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第44話 王宮からの逃飛行
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「じゃ、卒業パーティで国王陛下がヴェルダートルのイレーネ嬢にエシャール王妃のいじめを追及したんですか?」
「ええ、国王陛下がまだ王太子だったときにね。王妃は当時ヴェルダートル公爵家の足元にも及ばないしがない男爵家の令嬢だったのよ」
それではまるで乙女ゲームの断罪イベントではないですか?
私はミンディの話を聞いてこの偶然に戦慄しました。
ミリアに詳しくストーリーを聞いてなかったのですが、乙女ゲームということは、私やミリアが『ヒロイン』である話もそういうエピソードが入っていただろうし、たしか、サラ様に聞いたルルージュ公爵が滅びたいきさつも似たような形でした。
この偶然をどう解釈すべきか?
今回のもめごとといかにかかわっているのか?
考え込んでいると、バルコニーの方から何かがコツコツと当たる音が聞こえました。
「なんだろう?」
フォーゲル先生が窓の方に近づきました。
外が暗くてわかりにくかったのですが人影です。
「君は!」
フォーゲル先生が驚きながら窓を開け、外の人物を招き入れました。
「待たせたね、みんな」
サラ先輩です。
「迎えに来たよ、リーニャ。私と一緒に王宮を出よう」
目を丸くする私にサラ様はそう言いました。
サラ様は王宮の状況を大まかに説明してくれました。
ブリステル家がかけられている『謀反』の疑いの内容。
ティオは実はハーフエルフであり、滅ぼされたヴェルダートルの血も引いていた。
彼とフェリシアが新たな王家の立ち上げを画策し現王家を滅ぼそうとしている。
さらに、王太子によると、王宮に何かまがまがしいものが漂い、それで人々の精神が少しおかしくなっている。
ざっとこんなものでしょうか。
あまりの急展開に男爵とは名ばかりのド平民の私はついていけません。
「窓が開くとわかっていながら君たちは逃げなかったんだね」
サラ様が指摘しました。
「ああ、状況がわからないまま逃げ出すのは得策じゃないと思ったからね」
「私は逆に逃げ出すように誘いをかけられているのだと思っていたわよ。それに乗って逃亡したら、明確な罪に問えない私たちも『共犯』扱いできるものね」
フォーゲル先生とミンディはわかっていたようです。
全くわかってなくて、今気づいたのは私だけでしたか、ショック……。
「それにしてもずいぶん発想を飛躍させたものね。フェリシアとハーフエルフの子の接近をもとに『謀反』のいいがかりなんて」
ミンディが率直な感想を述べました。
「ああ、国王夫妻の恐れは理解できないこともないが、少々過剰な気がする。ヴァイスハーフェンも滅ぼしたそうな言い方だったし……」
「それこそ、バカじゃないの! 公爵家は血のスペアであると同時に王家を守る盾。それでなくてもすでに三つ滅んであと二つしかないのに」
「私はこれからブリステル邸に飛んで忠告するつもりだ。呼び出しに応じて家族全員で王宮に行けば殺される、と。君たちのところに立ち寄ったのは、エルフ王が話された内容を外に漏らさないために、口封じされる恐れもあったからさ。ついてくるかい?」
サラ様は私たち三人に打診しました。
「そういうことなら行くわ。ことは王都全体を巻き込む内乱になるかもしれない。クルーグ家の者たちにも事態を知らせたいしね。もちろん私は愛弟子のフェリシアの側につくわ」
「ああ、生徒の危機を見過ごすわけにはいかない」
「私も行きます!」
私たち三名の同意を聞くとサラ様はバルコニーに私たちをいざないました。
「ここから風の『飛翔』でブリステル家まで飛ぶ。四人もいるからね、私の魔力で行くとギリギリなんだが、補助を頼めるかい?」
「私は風得意です。サラ殿の飛翔の勢いを手助けしましょう」
フォーゲル先生がサポートを申し出ました。
「そうか、で、この二人は、リーニャはもちろん『飛翔』の魔法は知らないし……」
「サラ殿と私でお二方を抱えていきましょう」
「じゃ、私は軽そうなミンディを抱えていくから、先生はリーニャの方をお願いできますか?」
ガーン!
