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08 父からの手紙
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仕事を始めて一ヶ月が経過した頃、マリアはメイド長の執務室に呼ばれていた。
メイド長から何を言われるんだろう……?
自分なりに真面目に働いていたつもりだったけど、何か怒られるのかな?
職場の偉い人からの呼び出しに緊張していたマリアだったが、メイド長から伝えられたのは意外なことであった。
「マリア。先日、奥様の命令で貴女の実家に公爵家から使いを出しました。
その時、貴女のご両親から手紙を預かってきたらしいので、これを貴女に渡しておきます」
メイド長は少し黄ばんだ色の封筒をマリアに渡してくる。封筒には決して綺麗とは言えない字で〝マリアへ〟と書かれている。この字は間違いなく父の字であると分かった。
最低限の読み書きしか出来ないはずの父から手紙をもらうなんて、人生で初めてのことだと思う。
しかし、それよりも気になったのは……
「奥様の命令で、使者の方が私の実家に行かれたのですか?」
「ええ……。奥様は、マリアはお嬢様を破落戸から助けてくれた命の恩人だからと、お礼の品を貴女の実家に届けるようにと命じられました」
奥様の気遣いは嬉しかったが、あんな遠くの何もない田舎に行かされた使者の方には、大変申し訳ないとマリアは感じていた。
「ところでマリア。その使者から聞いたのだけど、貴女は公爵家で働くことを実家に知らせていなかったの?
貴女の家の場所が分からなかったので、村長に案内してもらいながら家に行ったら、貴女の家族にかなり驚かれたと報告を受けたわよ」
なかなか郵便局に行く暇がなくて、手紙を出せたのは先週の休日だった。
マリアの村には郵便局はなく、手紙を出すには隣町まで行かなくてはならない。そんな村なので、手紙が届くのもとても時間がかかるのだ。もしかしたら、先週出した手紙はまだ届いていなかった可能性もある。
「手紙は先週出したのですが、郵便局が近くにない不便な田舎の村なので、まだ届いていなかったのかもしれません。
使者の方にはご迷惑をお掛けしました」
「奥様の命令で行かされたのだから、マリアが気にする必要はないわよ。
それと貴女……、結婚する予定があるの?」
マリアはメイド長の一言を聞いて、一瞬にして気まずい気持ちになっていた。
あの父と母のことだから、使者の方に何か余計なことを言ったのだろう。両親に出した手紙には、テッドは別に好きな人が出来たので別れることになったと書いておいたのだが、両親がまだその手紙を読んでいなかったとしたら、自分達が別れたことを知らない可能性がある。
「えっと……、両親は何か勘違いしているのかもしれません。私は結婚する予定は今のところありませんし、もしかしたら一生独身かもしれないです」
マリアはメイド長に恋人に捨てられたとは言い出せず、誤魔化すことにした。
「まだ若いのだから、結婚は焦らなくてもいいと思うわ。もし結婚が決まって仕事を辞めるような時は、早めに知らせるようにしてちょうだい。
でも、結婚しても仕事を続ける人は沢山いるから、マリアにも続けて欲しいわ。
洗濯場で真面目に一生懸命やっていると報告を受けているのよ。これからもしっかり働いてちょうだい」
「はい! 頑張ります」
厳しいおばちゃんが沢山いる洗濯場だが、一生懸命やっていると報告してくれたことは嬉しかった。結婚は無理そうだけど、これからも洗濯場で頑張ろうと思ったマリアだった。
◇◇
マリアは寝る前に、父からの手紙を開封している。
『なかなか連絡が来なかったから心配していた。
村長が豪華な馬車に乗った人をうちに案内してきた時は、父さんも母さんもビックリしたぞ。
公爵家なんて凄い所で働けて良かったな。
テッドも貴族の護衛騎士になりたがっていたから、そこで働けるようにマリアから頼んでやったらいい。いずれ夫婦になるのだから、一緒に働けたらいいと思うんだ。
頑張りなさい』
離れて暮らす父からの手紙に、少しは感動するかもしれないと期待したマリアだったが、一瞬で最悪な気分になり、手紙をそっと閉じてしまった。
そして、里帰りをするのは年単位でしばらくやめておこうと思ったのであった。
メイド長から何を言われるんだろう……?
