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19話
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★アルベルト視点
彼との食事に舞い上がって、俺は彼への配慮をすっかり忘れていた。失態だった。
見え透いた嘘を口にして去ろうとする彼に、俺は我を忘れて引き止めた。彼をこのまま逃したら、もう会えない気がして必死だった。
バランスを崩した彼を抱き止めると、あの青い瞳と目が合い。俺の鼓動が高鳴る。
かなり強引ではあるが、俺の屋敷で食事を…という流れに持ち込んで、逃がさないように彼の手首に掴んだまま屋敷までの道を歩いた。
途中、菓子店に寄らせて欲しいと彼は願ったので入ったが、隙をついて俺から逃げ出すのではないかと不安になり、入口の扉の前に立って彼の様子を伺い見たが、それはただの杞憂で、どうやら屋敷に招いた事への手土産を買う為だったようだ。
手土産に焼き菓子…。
俺は甘いものは苦手なんだが…好きそうに見えたのか?それとも彼自身の好みで選んだのか?
どちらにせよ、彼からの気遣いの手土産は有難く頂くとしよう。
屋敷に着くと、フリオとイネスが出迎えに来た。
俺が彼を連れ帰った事に2人は酷く驚いていたが、それはさして不思議ではない。俺が自分の屋敷に招くのは、大体が騎士団の気の知れた同僚や部下と幼馴染みで親友のエンリケぐらいだ。
かつて婚約寸前までいった伯爵令嬢ですら招いた事はない。
イネスに食事の用意を頼むと、満面の笑顔で引き受けると同時にさり気なく脇腹を抓ってきた。
「やっと身を固める気になったんですねぇ」
「それは…イネス…なんと言うか…まだ彼は…その、なんだ」
肯定も否定も出来ずにいると、全部言わなくていいから自分に任せろと小声で告げて彼へと声をかけに近寄って行った。すると、今度はフリオが小声で俺に言ってきた。
「旦那様が、ついに伴侶となる方をお連れに…感無量でございます…」
「お前まで…まだ彼とは…」
「みなまで仰らなくても、このフリオ…全てお見通しでございます。男の方でも全く問題ございません。私めにお任せ下さいませ」
お前たち2人、連れ帰っただけで何故そうなる…。確かに将来的に伴侶になれたらいいとは思うが…まだそんな関係にもなってないというのに。
そりゃ、下心が無いって事は無い。自分でも頭がおかしいんじゃないかって思うぐらい下心はある。だが、今は一緒に食事して話をしたいだけなんだが…。
で、2人して何を任せろと言うんだ…。
うちの使用人たちは、節度もあり仕事ぶりも優秀だが、たまに俺に対して遠慮がなくなる。そしてたまに暴走する。俺が家族同然に扱っていて、それを是としている俺のせいもあるのだが…。
「先程のお土産は焼き菓子なので、グティエレス様の奥方様とお子様にお渡し頂けますか?」
彼の言葉に、一瞬呆然とした。
俺は妻帯者として見られていたらしい…。
確かに年齢的に妻帯者とみなされてもおかしくはないが…。
イネスとフリオが何も言ってなかったのかとばかりに呆れ返った目で俺を見ると同時に、彼にとって俺を恋愛対象とは見ていない事に気づいて小さな溜息を吐かれた。
むしろそれに気づかされた俺が1番溜息を吐きたい。
冷静になって考えてみれば、それは当たり前だ。
今日会ったばかりのましてや同性である男…それも17も歳上のオッサンを最初から恋愛対象に見れる筈もない。
「ドーン君、いないんだ…」
「外出中ですか?」
「あ、いや。そうでなくて…。俺は独身で未だかつて結婚はした事はないし、子供もいない」
「これは失礼致しました。それではどうぞ皆様でお食べ下さい」
何故か俺が妻帯者でないと知ると彼はがっかりしたようだ。
何をがっかりしたのか、さっぱりわからん…。
彼を居間に案内して少し落ち着いたところで、屋敷に住むのはどうかと提案してみた。家を買うとは言っていたが、資金はあっても直ぐに買えるというものではないし、それまで宿屋に滞在させるのは妙な虫が彼に寄ってくるんじゃないかと心配になる。
虫に横から掻っ攫われるのは、まっぴらごめんだ。
しかし、俺に仕える気はないと、あっさりと断られてしまった…。仕えて欲しいとは全く思っていないから、間借りでもいいと言うと、反対に貴族としての体面について諭され断られてしまう有様…。
なかなか手強い。
俺のテリトリーに囲ってしまうには、どうすればいいのか…。
ふと移住する手続きには、職に就いていなければならない事を思い出す。
職の話を振ってみる事にした。
案の定、顔の火傷の痕を気にしてまともな職には就けないだろうと俺に悲しげに告げた。
悲しげな彼に追い打ちをかけるつもりは無いが、移住の条件を告げると彼は表情を曇らせ黙り込んで考え始める。
「何か他に得意な事があるといいんだが…」
「そうですね…簡単な狩りか植物を育てるぐらいしか…」
アデリア聖殿の周りは森が多い。
彼が住んでいた村も森の中であったのかもしれない。
森の中で狩りをしていたのだろう…。
「植物?植物に詳しいのかっ?!」
今、うちの庭園には問題がある…。
森で暮らしていたなら、街暮らしの者よりは詳しい筈だ。庭師とはまた違った視点で見ると何かの手掛かりがあるかもしれない…。
「旦那様っ!」
フリオも同じ事を思ったのだろう。フリオが近寄ってきて耳打ちしてきた。
「ドーン様に庭園を見て頂いては…。見る目が違えば何かしらわかるかも知れません」
「それは俺もそれは思った。駄目元で見てもらうか…。トマスとマリアに話をしておいてくれ」
彼との食事に舞い上がって、俺は彼への配慮をすっかり忘れていた。失態だった。
見え透いた嘘を口にして去ろうとする彼に、俺は我を忘れて引き止めた。彼をこのまま逃したら、もう会えない気がして必死だった。
バランスを崩した彼を抱き止めると、あの青い瞳と目が合い。俺の鼓動が高鳴る。
かなり強引ではあるが、俺の屋敷で食事を…という流れに持ち込んで、逃がさないように彼の手首に掴んだまま屋敷までの道を歩いた。
途中、菓子店に寄らせて欲しいと彼は願ったので入ったが、隙をついて俺から逃げ出すのではないかと不安になり、入口の扉の前に立って彼の様子を伺い見たが、それはただの杞憂で、どうやら屋敷に招いた事への手土産を買う為だったようだ。
手土産に焼き菓子…。
俺は甘いものは苦手なんだが…好きそうに見えたのか?それとも彼自身の好みで選んだのか?
