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35:いつもと違う

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「オリビアさま、おはようございます」

スノーに抱きつかれ、目を覚ました。

「……おはよう、スノー」

抱きつくスノーの背に腕を回しながら、ゆっくり目を開ける。

「ぐっすり休めましたか、オリビアさま」

抱きついたままのスノーが私を見上げる。

「ええ。アズレークが眠りの香(こう)を部屋で焚いてくれたの。実際にどんなものか、体験した方がいいだろうからって。そうしたらね、入浴を終えて、ベッドに腰をおろしたら……猛烈な眠気に襲われて。その後は今、スノーが起こしてくれるまでぐっすりだったわ」

「へえー、そうなのですね。お部屋に入った時、うっすらといい香りがしたのは、その眠りの香の残り香だったのですね」

「え、まだ香りがする?」

空気を鼻から吸い込むが、もうあのまろやかな香りは感じられない。

「それはオリビアさま、スノーは嗅覚がいいですから!」

あ、なるほど。
豚は嗅覚が優れていることで知られているから……。

「お食事の用意はできていますよ、オリビアさま」

「分かったわ。すぐに着替えるわ」

「あ、アズレークさまが、聖女の服を着ておくように、とのことでしたよ」

「そうなのね。分かったわ」

今日は日中から練習を行うのだろうか?
そんなことを思いながら、スモークブルーのワンピースに着替え、部屋を出る。

廊下を歩きながら窓の外を見ると……。
今日は天気がいい。
着替えをしている間に10時を過ぎ、もはやブランチの時間になっている。

「おはようございます、アズレークさま」

部屋に入り、思わず息を飲む。
いつも全身黒ずくめのアズレークが、白いシャツを着ている。もちろんズボンは黒だが、シャツの色が変わるだけで、とても新鮮に感じてしまう。

「おはよう、オリビア。眠りの香(こう)の効果はどうだった?」

「はい。効果覿面(こうかてきめん)でした。おかげでかなりぐっすり眠ることができました」

「そうか」

アズレークは微笑むと、今日の予定を教えてくれる。

夕食の後は、廃太子計画の通しのリハーサルを行うという。

屋敷にいる従者とスノーに、三騎士と警備の騎士に扮してもらう。そして三騎士に眠りの香を部屋で焚くよう促すところから始まり、短剣(スティレット)を振り下ろすところまで、すべてやってみることになった。ちなみに従者には、アズレークが魔法をかけるという。

では日中は何をするのか?
日中は、町へ向かうことになった。聖女の姿で。

だから聖女の服装に着替えるように指示したのかと腹落ちする。その一方で、なぜ聖女の姿で町へ行く必要があるのかと思ったら……。

プラサナス城を訪れるにあたり、ゴースト騒動の噂を聞き、退治のために来たという裏付けのためだとアズレークは言った。

まさか、町へ行けるとは思わなかった私は、この予定を聞き、思わず頬がほころんだ。給仕をしているスノーも、嬉しそうな顔をしている。

プラサナス城にはスノーと二人で向かうことになっていた。だからスノーも一緒に町へ行くことになる。それが分かったので、スノーは嬉しそうに私のティーカップに紅茶を注いでいる。

こうしてブランチの後。
白いベールを被り、白いフード付きのロングケープを纏う。
首元には十字架のペンダント。手には十字架を冠した杖、腰には聖杯、ポケットには聖書。

スノーは聖女の従者ということで、私とお揃いの服が用意されていた。私と同じ色のワンピースを着て、白いベールを被り、白のフード付きのケープを着たスノーは……。

本当に可愛らしい。
年の離れた妹ができたみたいで、思わず嬉しくなってしまう。

町の入口まで馬車で向かい、降りた後は、スノーと手をつなぎ、町の中へと足を踏み入れる。一方のアズレークは、あくまで離れた場所から私達を見守ることになった。

アズレークの服装は、町の雰囲気に馴染むよう、白シャツにボルドー色のジレベスト、それ以外の上衣、ズボン、マントは黒だが、革のロングブーツは焦げ茶色で、それだけでも随分印象が変わる。さらに前髪をオールバックにし、魔法で髪の色も少し青みがかるようにしていたが……。本当に雰囲気がいつもと違っていた。
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