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63:では、始めますよ

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私の言葉に領主ヘラルドは……。

「ひぃぃぃぃぃ、分かりました! 王太子さま、お先に失礼します!」

おそらく一気にゴースト達が出現した瞬間に、何かを感知したのだろう。大慌てで、ホールから出て行く。もはや王太子であるアルベルトを置いて行くことに、躊躇すら感じていないようだ。

「ルイスさまは、光の魔法を使えますか?」

「使えますよ」

「では矢に光の魔法をかけ、スノーの指示する方向に、放つようにしていただいていいですか?」

ルイスは頷き、私はスノーを見る。

「スノー、人型のモンスターの対応を頼むわ」

「了解です、オリビアさま」

次にマルクスを見る。

「私と一緒に動いていただいていいですか?」

「任せとけ、聖女さま」

「私はどうすればいいですか?」

「ミゲルさまは王太子さまをお守りください。剣を抜いていただけますか?」

ミゲルが鞘から剣を抜くと、その刀身に手で触れ……。

「光あれ」

刀身が光を帯びた。
この光があれば、ゴーストはミゲルとアルベルトには近寄らないはずだ。

「王太子さまとミゲルさまは、無理してここにとどまる必要はありません。もしもの時はすぐに逃げてください」

ホールの明かりが、突然消えた。
ただカーテンは閉じていないので、ホールは月明りと庭園の明かりに、淡く照らされている。

「では、始めますよ」

私の声を合図に、一斉に武器を構える。

「悪しき者の名は朽ちる!」

私のひとことで動きを止めた人型ゴーストを、スノーの指示でルイスが次々と矢で射抜いていく。

「マルクスさま、ここを槍で突き刺してください」

数メートル先にいる二足歩行をするヤギ型のモンスターゴーストが、聖槍を受け、姿を消す。
その傍にいる毒蛇型のモンスターゴーストに聖水……塩水をかける。

ホールにはとんでもない数のゴーストがいるが、攻撃はしてこない。
ただ、悲鳴をあげたり、足を踏み鳴らしたり、奇声を発したりしているだけだ。
だからこちらも、今の要領で、淡々とゴーストを倒していく。

約1時間かけ、50体近いゴーストを退治した。

さすがに1時間、目に見えない敵と戦う私達を見つめているのは、時間の無駄と思ったのだろう。すべて退治し終えた時、ミゲルとアルベルトの姿はなかった。寝る時間は近かったし、部屋に戻ってもらえてよかったと、安堵する。

マルクスとルイスは、目に見えない敵と戦っていたはずだが、ゴーストが発する声は、聞こえていたようだ。その声で、ゴーストを退治できたかどうかと判定していたらしい。最後の一体が撤退したことを告げると、二人は達成感を噛みしめていた。

それにしても。
最後の一体が消えた瞬間、ホールに明かりが戻ってきたのだが……。

床には沢山の傷がつき、塩水が水たまりをつくり、矢が散乱していた。ただ壁に描かれた絵画に傷がついていなかったのは……本当に良かったと思う。

さすがに時間も時間なので、水だけふき取り、片づけは明日お願いすることにした。

部屋に戻ったスノーと私は、全力で寝るための準備をして、後はベッドに潜り込めばよかった。でも三騎士はこの後、夜の警備があるわけで……。遅くまで付き合わせることになり、申し訳ないと思いつつ、この日は眠りについた。
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