血塗れパンダは空を見る

田古みゆう

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2人目の対象者 美雪 p.1

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 あいつが、何者かに刺された。

 俺は、そう父から連絡を受けたはずだ。急いであいつの元へ向かわなければいけないのに、なぜ俺は、こんな所にいるんだ?

 ぼんやりとする頭のまま、空を見上げた。何にも遮られることのない眩しすぎる太陽に、目を瞑る。途端に、美穂の顔が思い出された。

 そうだ。美穂だ。美穂が側にいたはずだ。俺は目を開け、辺りを見廻すが、誰もいない。

 勘違いか。現実感が感じられない奇妙な感覚に、首を傾げる。何故だか、唇がビリリと痺れた気がした。

 唇に指を当て、その痺れを確かめようとした、その時、背後で自動扉の開く音がした。

 そのまま振り向くと、店から出てきた美雪とバッチリ目があった。

「ぶはッ!! 何、そのポーズ! 萌え狙い?」

 美雪は、俺を見るなり思いっきり吹き出しながら側へやってきて、俺の肩をパシパシと叩く。

「えっ? あ~、いや。なんか、唇が痺れて……」

 俺は、突然の美雪の登場に目を瞬きつつ、それとなく会話を合わせる。

 美雪は、同い年の幼馴染で、良く一緒に遊ぶ仲なので、気心は知れている。いつもなら、天真爛漫なこの美雪の態度に合わせて、俺も弾けるのだが、今は、どうにも、自分の中の感覚がぼんやりとしていて、美雪のテンションに合わせられない。

「それより、俺の連れ、知らない?」

 肩にかかる美雪の手を払いながら、俺は、もしかしたらという思いで、美雪に聞いてみた。

 すると、美雪は訝しそうに眉を顰めつつ、自分の顔を指さす。

「ここにいるけど?」
「え?」

 美雪の言葉の意味が分からず、俺も美雪の顔を見たまま眉を顰める。

 そんな俺を見て、美雪は、心配そうな顔になると、ずいっと顔を近づけてきた。

「暑さで、頭、やられた? ほら、冷えたお茶飲んで」

 ペトリと首に当てられたペットボトルを受け取りつつも、俺は首を傾げたままだ。

「もしかして、俺、美雪と出かけるところ?」
「そうだよ。ちょっと、ホントに大丈夫?」
「あ~。うん。まぁ……」

 曖昧に答えつつも、頭の中は、混乱が渦巻いている。

 美穂と一緒にいたような気がするのに、どうして、美雪といるのだろう。

 いや、美雪は、実際に目の前にいるのだから、美穂と一緒にいたと思う事が間違っているのか。俺は、白昼夢でも見たのだろうか。

 首を傾げつつも、美穂と目的地へと向かう。

「今日は、どこに行くんだっけ?」
「動物園だよ。それも、忘れちゃったの? そんなパンダみたいな格好してるくせに」

 美穂は、呆れたように肩を竦めた。
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