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09 初めての給金
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その日、マリアはウキウキしていた。それは初めて給金を貰ったからである。
給金はマリアが考えていた額の倍以上で、驚きと嬉しさが半々といったところだろうか。
ただの下働きなのに、公爵家の給金がこんなに高額だなんてマリアは知らなかった。
テッドに振られたことは辛かったけど、そのおかげでいい仕事を見つけられたんだから、自分は運が良かったと思うことにしよう……
今でもテッドのことを思い出しては胸がズキズキと痛む時もある。でも、自分でお金を稼ぐことが出来るようになったことは嬉しくて、まだあの男に対しての未練のようなものは残っていたが、何とか前を向いてやっていけそうな気がした。
マリアは貰った給金を見てニヤニヤが止まらなくなってしまうが、アンから声を掛けられたことで現実に戻される。
「マリアは給金はどうするの? 仕送りする? それとも銀行に預けてくるの?」
「アンさん。少しだけ実家に仕送りして、あとは銀行に預けておこうかと思っています」
本当は、実家には沢山仕送りをしてあげた方がいいのかもしれない。マリアは四人兄妹の二番目で、上に兄がいて下には弟と妹がいる。一番下の妹はまだ幼いし、すぐ下の弟は食べ盛りだ。農家である実家は貧しいのだから、仕送りが多い方が両親は喜ぶに違いないのだ。
しかし、長年一緒に過ごしてきた大好きなテッドにはあんな形で捨てられてしまい、マリアは男性不信気味になっていて、結婚願望がなくなってしまった。
田舎には帰れないし、一生独身でいるかもしれないから、今は仕送りよりも自分の将来のためにお金を貯めておきたいという気持ちの方が強くなっていたのである。
しかし、閉鎖的な田舎でまともな仕事に就いたことのなかった世間知らずのマリアは気づいていなかった。
王都という大都会の給与水準が、田舎の農家とは比べられないほど高いということに。
更に、公爵家の給金が街の商店や食堂、他の貴族の邸などで働くよりも、かなり高額であるということに。
マリアは給金の四分の一を仕送りにしようと決めていたが、その金額が彼女の育った村では高額な仕送りになるということに気付くのは、もう少し先のことになる。
「マリア。預金と仕送りがしたいなら、明日の昼休みに近くの銀行と郵便局に行こう。だから、急いで昼ご飯を食べるんだよ。
私が一緒に行ってやるからね」
ぶっきらぼうな話し方をするアンだが、今ではマリアにとって面倒見のいい先輩になっていた。
「ありがとうございます。初めての給金で、まだお金の管理に慣れていないので助かります」
マリアは家事手伝いや農家の仕事の手伝いくらいしかやったことがなかったので、高額な現金を手にしたのは生まれて初めてだったのだ。
「いいよ。アンタはまだ王都の生活に慣れてないから、盗まれたり悪い奴に騙されて詐欺とかに遭いそうだからね。
そうなる前に、実家に送金するか銀行に預けてしまった方がいい」
「はい。そうします!」
早速、翌日の昼休みにアンと一緒に銀行に行き、給金の半分を預けることにした。
その後に郵便局に行き、給金の四分の一を実家に送金する。残りの四分の一はマリアにとってはかなり大金であったが、手元に残して小遣いにすることにした。
◇◇
給料日後の休日である今日は、アンに休みを合わせてもらい、二人で買い物に来ている。
マリアには給金の四分の一を手元に残し、小遣いにしてまで、どうしても買いたい物があったからだ。
「マリア。今日は化粧品とシャンプー、服と靴とバッグを買いに行きたいんだよね?