重そうな私は力のある先生が抱えるという話です。
私だって小柄な体型なのにミンディってどんだけ華奢なの。
そういえば、ペルティナも子猫を思わせるような、華奢でしなやかな感じの女子でした。
「じゃあ、つかまって。大丈夫、サラ殿は飛翔魔法の名手だ。僕も補助するし、しがみついていればあっという間にブリステル邸までつくからね」
フォーゲル先生に横抱きにされ私は先生の首に手をまわしてしがみつきました。
これって俗にいうお姫様抱っこというものでは?
と、いうのは今は考えないでおきましょう。
「よし、行くよ!」
サラ様とフォーゲル先生が私たちを抱えてバルコニーからジャンプし、そのまま上昇気流に乗って、王宮の上を越えました。途中何度も樹木のてっぺんに着地をしてはまた弾みをつけてジャンプ。
そして、とある大きな屋敷、これがブリステル邸らしいですが、そこまで確かにあっという間につきました。
しかし私たちはすぐに屋敷前には着地せず、近くの林の木の上から一帯を俯瞰しました。
「すでに衛兵たちに囲まれているな」
サラ様が言いました。
庭の木々が密集した、外を囲んでいる衛兵たちからは見えにくいところに、私たちは着地しました。
「敷地内ならプリュムも飛ばせそうだ」
サラ様は使いの魔法鳥にメッセージを込めてブリステル家の人の元に飛ばしました。
しばらく待っているとフェリシアが侍女と一緒にやってきました。
「皆様、よくここまで!」
「とりあえず状況を知らせたい、中に入ってもいいかい?」
もちろんです、と、フェリシアは言い私たちを邸内に招き入れてくれました。
【作者メモ】
タイトルの「逃飛行」は「逃避行」と間違えているわけではないですよ。
「ええ、国王陛下がまだ王太子だったときにね。王妃は当時ヴェルダートル公爵家の足元にも及ばないしがない男爵家の令嬢だったのよ」
それではまるで乙女ゲームの断罪イベントではないですか?
私はミンディの話を聞いてこの偶然に戦慄しました。
ミリアに詳しくストーリーを聞いてなかったのですが、乙女ゲームということは、私やミリアが『ヒロイン』である話もそういうエピソードが入っていただろうし、たしか、サラ様に聞いたルルージュ公爵が滅びたいきさつも似たような形でした。
この偶然をどう解釈すべきか?
今回のもめごとといかにかかわっているのか?
考え込んでいると、バルコニーの方から何かがコツコツと当たる音が聞こえました。
「なんだろう?」
フォーゲル先生が窓の方に近づきました。
外が暗くてわかりにくかったのですが人影です。
「君は!」
フォーゲル先生が驚きながら窓を開け、外の人物を招き入れました。
「待たせたね、みんな」
サラ先輩です。
「迎えに来たよ、リーニャ。私と一緒に王宮を出よう」
目を丸くする私にサラ様はそう言いました。
サラ様は王宮の状況を大まかに説明してくれました。
ブリステル家がかけられている『謀反』の疑いの内容。
ティオは実はハーフエルフであり、滅ぼされたヴェルダートルの血も引いていた。
彼とフェリシアが新たな王家の立ち上げを画策し現王家を滅ぼそうとしている。
さらに、王太子によると、王宮に何かまがまがしいものが漂い、それで人々の精神が少しおかしくなっている。
ざっとこんなものでしょうか。
あまりの急展開に男爵とは名ばかりのド平民の私はついていけません。
「窓が開くとわかっていながら君たちは逃げなかったんだね」
サラ様が指摘しました。
「ああ、状況がわからないまま逃げ出すのは得策じゃないと思ったからね」
「私は逆に逃げ出すように誘いをかけられているのだと思っていたわよ。それに乗って逃亡したら、明確な罪に問えない私たちも『共犯』扱いできるものね」
