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79:とにかく困る

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アルベルトは、三騎士にも、領主ヘラルドにも、私が誰であるかを明かした。聖女のフリをしていたが、ゴーストを退治したのは事実であるから、ヘラルドは何も文句を言うことはない。

一方の三騎士は、もうただただ驚いていた。それは……そうだろう。悪役令嬢パトリシアを知っているわけだから。ただ、修道院にいた事実を知ると、そこで私がかなり丸くなったと理解したようだ。

ちなみにスノーの正体がミニブタであると知ると……。これには全員驚愕した。でもその気持ちはよく分かる。

こうしてプラサナス城で、堂々とパトリシアとして過ごせるようになった。そして今から領主ヘラルドが開催する舞踏会へ、向かうことになっているのだが……。

ヘラルドがつけてくれたメイドの手で、私は久々に、イブニングドレスに袖を通すことになった。ドレスはアルベルトが届けてくれたもので、サファイアブルーのタフタのボールガウンのドレスだ。

胸元や袖、ウエスト部分に、白い薔薇の花びらを模した飾りがついている。それは少し離れてみると、生花の花びらを散らしたようで、実に美しい。髪飾りは白い薔薇、首飾りはパール。

メイクもきっちりすると、さすが美貌が売りだった悪役令嬢パトリシア。舞踏会の華にふさわしい、輝きがある。

舞踏会に行くのは約2年ぶりだし、何より覚醒してからは初。つい胸が高鳴るが、どうもアルベルトはこの舞踏会で、私に正式なプロポーズをする気のようなのである。

アルベルトは、カロリーナとの婚約も解消している。しかもレオナルドが、相思相愛と勝手に伝えていた。だから改めてプロポーズすれば、快諾されると思っているようなのだが……。

正直、困っていた。

アルベルトはあの日以降、私からすると、変わった。
王都でカロリーナと婚約者の座を奪い合っていた時に、絶対見せることがなかった表情を、私に見せるようになっていた。王都にいた時には言わなかったような言葉を、今の私には沢山伝えてくれる。

それは、あの容姿とあの甘い声で言われれば、落ちない女子はいないだろうと思えるものだ。

それでなくても『戦う公爵令嬢』に登場する攻略対象は、全員が、私のどストライクで好みのタイプなのだ。当然、アルベルトから言い寄られれば、舞い上がるし、嬉しくなる。

でもそれだけなのだ。気分が盛り上がり、ではそれ以上を望むのかと言われると……。

例えば、アルベルトとキスをしたいのか?
キス……。
その言葉で思い浮かぶのは、レオナルド……アズレークから魔力を送りこまれた時のことばかり。

そうなるともう、アズレークの唇や息遣いが思い出され、なんだか落ち着かない気持ちになる。顎を持ち上げる指の感触、ヒンヤリと火照りをとってくれた美しい手を思い出し、ドキドキしてくる。アズレークの伏せられた瞼や長い睫毛を思い出し、ため息が漏れる。

何より忘れることができないのは……。

あんなに近くにあったのに、決して触れ合うことのなかった唇。

もしあの唇に自分の唇を重ねたら、どんな気持ちになるのだろう……。

さらに今は消えてしまい、そこに紋章があったと分かるような痕が、うっすらと残っているだけだが……。

おへその下に紋章があった時。

魔力を使う度に、あの紋章で熱を感じ、アズレークのことを思い出していた。そして今も、おへその下に触れると、彼の顔が脳裏に浮かぶ。

つまり、これは疑いようもなく、アズレークに好意を持っている状態……。

その一方で、アズレークという人物が存在しないことも、理解している。アズレークは、魔術師レオナルドが変身した姿。

王都に戻り、そこで対面するのは、アズレークではない。レオナルドだ。

レオナルドの容姿や性格は、『戦う公爵令嬢』をプレイしているから、理解している。アズレークとレオナルドでは、容姿が全く違う。性格は……どうなのだろう。少なくともアズレーク姿で接していた時のレオナルドは、ゲームで知るレオナルドの性格とは、違っていた。つまりアズレークに扮するにあたり、アズレークという人格を演じていただけ。実際に会ったら、ゲームそのままの性格の可能性が高い。

レオナルドに会った時。
私はどんな気持ちになるのだろうか?
アズレークと全然違うと分かった時。
ガッカリするのだろうか?

こんな状態だったので、今晩の舞踏会でアルベルトからプロポーズされるのは……本当に困る。どう答えていいか、その言葉さえ浮かばない。
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