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第53話 ベヒモス⑨
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自らのファントム結界を当てて相手の能力を封じた私。
かなり無茶な自爆攻撃だが、しかし不死身の私ならこんな戦法もアリ、いや、これしか無かったのだ。
あとは私が押さえているうちに誰かが――――、
「……無茶なやり方を!! しかしでかしたぞヒロインよっ!!」
すかさず腕を振り上げ部下に合図を送る百恵ちゃん。
はっとして銃を構え直す隊員さんたち。
私は巻き添えを食らわないように、かつ結界を作用させるべく素早く身を離し、足だけで彼女を固定し仰向けに倒れた。
体が密着している以上、これでも結界は作動するはずだ!!
それを理解したJPASの皆さんは今度こそと、一切に引き金を引き絞った。
ダララララララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
バシィッバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!
着弾と同時に結界が反応する。
楠隊員の瞬間移動をキャンセルしている証だ!!
同時に、落雷にでも撃たれたような痛みが走るが、背中の肉を裂かれるよりは全然マシな痛み!! 瞬間移動による回避行動を防がれた彼女は、その全身に集中砲火を受ける事になる。
ダララララララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
全身に穴が空き、肉が飛び、腕が壊れた人形のように踊り、引き裂かれる。
銃弾の一発二発程度なら問題ないベヒモスの身体だが、全身の組織を破壊するほどの一斉掃射ならば話は別だ。
やがて全ての弾を打ち尽くし、制止がかかる。
銃弾の豪雨に晒された楠隊員の上半身は、その肉をほほ失い、まるで噛じられた一本の枝のように原型を留めていなかった。
しゅうぅぅぅぅぅ……。
全身から蒸気を発し私は回復する。
今回もかなりのダメージを受けたからな……回復と言っても精気はもうほとんど尽きかけている。
どしゃりと倒れかかってくる楠隊員の上半身。
完全に活動を停止したのだろう。もう動く気配は無くなっていた。
生暖かい彼女の体液が体に染みてくる。
ここで彼女も元は人間だったことをあらためて感じた。
私は精根尽き果て朦朧とする意識の中、泣きじゃくりながら楠隊員に駆け寄り、その骸へと追い縋る菜々ちんと、感嘆と敗北感が入り混じった複雑な表情で歩み寄ってくる百恵ちゃんを眺めていた。
「う……う、うぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ……先輩……せんぱぁ……ぃ」
「ぐぅ……だ、大丈夫か……ヒロインよ……」
二人の顔を見て、私はある可能性に気が付いた。
いや、私が気が付いたのか『私のファントム』が気が付いたのかはわからない。
とにかく私はほとんど無意識に二人の手を掴むと、自然に能力を行使する。
菜々ちん、百恵ちゃんが不思議に私を見る。
「……む?」
「宝塚さん……?」
手の結び目が黄金の光に包まれる。
――――と、二人の精力が私に流れ込んできた。
「あ……あぁ、あ……??」
「む……な、何をする!???」
問いかけを無視して、私はひたすらに彼女らの精気を吸収する。
やがて二人から十分な精力を吸収した私は、続けて胸に倒れ込んでいる楠隊員の骸を抱きしめた。