フォーゲル先生とミンディはわかっていたようです。
全くわかってなくて、今気づいたのは私だけでしたか、ショック……。
「それにしてもずいぶん発想を飛躍させたものね。フェリシアとハーフエルフの子の接近をもとに『謀反』のいいがかりなんて」
ミンディが率直な感想を述べました。
「ああ、国王夫妻の恐れは理解できないこともないが、少々過剰な気がする。ヴァイスハーフェンも滅ぼしたそうな言い方だったし……」
「それこそ、バカじゃないの! 公爵家は血のスペアであると同時に王家を守る盾。それでなくてもすでに三つ滅んであと二つしかないのに」
「私はこれからブリステル邸に飛んで忠告するつもりだ。呼び出しに応じて家族全員で王宮に行けば殺される、と。君たちのところに立ち寄ったのは、エルフ王が話された内容を外に漏らさないために、口封じされる恐れもあったからさ。ついてくるかい?」
サラ様は私たち三人に打診しました。
「そういうことなら行くわ。ことは王都全体を巻き込む内乱になるかもしれない。クルーグ家の者たちにも事態を知らせたいしね。もちろん私は愛弟子のフェリシアの側につくわ」
「ああ、生徒の危機を見過ごすわけにはいかない」
「私も行きます!」
私たち三名の同意を聞くとサラ様はバルコニーに私たちをいざないました。
「ここから風の『飛翔』でブリステル家まで飛ぶ。四人もいるからね、私の魔力で行くとギリギリなんだが、補助を頼めるかい?」
「私は風得意です。サラ殿の飛翔の勢いを手助けしましょう」
フォーゲル先生がサポートを申し出ました。
「そうか、で、この二人は、リーニャはもちろん『飛翔』の魔法は知らないし……」
「サラ殿と私でお二方を抱えていきましょう」
「じゃ、私は軽そうなミンディを抱えていくから、先生はリーニャの方をお願いできますか?」
ガーン!
重そうな私は力のある先生が抱えるという話です。
私だって小柄な体型なのにミンディってどんだけ華奢なの。
そういえば、ペルティナも子猫を思わせるような、華奢でしなやかな感じの女子でした。
「じゃあ、つかまって。大丈夫、サラ殿は飛翔魔法の名手だ。僕も補助するし、しがみついていればあっという間にブリステル邸までつくからね」
フォーゲル先生に横抱きにされ私は先生の首に手をまわしてしがみつきました。
これって俗にいうお姫様抱っこというものでは?
と、いうのは今は考えないでおきましょう。
「よし、行くよ!」
サラ様とフォーゲル先生が私たちを抱えてバルコニーからジャンプし、そのまま上昇気流に乗って、王宮の上を越えました。途中何度も樹木のてっぺんに着地をしてはまた弾みをつけてジャンプ。
そして、とある大きな屋敷、これがブリステル邸らしいですが、そこまで確かにあっという間につきました。
しかし私たちはすぐに屋敷前には着地せず、近くの林の木の上から一帯を俯瞰しました。
「すでに衛兵たちに囲まれているな」
サラ様が言いました。
庭の木々が密集した、外を囲んでいる衛兵たちからは見えにくいところに、私たちは着地しました。
「敷地内ならプリュムも飛ばせそうだ」
サラ様は使いの魔法鳥にメッセージを込めてブリステル家の人の元に飛ばしました。
しばらく待っているとフェリシアが侍女と一緒にやってきました。
「皆様、よくここまで!」
「とりあえず状況を知らせたい、中に入ってもいいかい?」
もちろんです、と、フェリシアは言い私たちを邸内に招き入れてくれました。
【作者メモ】
タイトルの「逃飛行」は「逃避行」と間違えているわけではないですよ。
応援ありがとうございます!
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