自分なりに真面目に働いていたつもりだったけど、何か怒られるのかな?
職場の偉い人からの呼び出しに緊張していたマリアだったが、メイド長から伝えられたのは意外なことであった。
「マリア。先日、奥様の命令で貴女の実家に公爵家から使いを出しました。
その時、貴女のご両親から手紙を預かってきたらしいので、これを貴女に渡しておきます」
メイド長は少し黄ばんだ色の封筒をマリアに渡してくる。封筒には決して綺麗とは言えない字で〝マリアへ〟と書かれている。この字は間違いなく父の字であると分かった。
最低限の読み書きしか出来ないはずの父から手紙をもらうなんて、人生で初めてのことだと思う。
しかし、それよりも気になったのは……
「奥様の命令で、使者の方が私の実家に行かれたのですか?」
「ええ……。奥様は、マリアはお嬢様を破落戸から助けてくれた命の恩人だからと、お礼の品を貴女の実家に届けるようにと命じられました」
奥様の気遣いは嬉しかったが、あんな遠くの何もない田舎に行かされた使者の方には、大変申し訳ないとマリアは感じていた。
「ところでマリア。その使者から聞いたのだけど、貴女は公爵家で働くことを実家に知らせていなかったの?
貴女の家の場所が分からなかったので、村長に案内してもらいながら家に行ったら、貴女の家族にかなり驚かれたと報告を受けたわよ」
なかなか郵便局に行く暇がなくて、手紙を出せたのは先週の休日だった。
マリアの村には郵便局はなく、手紙を出すには隣町まで行かなくてはならない。そんな村なので、手紙が届くのもとても時間がかかるのだ。もしかしたら、先週出した手紙はまだ届いていなかった可能性もある。
「手紙は先週出したのですが、郵便局が近くにない不便な田舎の村なので、まだ届いていなかったのかもしれません。
使者の方にはご迷惑をお掛けしました」
「奥様の命令で行かされたのだから、マリアが気にする必要はないわよ。
それと貴女……、結婚する予定があるの?」
マリアはメイド長の一言を聞いて、一瞬にして気まずい気持ちになっていた。
あの父と母のことだから、使者の方に何か余計なことを言ったのだろう。両親に出した手紙には、テッドは別に好きな人が出来たので別れることになったと書いておいたのだが、両親がまだその手紙を読んでいなかったとしたら、自分達が別れたことを知らない可能性がある。
「えっと……、両親は何か勘違いしているのかもしれません。私は結婚する予定は今のところありませんし、もしかしたら一生独身かもしれないです」
マリアはメイド長に恋人に捨てられたとは言い出せず、誤魔化すことにした。
「まだ若いのだから、結婚は焦らなくてもいいと思うわ。もし結婚が決まって仕事を辞めるような時は、早めに知らせるようにしてちょうだい。
でも、結婚しても仕事を続ける人は沢山いるから、マリアにも続けて欲しいわ。
洗濯場で真面目に一生懸命やっていると報告を受けているのよ。これからもしっかり働いてちょうだい」
「はい! 頑張ります」
厳しいおばちゃんが沢山いる洗濯場だが、一生懸命やっていると報告してくれたことは嬉しかった。結婚は無理そうだけど、これからも洗濯場で頑張ろうと思ったマリアだった。
◇◇
マリアは寝る前に、父からの手紙を開封している。
『なかなか連絡が来なかったから心配していた。
村長が豪華な馬車に乗った人をうちに案内してきた時は、父さんも母さんもビックリしたぞ。
公爵家なんて凄い所で働けて良かったな。
テッドも貴族の護衛騎士になりたがっていたから、そこで働けるようにマリアから頼んでやったらいい。いずれ夫婦になるのだから、一緒に働けたらいいと思うんだ。
頑張りなさい』
離れて暮らす父からの手紙に、少しは感動するかもしれないと期待したマリアだったが、一瞬で最悪な気分になり、手紙をそっと閉じてしまった。
そして、里帰りをするのは年単位でしばらくやめておこうと思ったのであった。
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