パァァァァァァァ――――。
今度は彼女の体が光に包まれる。
同時に私の体から例の雪だるまのようなファントムが滲み出て、短い手を天にかざすような仕草をすると光が一層強くなった。
「あ……あぁ……ぁ」
それを見て菜々ちんが信じられないといった顔をし、
「な……これ……は!??」
百恵ちゃんが驚きに目を丸くする。
他のJPASの隊員たちも皆、同じようにその奇跡の光景を言葉もなく見つめていた。
光に包まれた楠隊員の骸は、まるで花のツボミのように一度塊になり、そして徐々に輪郭が形作られていく。
やがてそれは楠彩花の姿を形取り――――、静かに光が収まった。
残ったのは私の胸の中で静かに寝息を立てる楠彩花と、目を見開いたまま涙を流し続ける菜々ちん。圧倒的な奇跡に言葉を失った百恵ちゃんと、他隊員達だった。
私はまた、そのまま力尽き、気を失ってしまった。
「いやぁ~~こりゃあホント凄い能力だねぇ。
聞いているのと実際に見るのとでは迫力が段違いだよ」
古びた商業ビルの屋上で単眼鏡を覗きながら大西所長が大袈裟に驚いている。
「まったくですわね。あの子がベヒモスに襲われてると聞いて、もしかしたらと様子を見に飛んできたけど、これは良いデータだ取れましたわ」
答えたのは、いつものナース姿とは違って黒いビジネススーツに身を包んだ死ぬ子先生。
「どうだね? 鍛えられそうかな?」
「もちろん。……せっかく練った訓練は今回の一件で台無しになりましたけど。でも、それならそれで……そうね、また考え直しますわ」
「ほう? 考え直すとは?」
最恩菜々に泣きつかれ、百恵や他の隊員達に囲まれ眠る宝塚を見下ろし、彼女はしばし思案する。
気を失うほどの能力を解放した場合、余程のベテランでもない限りファントムの制御は難しい。大抵の場合は暴走し、そのままベヒモス化してしまうのが通例なのだが、しかし宝塚の場合、本人は全く制御しようとしている様子が無いにも関わらずファントムは暴れる素振りも見せず、まるで彼女の意志を理解し、それに従うかのような動きを見せた。
「……よほど彼女とファントムの相性が良いのでしょうね」
「だよねぇ。僕もそう思うよ、うらやましいかぎりだよ」
死ぬ子は腕を組み、トントンと額を指で叩くと少し悪戯っぽく笑う。
「では、あの子には例の異常者をぶつけてみましょうか?」
それを聞いた大西は「怖い怖い」と肩をすくめニヤケ顔。
そんな大西に死ぬ子は、
「……どのみち監視官にするつもりだったんでしょ? ならば実戦投入は早いほうがいいわ」
と、踵を返し階下への階段を下りていった。
かなり無茶な自爆攻撃だが、しかし不死身の私ならこんな戦法もアリ、いや、これしか無かったのだ。
あとは私が押さえているうちに誰かが――――、
「……無茶なやり方を!! しかしでかしたぞヒロインよっ!!」
すかさず腕を振り上げ部下に合図を送る百恵ちゃん。
はっとして銃を構え直す隊員さんたち。
私は巻き添えを食らわないように、かつ結界を作用させるべく素早く身を離し、足だけで彼女を固定し仰向けに倒れた。
体が密着している以上、これでも結界は作動するはずだ!!
それを理解したJPASの皆さんは今度こそと、一切に引き金を引き絞った。
ダララララララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
バシィッバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!
着弾と同時に結界が反応する。
楠隊員の瞬間移動をキャンセルしている証だ!!