どちらにせよ、彼からの気遣いの手土産は有難く頂くとしよう。
屋敷に着くと、フリオとイネスが出迎えに来た。
俺が彼を連れ帰った事に2人は酷く驚いていたが、それはさして不思議ではない。俺が自分の屋敷に招くのは、大体が騎士団の気の知れた同僚や部下と幼馴染みで親友のエンリケぐらいだ。
かつて婚約寸前までいった伯爵令嬢ですら招いた事はない。
イネスに食事の用意を頼むと、満面の笑顔で引き受けると同時にさり気なく脇腹を抓ってきた。
「やっと身を固める気になったんですねぇ」
「それは…イネス…なんと言うか…まだ彼は…その、なんだ」
肯定も否定も出来ずにいると、全部言わなくていいから自分に任せろと小声で告げて彼へと声をかけに近寄って行った。すると、今度はフリオが小声で俺に言ってきた。
「旦那様が、ついに伴侶となる方をお連れに…感無量でございます…」
「お前まで…まだ彼とは…」
「みなまで仰らなくても、このフリオ…全てお見通しでございます。男の方でも全く問題ございません。私めにお任せ下さいませ」
お前たち2人、連れ帰っただけで何故そうなる…。確かに将来的に伴侶になれたらいいとは思うが…まだそんな関係にもなってないというのに。
そりゃ、下心が無いって事は無い。自分でも頭がおかしいんじゃないかって思うぐらい下心はある。だが、今は一緒に食事して話をしたいだけなんだが…。
で、2人して何を任せろと言うんだ…。
うちの使用人たちは、節度もあり仕事ぶりも優秀だが、たまに俺に対して遠慮がなくなる。そしてたまに暴走する。俺が家族同然に扱っていて、それを是としている俺のせいもあるのだが…。
「先程のお土産は焼き菓子なので、グティエレス様の奥方様とお子様にお渡し頂けますか?」
彼の言葉に、一瞬呆然とした。
俺は妻帯者として見られていたらしい…。
確かに年齢的に妻帯者とみなされてもおかしくはないが…。
イネスとフリオが何も言ってなかったのかとばかりに呆れ返った目で俺を見ると同時に、彼にとって俺を恋愛対象とは見ていない事に気づいて小さな溜息を吐かれた。
むしろそれに気づかされた俺が1番溜息を吐きたい。
冷静になって考えてみれば、それは当たり前だ。
今日会ったばかりのましてや同性である男…それも17も歳上のオッサンを最初から恋愛対象に見れる筈もない。
「ドーン君、いないんだ…」
「外出中ですか?」
「あ、いや。そうでなくて…。俺は独身で未だかつて結婚はした事はないし、子供もいない」
「これは失礼致しました。それではどうぞ皆様でお食べ下さい」
何故か俺が妻帯者でないと知ると彼はがっかりしたようだ。
何をがっかりしたのか、さっぱりわからん…。
彼を居間に案内して少し落ち着いたところで、屋敷に住むのはどうかと提案してみた。家を買うとは言っていたが、資金はあっても直ぐに買えるというものではないし、それまで宿屋に滞在させるのは妙な虫が彼に寄ってくるんじゃないかと心配になる。
虫に横から掻っ攫われるのは、まっぴらごめんだ。
しかし、俺に仕える気はないと、あっさりと断られてしまった…。仕えて欲しいとは全く思っていないから、間借りでもいいと言うと、反対に貴族としての体面について諭され断られてしまう有様…。
なかなか手強い。
俺のテリトリーに囲ってしまうには、どうすればいいのか…。
ふと移住する手続きには、職に就いていなければならない事を思い出す。
職の話を振ってみる事にした。
案の定、顔の火傷の痕を気にしてまともな職には就けないだろうと俺に悲しげに告げた。
悲しげな彼に追い打ちをかけるつもりは無いが、移住の条件を告げると彼は表情を曇らせ黙り込んで考え始める。
「何か他に得意な事があるといいんだが…」
「そうですね…簡単な狩りか植物を育てるぐらいしか…」
アデリア聖殿の周りは森が多い。
彼が住んでいた村も森の中であったのかもしれない。
森の中で狩りをしていたのだろう…。
「植物?植物に詳しいのかっ?!」
今、うちの庭園には問題がある…。
森で暮らしていたなら、街暮らしの者よりは詳しい筈だ。庭師とはまた違った視点で見ると何かの手掛かりがあるかもしれない…。
「旦那様っ!」
フリオも同じ事を思ったのだろう。フリオが近寄ってきて耳打ちしてきた。
「ドーン様に庭園を見て頂いては…。見る目が違えば何かしらわかるかも知れません」
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