私のお勧めの店があるから、黙ってついて来な」
「アンさん。私は王都の街をよく知らないので、本当に助かります。よろしくお願いします」
王都育ちのアンは店に詳しいらしく、若い女の子向けの可愛い店に案内してくれる。
アンが連れて行ってくれた店は、さすが国一番の都市の店だけあって、売っているものは流行の最先端の物ばかりだ。ただ、値段はそれなりにするので、田舎で農作業の手伝いをしていた頃には手を出せなかっただろう。
しかし今のマリアは下っ端とはいえ、公爵家の使用人としてそこそこ稼いでいる。芋臭い田舎者と言われるのは嫌だったし、元恋人に見下されたことも悔しかった。だから、新しい自分に変わるために思い切って買い物をすることにしたのだ。
マリアは、アンや店員さんに見立ててもらったワンピースや靴などを買った後、化粧品などを取り扱う店に来ている。
その店でマリアは少々奮発して、化粧品と人生で初めて見るシャンプーとトリートメントを買うことにした。
マリアのクルクルの天パを見たアンが、髪のお手入れをすれば、少しはマシになるかもしれないと教えてくれたからだ。
貧しい実家では、髪の毛のお手入れにお金と手間をかけるという感覚はなかった。今まで色々な人に馬鹿にされ続けてきた髪が、少しでもマシになればいいと思い、店員さんのお勧めするシャンプーとトリートメントを購入することにした。
給金はマリアが考えていた額の倍以上で、驚きと嬉しさが半々といったところだろうか。
ただの下働きなのに、公爵家の給金がこんなに高額だなんてマリアは知らなかった。
テッドに振られたことは辛かったけど、そのおかげでいい仕事を見つけられたんだから、自分は運が良かったと思うことにしよう……
今でもテッドのことを思い出しては胸がズキズキと痛む時もある。でも、自分でお金を稼ぐことが出来るようになったことは嬉しくて、まだあの男に対しての未練のようなものは残っていたが、何とか前を向いてやっていけそうな気がした。
マリアは貰った給金を見てニヤニヤが止まらなくなってしまうが、アンから声を掛けられたことで現実に戻される。
「マリアは給金はどうするの? 仕送りする? それとも銀行に預けてくるの?」
「アンさん。少しだけ実家に仕送りして、あとは銀行に預けておこうかと思っています」
本当は、実家には沢山仕送りをしてあげた方がいいのかもしれない。マリアは四人兄妹の二番目で、上に兄がいて下には弟と妹がいる。一番下の妹はまだ幼いし、すぐ下の弟は食べ盛りだ。農家である実家は貧しいのだから、仕送りが多い方が両親は喜ぶに違いないのだ。
しかし、長年一緒に過ごしてきた大好きなテッドにはあんな形で捨てられてしまい、マリアは男性不信気味になっていて、結婚願望がなくなってしまった。
田舎には帰れないし、一生独身でいるかもしれないから、今は仕送りよりも自分の将来のためにお金を貯めておきたいという気持ちの方が強くなっていたのである。
しかし、閉鎖的な田舎でまともな仕事に就いたことのなかった世間知らずのマリアは気づいていなかった。
王都という大都会の給与水準が、田舎の農家とは比べられないほど高いということに。
更に、公爵家の給金が街の商店や食堂、他の貴族の邸などで働くよりも、かなり高額であるということに。
マリアは給金の四分の一を仕送りにしようと決めていたが、その金額が彼女の育った村では高額な仕送りになるということに気付くのは、もう少し先のことになる。
「マリア。預金と仕送りがしたいなら、明日の昼休みに近くの銀行と郵便局に行こう。だから、急いで昼ご飯を食べるんだよ。
私が一緒に行ってやるからね」
ぶっきらぼうな話し方をするアンだが、今ではマリアにとって面倒見のいい先輩になっていた。
「ありがとうございます。初めての給金で、まだお金の管理に慣れていないので助かります」
マリアは家事手伝いや農家の仕事の手伝いくらいしかやったことがなかったので、高額な現金を手にしたのは生まれて初めてだったのだ。
「いいよ。アンタはまだ王都の生活に慣れてないから、盗まれたり悪い奴に騙されて詐欺とかに遭いそうだからね。
そうなる前に、実家に送金するか銀行に預けてしまった方がいい」
「はい。そうします!」
早速、翌日の昼休みにアンと一緒に銀行に行き、給金の半分を預けることにした。
その後に郵便局に行き、給金の四分の一を実家に送金する。残りの四分の一はマリアにとってはかなり大金であったが、手元に残して小遣いにすることにした。
◇◇
給料日後の休日である今日は、アンに休みを合わせてもらい、二人で買い物に来ている。
マリアには給金の四分の一を手元に残し、小遣いにしてまで、どうしても買いたい物があったからだ。
「マリア。今日は化粧品とシャンプー、服と靴とバッグを買いに行きたいんだよね?
私のお勧めの店があるから、黙ってついて来な」
「アンさん。私は王都の街をよく知らないので、本当に助かります。よろしくお願いします」
王都育ちのアンは店に詳しいらしく、若い女の子向けの可愛い店に案内してくれる。
アンが連れて行ってくれた店は、さすが国一番の都市の店だけあって、売っているものは流行の最先端の物ばかりだ。ただ、値段はそれなりにするので、田舎で農作業の手伝いをしていた頃には手を出せなかっただろう。
しかし今のマリアは下っ端とはいえ、公爵家の使用人としてそこそこ稼いでいる。芋臭い田舎者と言われるのは嫌だったし、元恋人に見下されたことも悔しかった。だから、新しい自分に変わるために思い切って買い物をすることにしたのだ。
マリアは、アンや店員さんに見立ててもらったワンピースや靴などを買った後、化粧品などを取り扱う店に来ている。
その店でマリアは少々奮発して、化粧品と人生で初めて見るシャンプーとトリートメントを買うことにした。
マリアのクルクルの天パを見たアンが、髪のお手入れをすれば、少しはマシになるかもしれないと教えてくれたからだ。
貧しい実家では、髪の毛のお手入れにお金と手間をかけるという感覚はなかった。今まで色々な人に馬鹿にされ続けてきた髪が、少しでもマシになればいいと思い、店員さんのお勧めするシャンプーとトリートメントを購入することにした。
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