血塗れパンダは空を見る

田古みゆう

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2人目の対象者 美雪 p.2

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「俺、パンダっぽい?」

 こてりと首を傾げて問うと、何故だか、目を逸らされた。

「うん。あざとっぽさがパンダっぽい。あと、服ね」

 言われて、自分の服装へと視線を落とす。白Tシャツに、黒のパンツという、至ってシンプルな格好だが、なるほど、確かに色合いはパンダだった。

 正午の照り付ける太陽の元、2人して笑い合っていると、ポケットの中のスマホが振動を繰り返す。

 画面には、いつもはあまり表示されることのない、父の名前が出ていた。思わず身構える。

「電話、出ないの?」

 美雪に促され、俺は、恐る恐る通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。

“美空が、何者かに刺された”

 電話口で、確かに父はそう言った。

 体が震え出す。なんだこの既視感は。俺は、このとてつもない恐怖を知っている。

 震える自身の体を抱きしめつつ、ギュッと目を瞑った。途端に、頭の中に美穂の甲高い声が響く。

“あたしを受け入れない、あなたが悪いのよ!”

 美穂の狂気に満ちた顔が、脳裏いっぱいに広がる。

 そうだ。あの電話を聞いたとき、確かに美穂がいた。狂気に満ちた笑い声を響かせる美穂が、俺の側にいんだ。

 何故だ。何故、同じことが繰り返されているんだ。……いや、待て。同じことが繰り返す……?

 俺は、ばっと辺りを見廻した。

「ちょっと、どうしたの? 顔が真っ青だよ」

 美雪の声には答えず、俺は、怒鳴り散らす。

「出てこい、美穂! 何処かにいるんだろ! 出てこい!」

 俺の怒声を楽しむかの様に、建物の影から、うっとりと蕩けそうな顔をした美穂が姿を現した。

「やだ~。怖い顔」
「美穂! お前、何をしたッ!」
「何って、あなたをタイムリーパーにしただけよ」

 ねっとりと絡みつく様な美穂の視線を、弾き返す様に睨みつけていた俺は、聞き慣れない言葉に困惑する。

「タイムリーパー?」
「そう。あたしを受け入れないあなたなんて、何度でも、身を引き裂かれる様な苦しみを味わえばいいのよ」
「どういう事だよ?」
「あら? 説明したはずよ。忘れちゃったの?」

 美穂の得意満面な笑みが、俺に瞬時に全てを思い出させた。

 タイムリープだ!

 俺は、あの出来事を繰り返している。だったら、もう一度戻って、あいつを救う! 救ってみせる!

 決意を込めて、美雪を睨みつけてから、俺は、美穂の肩をガシッと掴んだ。

「美穂! ごめん。キス、させてくれ!」

 目を見開いたまま固まっている美穂の唇を、俺は、有無を言わさず、強引に奪う。

 途端に、俺の体に、ビリリと電流が走った。
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