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6 逃げる (改)

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俺の足元で椅子と仲良くおねんねしている浜中から、俺のスマホを取り返し確認すると画面は真っ黒


「いやいや、今日のために充電は満タンのはずだぞ。なんで真っ黒………もしかして……信じたくないけど………壊れてる?………………【ときまほ💗】出来ないじゃんっっ!! 夏イベどうしてくれるんだよー!!」


必死に色々いじくり回したけど電源が入らない。

最悪 夏イベは諦めるとして、異世界もののストーリーの中にスマホやタブレットが使える異世界小説があったから、もしかしたら使えるかもと思っていたけど 全く反応しない。


「………くううう、スマホは諦めるしかないか……とりあえず現状を把握しないと、ここはどこだろう?」


360度ぐるりと回りを見回してみたけど俺達を召喚した人物が誰もいない。


これは世界の危機が迫った時に神の力で自動的に召喚されたって感じなのかな?

ーーってことは、待ってればここにお迎えが来るってこと?

それじゃあ 予定通り世界を救う主人公に物語を任せて 俺は逃げよう!!



地面の魔法陣は少しずつ光を失いつつも、ここに召喚された勇者がいることを周りに知らせている。


時間がない。今すぐここから逃げなくちゃ!

魔法陣の外へ一歩踏み出した途端、急に体が重くなって頭がクラっとする。


「やべ、乗り物酔いみたいになってる…気持ち悪い…なんでだ?」


ふらつきながら近くの大きな木まで やっとたどり着く。

木に寄りかかって立つのが精一杯だった。


なんだよこれ、もしかして時空酔い?! 召喚酔い?! めちゃくちゃ具合が悪い。
とにかくこの場所から逃げなくちゃ駄目だ。


よろけながら木から木へと伝い歩きをして魔法陣から逃げる。


このところの異世界ブームで小説、漫画、アニメで情報を熟知している俺には この後の展開は手にとるようにわかっている。

異世界に召喚されてた主人公は もれなく全員面倒事に巻き込まれて苦労しまくる。

勇者にならなくても、特殊能力に目覚めたりして、こき使われるなんてものもある。

そんなお約束は絶対イヤだ。

幸い召喚された主人公は浜中で モブの俺には全く関係ない。

でも浜中と一緒にここでお迎えを待っていたら、ずる賢い浜中のことだ。

なんだかんだ自分に都合良く話をして、嫌なことや面倒なことは全部俺に押し付けるに決まっている。

あいつはそういう奴だ。

そんなことされてたまるか。

勇者のお前が責任持ってミッションをクリアしてくれ。

クリアすれば元の世界に帰れるはずだから頑張ってくれよ。

その間 俺はモブとしてこの世界を観光して楽しませてもらうからさ。


一歩進むごとに重くなる体を無理やり動かす。


1cm 1mmでも離れてやる!


歩くけど体が鉛のように重たい…もう駄目だ。


立って歩けない。


寄りかかった木の下にズルズルと座り込んでしまった。



「はぁ、はぁ、ここまで来ればもう大丈夫……」



言葉に出して自分に言い聞かせても、具合の悪さが不安を掻き立てる。


「こんなところじゃ駄目だ。」


そこから四つん這いになって少しでも前に進む。




べしゃりと顔から倒れ、起き上がることが出来ない。




「もっと…遠くに…」





生まれてはじめてやる匍匐前進ほふくぜんしんは なかなか進まず、体が泥だらけになっていくだけ。




くそっ、こんなに必死に手足を動かしているのに!! なんで進まないんだよ。






「はやく…逃げる………んだ…」





目の前がだんだん暗くなって俺は意識を手放した。







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