事中毒(ワーカホリック)だ。そんな魔術師さまだから、相思相愛の二人を引き裂くことなんて、できない。自分をコントロールして収まるなら、そうしてしまうのだろうよ」
やっぱりアズレークは……レオナルドは、イイ人だ。
「ただ、パトリシアさまの気持ちがアルベルト王太子ではなく、魔術師さまにあると分かれば、それは話が変わってくるかもしれない。番(つがい)のことを国王陛下に相談し、パトリシアさまと結ばれることを、願い出るかもしれない」
マルクスのその言葉を聞いた瞬間、自然と私の顔は笑顔になっていた。
自分でも自覚できるぐらいの笑顔。
当然それを見たマルクスは驚くが、私の笑顔に答えるように、瞳を細める。
そこで実感する。
アズレークが好きなのだと。
結ばれるなら、彼がいいと。
彼と結ばれるには、今の状況だと、私が彼の番(つがい)であることが絶対条件。
だからマルクスに尋ねていた。
「マルクスさま。私が魔術師さまの番(つがい)であると、どうやったら確認できますか?」
「どうだったかな。覚えていない。文献で確認したら教えるよ」
「ありがとうございます」
ニッコリ微笑むと、マルクスは自身の懐中時計を確認して、私を見る。
「さて。おしゃべりはこれでお終いだ。ここは松明が沢山あって、そこまで寒くはない。だが、これ以上ここにいたら、体が冷えてしまう。中にはいるぞ、パトリシアさま」
「ええ、分かりました」
私とマルクスは、部屋の中に戻った。
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