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39:シャツを、思わず掴んでいた

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結局。

どんなに頭で恐ろしい自分の末路を想像しても、アルベルトの顔を見てしまうと、行動が疎かになる。寝姿勢を仰向けに変えるとか、短剣(スティレット)を顕現させるとか、絶対にやらなければならないことをつい、スキップしてしまう。

挙句、アルベルトに跨るという行為がなかなかできず、「オリビア、いくら王太子が眠りの香りで寝ているからといって、ノロノロ行動するのは危険だ。迅速に動いて」とアズレークから注意されてしまう。

なんとか跨ることができても、肝心の振り下ろすができず、魔法の力が発動し、事なきを得ると言う体たらく。

だからもう何度もやり直すことになった。
でも一度成功すると、何かを吹っ切れたようで、その後は流れるように動くことができた。

なんだろう。何か境地に至った気がする。

ただ、当然夜は更けており。
部屋に戻り、入浴している最中に寝落ちしそうになりながら、なんとかベッドに潜り込み、その後は爆睡だった。



翌日もブランチのような時間に朝食をとることになってしまった。

すっかり寝坊して、スノーに起こされ、ラズベリーレッド色のコタルディに着替える。フロントに金色の飾りボタンが並び、腰にはベルベッドの黒いリボン。

自室を出て、いつも朝食をとる部屋につくと。
黒いシャツに黒いズボンのアズレークが着席していた。

寝坊を詫びるとアズレークは……。

「明日にはプラサナス城へ向かうことになる。今日じたばたあがいたところで、どうにもならない。昨晩の練習で、オリビアは完璧に計画を遂行できた。だからもう、今日は予定を組まない。オリビアが確認したいことがあれば、それを中心に復習をしよう」

そう言って、今日はのんびり過ごし、明日に備えることを提案した。

その一方でスノーは、明日の出発に備え、荷物をまとめるので大忙しだ。
荷物と言っても、スノーと私でそれぞれトランク一つと軽装備だが、それでも服をつめたり化粧道具をまとめたりで、忙しそうにしている。

私はというと、まずは自室でアズレークから魔力を送ってもらうことになった。もう力が抜けることもないし、頬もこれまでのように火照ることがないと、アズレークも気づいている。だからソファに座り、向き合うと、顎に手を添えるだけすぐに魔力が送られてくる。

頬の異様な火照りはなくなったが、相変わらず体は熱くなるし、息遣いも荒くなる。でもアズレークは魔力を送り終えると、すぐに部屋を出て行ってしまう。それが分かっていたから、ソファから立ち上がりかけたアズレークのシャツを、思わず掴んでいた。
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