超能力者の私生活

盛り塩

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第54話 病室にて、

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「宝塚ざ~~~~ん!!!!」

 目を覚ますと涙でグショグショになった菜々ちんが私に抱きついてきた。
 白いパイプベッドに点滴の管、側には見舞いのバナナが山ほど置いてある。
 どうやらここは病院のようだ。

「え……と、これは……??」

 甲子園のサイレンのように泣きわめく菜々ちんの後ろ、私の様子を観察していた医者に話しかける。

「ああ、キミは気を失ってここに運ばれて来たんだよ。かれこれ三日間は眠っていたかな?」
「……三日……?」

 私はボヤケた記憶を思い起こした。

 あ~~……、アレがこうなって、ああなって、こうなって……。
 ああ、なるほどそれでこうなっているのか?
 記憶を整理して、泣きじゃくりながら私を抱きしめる菜々ちんに納得がいった。

「ここはJPA御用達の特別病棟だからね、安心していいよ。キミの身体の事情は理解しているから」
「……楠隊員はどうなったんですか?」

 自分の記憶と菜々ちんの様子から大体のことは想像出来た。

「楠彩花だね? 問題ないよ。今はまだ検査入院してもらっているが元気だ。……話を聞いた限りでは信じられない事だけれどね」

 どうやら本当にこの医者は全てを理解しているらしい。
 そうか、元気か。
 私は自分の手を見つめ、あの時の光景を思い出す。
 もはや人の形ですら無くなった者でも回復させることが出来たのか……。
 マンション襲撃の時といい今回といい、私は本当にとんでもない能力の持ち主らしい。

「楠彩花の身体の事もそうだけど、本当に信じられないのはベヒモス化までもが治まっているという事だね」
「え?」
「いやぁ、我々も過去の事例では読んだことがあったが、まさか本当にベヒモス化を解く能力者が存在したなんてね。キミいま、JPA関連の間じゃあちょっとしたヒーローだよ。あいや、ヒロインか」

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはとベッドの頭に掲げてある私の名札を指差して笑うヤブ医者。
 ようし、いい度胸だ。
 死ぬ子先生には不発に終わったが、今一度私の吸引能力を試してみようじゃないか?

「宝塚さん!! 私……私、ホントになんてお礼を言ったらいいのか!!」

 菜々ちんがあらためてお礼を言ってくる。
 大粒の鼻水をぶら下げながら。

「わ、私、わたじ……ほんとは楠先輩に死なれたくなくて……でも、どうしようもなくて……逃げ出したくって、ひっく、逃げれなくて、ひっく……動けなくて、見てられなくて……信じられなくってぶあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁん……」

 いっきに涙が吹き出る。
 私は彼女をそっと抱きしめて、

「いいよ、私も偶然能力が使えただけだから。……菜々ちんこそ怪我は無かった?」

 鼻をフガフガさせる。
(ええ匂いやぁ~~~~)

 それはともかく、私は彼女の身体の心配をする。
 というのも菜々ちんも患者用の入院着を来ていたからだ。
 顔色も良くないし、何だが痩せてる気もする。

「ええ、ぐすん……私は大丈夫です。ちょっと体力を消耗しただけですから」

 そう言って頭を振る菜々ちん。
 しかし医者が困った顔で私を見て、

「いや、今回一番ダメージを負っているのは死者二名以外では彼女ともう一人」

 私の対面にあるベッドを指差した。
 そこには、げっそりと頬をこけさせた百恵ちゃんが恨めしげにこちらを睨んで座っていた。

「――――げぇっ!? も、百恵ちゃん……!??」
「この三日、点滴を打ち続けて二人ともでかなり回復したがね。ここに運ばれて来た時には脈が止まる寸前だったんだよ」

 ヤブ医者が苦笑いで教えてくれた。

「……いよぅ宝塚ヒロインよ、ようやく目が覚めたか」

 そう言う彼女の腕には点滴が刺さっており、ただでさえ大きかったクマがより濃く大きくなっている気がする。

 そうか、そうだった。
 私は彼女たちから、足りないぶんの精力を吸い取って能力を使ったんだった。 

 マンションの時のヤツ(名前は忘れた)は干からび、絶命してしまった。
 それとおそらく同じような量の精力を、二人で分担してもらったとはいえ吸い取ったのだ、彼女たちの負担は相当なものだったのだろう。

 百恵ちゃんのジト目が突き刺さる。
 いかん、ただでさえ嫌われているのにますます険悪なムードになりそうだ。

「あ……あの~~ごめんなさい……」

 ごまかし笑い、謝る私。
 彼女は不機嫌なまま、片眉だけをピクリと上げる。

「む……何を謝っているのだ?」
「え? ……いや、だって……私のせいでそんな目にあったんだから」

 すると彼女は目を吊り上げて、

「おい、なんだそれは!! 勝者の嫌味か!???」
「へ? 勝者??」
「そうだ、あの場であのベヒモスに対抗できたのはお前一人だった!! それだけでも吾輩の自尊心はボロボロだったと言うのに、お前はそのうえ楠彩花を蘇生させ、さらにベヒモス化すら鎮静させのだぞ!! そんな無茶苦茶な功績……もはや完敗の一言で片付けられるものではないわ!!」

 声を荒げ、悔しさを隠さない百恵ちゃん。
 彼女は自分の体力を吸われたのが気に入らないんじゃない。
 活躍を持っていかれたのが無念なのだ。

「はい、大西所長もすごく評価していましたよ!!」
 そこにすかさず菜々ちんがとどめを刺す。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
 ゴロゴロと転がり回り、海老反りになって耳を塞ぐ百恵ちゃん。

「所長だけではありません、死ぬ子先生や訓練学校、JPASの人達、それにあの片桐さんも宝塚さんのことを英雄扱いしていますよ」
「い? いやいや、そんな英雄とか大袈裟な」

 私がテレて謙遜すると、

「大袈裟なものかぁ~~~~~~!! 貴様は自分のやらかしたのデカさを全く理解していないぞっ!!!!」

 と、海老反りのまま百恵ちゃんが叫んだ。
 そしてそれに同調するように病室の扉が勢いよく開き、

「そのとーーーーーーーーーーりっ!!!!」

 元気よく入ってきたのはいつものナース服に身を包んだ死ぬ子先生だった。
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