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10 変化

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「マリア! 最近、何だか可愛くなったんじゃないかい?
 肌も髪も綺麗になったし、体も女の子らしくなってきたように見えるよ」

 マリアは仕事の休憩時間に洗濯場のおばちゃん達と一緒にお茶を飲んでいた。そんな時、おばちゃん達から綺麗になったとお褒めの言葉をかけてもらったのだが……

「私もそう思っていたんだよ。言葉は悪いが、前はクセが強くて痛んだような髪の毛だったけど、今は艶々していて綺麗な金髪だし、ふんわりとした髪はカールでも巻いたみたいでなかなか可愛いよ。前は三つ編みしかしなかったのに、ハーフアップも似合うね。
 化粧っ気もなかったのにねぇ。今は薄化粧していて、少し大人っぽくなったように見えるね。
 マリア……、恋人でも出来たのかい?」

 アンが一癖も二癖もあると言っていた洗濯場のおばちゃん達だが、今では世間話を楽しく出来るくらいには仲良くなっていた。愛嬌があって、真面目で素直なマリアは、扱いの難しいおばちゃん達に受け入れられていたのだ。
 そんなおばちゃん達は、マリアの変化にすぐに気付く。
 初めての給金で買った化粧品でお肌のケアをし、奮発して買ったシャンプーとトリートメントで髪のお手入れをするようになったマリアは前よりも随分とマシな見た目になっていた。
 実家で農業の手伝いをしていた頃と違って、紫外線を浴びることが少なくなっていたので、肌は白くなっていたし、質のいい食事はお肌の調子を良くしてくれただけでなく、貧相なマリアの体型を女らしい魅力的な体に変えてくれたのだ。
 おばちゃん達は些細なことであっても、よーく見ているのである。

 しかしマリアは、恋人が出来たのではなく恋人にこっぴどく振られて変わりたいと思っただけで、おばちゃん達に報告出来るような良い話なんて全くなかった。

「恋人なんて出来るわけないじゃないですか。
 出逢いなんてないですし、今はこうやって働いている方が楽しいから恋人なんていりませんよ。
 実は給金が出たので、初めてシャンプーとトリートメントを買うことが出来たのです!
 実家にいる時は田舎の貧乏な農家だったんで、自由に使えるお金がなかったのです。でも今は美味しい食事の出る寮に住まわせてもらって、給金で自分の欲しい物が買えるから、それだけで幸せなんです!」

「マリア。アンタは若くて可愛いんだから、恋人がいらないなんて寂しいことを言うのは勿体無いよ。
 まあ、普段は女子寮で生活していて、職場はババアばかりの洗濯場だからね……
 出逢いが少ないのは仕方ないか」

「あっ! それなら、明日は騎士団の寮に手伝いに行く日だから、マリアが行けばいいんじゃないか?
 朝早く出勤しなくちゃならないけど、その分、早く仕事は終わるし、寮にいる騎士から寝具を回収しなくちゃならないから、いい出逢いがあるかもしれないよ!」

 公爵家は騎士団を持っていて、広い敷地内には騎士団の寮もあるらしい。
 週に一度の寝具交換の日は、騎士団の洗濯場が忙しいらしく、マリアの所属している邸の洗濯場からも手伝いに行っている。
 今までは、ベテランのおばちゃんが二、三人で手伝いに行っていたので、新人のマリアは行ったことはなかったのだが……

「私にはまだ無理です。それに私は騎士が苦手で、あまり関わりたくないので、騎士団の寮に行くのはちょっと……」

 自分を裏切った元恋人は騎士だったこともあり、マリアは騎士という職業の人に苦手意識を持っていたのだ。
 平民の中で、カッコよくて高給取りの騎士という職業はとてもモテる。だから自分みたいなパッとしない田舎娘は、彼らとは関わってはいけないのだと思っていた。

「マリアは騎士に振られたことでもあるのかい?」

「い、いえ……。そんなことはないです。ただ騎士はモテますよね?
 モテる人達は自分と住む世界が違うなぁって思って、少し苦手なんです」

 人生経験の豊富なおばちゃんの勘はとても鋭いようだ。

「そうだったのかい。でも公爵家で働く騎士は、子爵家や男爵家の次男や三男なんかが多いらしいが、優秀な平民も沢山いるみたいだよ。
 貴族出身の騎士は注意した方がいいけど、平民の騎士はいいと思うんだ。公爵家の騎士になるのはかなり難しいから、みんな有望でカッコいいんだよ」

 マリアは平民の騎士の中の一人に振られたのだが、楽しそうに話をするおばちゃん達にそのことを言うことは出来なかった。

 結局、お節介で強引なおばちゃん達を止めることは出来ず、マリアは騎士団の寮に手伝いに行くことになってしまったのであった。
 
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