同時に、落雷にでも撃たれたような痛みが走るが、背中の肉を裂かれるよりは全然マシな痛み!! 瞬間移動による回避行動を防がれた彼女は、その全身に集中砲火を受ける事になる。
ダララララララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
全身に穴が空き、肉が飛び、腕が壊れた人形のように踊り、引き裂かれる。
銃弾の一発二発程度なら問題ないベヒモスの身体だが、全身の組織を破壊するほどの一斉掃射ならば話は別だ。
やがて全ての弾を打ち尽くし、制止がかかる。
銃弾の豪雨に晒された楠隊員の上半身は、その肉をほほ失い、まるで噛じられた一本の枝のように原型を留めていなかった。
しゅうぅぅぅぅぅ……。
全身から蒸気を発し私は回復する。
今回もかなりのダメージを受けたからな……回復と言っても精気はもうほとんど尽きかけている。
どしゃりと倒れかかってくる楠隊員の上半身。
完全に活動を停止したのだろう。もう動く気配は無くなっていた。
生暖かい彼女の体液が体に染みてくる。
ここで彼女も元は人間だったことをあらためて感じた。
私は精根尽き果て朦朧とする意識の中、泣きじゃくりながら楠隊員に駆け寄り、その骸へと追い縋る菜々ちんと、感嘆と敗北感が入り混じった複雑な表情で歩み寄ってくる百恵ちゃんを眺めていた。
「う……う、うぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ……先輩……せんぱぁ……ぃ」
「ぐぅ……だ、大丈夫か……ヒロインよ……」
二人の顔を見て、私はある可能性に気が付いた。
いや、私が気が付いたのか『私のファントム』が気が付いたのかはわからない。
とにかく私はほとんど無意識に二人の手を掴むと、自然に能力を行使する。
菜々ちん、百恵ちゃんが不思議に私を見る。
「……む?」
「宝塚さん……?」
手の結び目が黄金の光に包まれる。
――――と、二人の精力が私に流れ込んできた。
「あ……あぁ、あ……??」
「む……な、何をする!???」
問いかけを無視して、私はひたすらに彼女らの精気を吸収する。
やがて二人から十分な精力を吸収した私は、続けて胸に倒れ込んでいる楠隊員の骸を抱きしめた。
パァァァァァァァ――――。
今度は彼女の体が光に包まれる。
同時に私の体から例の雪だるまのようなファントムが滲み出て、短い手を天にかざすような仕草をすると光が一層強くなった。
「あ……あぁ……ぁ」
それを見て菜々ちんが信じられないといった顔をし、
「な……これ……は!??」
百恵ちゃんが驚きに目を丸くする。
他のJPASの隊員たちも皆、同じようにその奇跡の光景を言葉もなく見つめていた。
光に包まれた楠隊員の骸は、まるで花のツボミのように一度塊になり、そして徐々に輪郭が形作られていく。
やがてそれは楠彩花の姿を形取り――――、静かに光が収まった。
残ったのは私の胸の中で静かに寝息を立てる楠彩花と、目を見開いたまま涙を流し続ける菜々ちん。圧倒的な奇跡に言葉を失った百恵ちゃんと、他隊員達だった。
私はまた、そのまま力尽き、気を失ってしまった。
「いやぁ~~こりゃあホント凄い能力だねぇ。
聞いているのと実際に見るのとでは迫力が段違いだよ」
古びた商業ビルの屋上で単眼鏡を覗きながら大西所長が大袈裟に驚いている。
「まったくですわね。あの子がベヒモスに襲われてると聞いて、もしかしたらと様子を見に飛んできたけど、これは良いデータだ取れましたわ」
答えたのは、いつものナース姿とは違って黒いビジネススーツに身を包んだ死ぬ子先生。
「どうだね? 鍛えられそうかな?」
「もちろん。……せっかく練った訓練は今回の一件で台無しになりましたけど。でも、それならそれで……そうね、また考え直しますわ」
「ほう? 考え直すとは?」
最恩菜々に泣きつかれ、百恵や他の隊員達に囲まれ眠る宝塚を見下ろし、彼女はしばし思案する。
気を失うほどの能力を解放した場合、余程のベテランでもない限りファントムの制御は難しい。大抵の場合は暴走し、そのままベヒモス化してしまうのが通例なのだが、しかし宝塚の場合、本人は全く制御しようとしている様子が無いにも関わらずファントムは暴れる素振りも見せず、まるで彼女の意志を理解し、それに従うかのような動きを見せた。
「……よほど彼女とファントムの相性が良いのでしょうね」
「だよねぇ。僕もそう思うよ、うらやましいかぎりだよ」
死ぬ子は腕を組み、トントンと額を指で叩くと少し悪戯っぽく笑う。
「では、あの子には例の異常者をぶつけてみましょうか?」
それを聞いた大西は「怖い怖い」と肩をすくめニヤケ顔。
そんな大西に死ぬ子は、
「……どのみち監視官にするつもりだったんでしょ? ならば実戦投入は早いほうがいいわ」
と、踵を返し階下への階段を下りていった。
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