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第33話 駐屯騎士団 ~ユリア(ミリア)目線~

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 私の名はユリア・ポーラスと言います。

 現在いることろは国防のかなめともいえる場所。

 王宮の背後を中心に、国全体を馬蹄形に覆っているドウンケルヒンターの森。

 その北の中心部に魔物を狩る騎士が常駐する駐屯騎士団。
 隣にはそんな彼らを支えるため、魔物を倒す武器等を研究開発しているダイネハーフェン公爵家が運営する研究所と医療施設。

 私はそこで見習い治療師として働きながら学んでいます。

 私には過去の記憶がありません。 
 家族全員を魔物に殺され、その恐ろしい体験から記憶喪失になったと聞きました。
 
 だから自分の名前も覚えてなかったのですが、ユリア・ポーラスだと周囲の人々が教えてくれました。家族の中でただ一人助かった私は、保護された施設で治療師としての才能を見出され現在研修中というわけです。

 怪我や病気の治療には、六属性の魔法、それぞれに役割があります。

 火ー温める、冬季に遭難したり、氷雪魔法を使う魔物にやられたりした者に使う
 水ー患部の洗浄、および、冷やす、発熱している人や、火傷を負った人に使われる
 土ー固める、出血のひどい怪我をできだけ早く固めて血を止める
 風ーばらす、じくじくした傷口を乾かしたりする
 光ー消毒、内科疾患においては悪い個所を透視
 闇ー睡眠、手術の際の暗幕、感覚を鈍らせる効果もあるので痛み止めにも使える

 以上のように、属性ごとに役割が異なります。

 治癒魔法というのは、医師の指示に従い適切な属性魔法を施すという段階を超えて、自動的にその患者に必要な属性の治癒効果を与えられるものです。

 それを身に着けるには、たくさんの医学知識と経験がなければなりません。

 もちろん私はまだその域に達していませんので、今は医者の診断に従って、それにふさわしい効果の属性の魔法を患者となった騎士たちに施しています。

「おーい、こいつの治療頼む!」

 やってこられましたね。

 毎日定期的に周辺を見回って魔物を狩る騎士様たち。

 回る場所や標的に応じてグループ分けがなされ、複数人で魔物に当たります。

 今の季節は新人騎士が多く、新人さん一人に対し必ず熟練騎士が一人以上ついて、討伐に当たります。

 腕に覚えのある新人さんが多いですが、経験や魔物についての知識が乏しく、引き際を誤って負傷することも多いのです。

「死なない程度の負傷ならそれも経験になる」

 熟練騎士は新米騎士にそう言い聞かせます。

 今日担ぎ込まれたのは、無骨で荒っぽい見た目の方が多いこの駐屯地では珍しく、目を見張るように秀麗なお顔をした私と同じ年代の少年でした。
 私と同年代の赤い髪をしたがっしりとした少年が付き添って言いました。

「大丈夫ですか、殿下!」
 
 殿下?
 
 いぶかっている私に、医師がまず患部の洗浄と消毒をせかします。

 私は言われた通り、水魔法で処置を施しました。

「殿下はやめろっていっただろう」

 負傷した少年は言いました。

「失礼しました。エミール……、様」
「様もいらん、ついでにいうと敬語もいらん。僕たちは同輩だ、バルドリック」

 消毒などを終えると、私はついでに負傷した少年の、血の付いた金髪を洗浄しました。

「ありがとう。えっと、君、どこかで会ったことないか?」

 患者の少年が私に話しかけました。

 きれいな碧玉色の瞳ですね。

「おいおい、女口説けるとは、怪我してるけど元気じゃねえか!」

 熟練騎士のセイダさんが彼の頭を軽くぺしっと叩いてからかいました。

「違いますよ、そういう意味じゃ……」

 エミールと呼ばれた少年は言い訳しました。

「まあ、美人は似るというからな。おおかた城で見た誰かと面差しが似ているってとこじゃないのか」

 セイダさんが言いました。

 彼の治療が終わると、また次の患者の処置に呼ばれます。
 その場にいた三名にお辞儀をして、私はその場を離れました。

 けが人の治療が終わると私たちも一息付けます。
 休憩所でお茶を飲んでいたのですが、熟練治療師のヨナスさんがこぼしました。

「この時期、新人のけがの治療も多いのだけど、今年は特に多いねえ」

 そうなのですか、と、私が聞くと、彼女はさらに話をつづけました。

「ああ、いつもの二倍さ。あの指導の達人のセイダさんですら、ついていた新人に怪我させているからね。彼だからこそ、王子の指導を任せていたのに」
「王子なのですか、さっきの方は?」
「第二王子のエミールさまさ。表向きは、国を守るために自ら志願し修行に来た、となっているけど、その前に公爵令嬢との婚約が解消されたり、中央じゃいろいろあったんだろうね」

 ヨナスさんは情報通です。
 この駐屯地に似つかわしくない風貌の方は王子様だったのですね。

「じゃあ、殿下と呼んでいた赤毛の方は家臣かなにかですか?」
「あれは騎士団長の息子さ。あの子もうわさじゃ公爵令嬢に無礼を働いてここに飛ばされたって」
「……」
「ここじゃ、王子だのなんだのって関係なく魔物を倒すだけだけどね。だから、かなりの美男子だけど入れ込んじゃダメだよ」

 その忠告はヨナスさんなりの親切でしょうか?
 確かにあまりの美しさに見とれてしまったことは確かですが。

 彼らのお姿を拝見して何かもやもやしたものが残ったのは事実です。

「騎士たちがこぼしていましたよ。最近エルフから提供される情報が少なくて、魔物退治にてこずることが多いって」

 私たちの会話を聞いていた別の治療師アキハさんが会話に入ってきました。

 魔物の多いこの森ですが人間の味方がいないわけではありません。
 ミューレア王妃と同じエルフの一族は、人間に好意的で魔物が出没する場所や弱点などをよく教えてくれます。それが討伐の役に立っていたのですが、最近それが減っていて、だから、けが人がよく出るらしいのです。

「一度森の東南のエルフの集落に足を延ばして状況を確かめてきた方がいいんじゃないかって意見も出ているそうですよ」

 森の中での芳しくない変化、この時はまだ自分たち治療師には関係のないことだと考えておりました。
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