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第25話 ジグムント王太子と階段落ち
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「やあ、サラ。せっかくの休みだし夜は外で一緒に食事をと思ってね」
受付前に見目麗しい貴公子が立っておられました。
「王太子殿下!」
サラ様の声に後ろからついてきた私もびっくりしました。
王太子殿下はエミール殿下と同じ髪や目の色をされていますが、弟君に比べると見た目や物腰はもう少し柔和な感じがします。
「サラ、いつも言っているだろう。二人の時は『ジーク』でいいって」
その……、サラ様に隠れて小柄な私が見えなかったのでしょう。
後ろにいた私の姿を確認すると、殿下は少しきまり悪そうに微笑まれました。
何はともあれ、お二人の親しさの度合いがわかるというものです。
悪役令嬢といえば、その婚約関係は冷たいものと相場はきまっていますが、今の様子からはとてもそうには思えません。
「すいません、殿下。まだ少し仕事が残っていて……。そうだ、お手数ですがリーニャを寮まで送ってやっていただけないでしょうか? 話が長引いてつい遅くなってしまったので……」
サラ会長、何を言ってくれちゃっているのですか?
私を王太子殿下に送らせる?
そんな恐れ多いことを!
日が落ちるのが早い晩秋の季節、フォーゲル先生にも言われてましたし、薄暮の時間帯に私を一人で返すよりは、と、気を利かせたのでしょうが……。
「わかったよ、リーニャ君だっけ、行こうか。彼女を送って帰ってきたら、君はまだここにいるんだよね」
サラ会長に確認した後、王太子殿下は私を促して外に出ました。
うわああっ!
王族の使う馬車ですよ!
こんな機会、おそらく一生に一度でしょう。
生きた心地がしないけど夢見心地な状態で、体はしっかり硬直しながら学生寮までの道のりを馬車でドライブさせていただきました。
寮の入り口の門に王宮の馬車が停まると、そりゃ、目立つのでしょう。
玄関の方まで出てきて見に来た人もいたりして……。
その中でも、えっ、ミリア?
もしかして私が乗っているのがわかった?
どうして?
馬車を降りて玄関まで送ってくださる王太子殿下と一緒に歩いてきた私に走りよってきました。
「リーニャ、今日はどうしたの?」
いつもの調子で走り寄ろうとした途中で、私のそばにいるのがエミール王子ではないということに気づいたようです。
「じゃ、僕はここで」
私を玄関まで送ると、王太子殿下は再び馬車に乗りサラ様のところへ引き返していきました。
「いまのは?」
ミリアが私に尋ねました。
「えっと、今日はサラ会長に呼ばれて街に行っていて、帰りに王太子殿下に送っていただいたの……」
少し苦しい説明を私はしました。
「王太子殿下、今のが……」
なぜ一人で出かけたのか?
なぜサラ会長に呼ばれたのか(嘘)?
そして、どういう経緯で王太子殿下に送っていただいたのか?
質問されそうな事がいろいろあって私も身構えたのですが、ミリアは少しぼうっとしているようでした。
放心しているミリアに私はいつも通りに話しかけました。
彼女としゃべるのは久方ぶりです。
夕食後の自由時間にそれとなく、ミリアが言っていたゲームの内容と現実の違う点、例えばサージェス副会長の件とかを例に出しながら、ゲームの通りに人が動いたりするわけがない、と、いうことを主張していきました。
ミリアは小さく、わかった、と、返事をしました。
その日以降、私たちは前と同じようになりました。
私としては、ミリアも理解してくれたのだろうと解釈していたのです。
そんなある日、教室の私の机の引き出しに一通の手紙が入っていました。
『お話がありますので、放課後東の塔へ通じる階段上までご足労願えないでしょうか。必ず一人でお願いいたします。フェリシア・ブリステル』
何の話でしょう?
ミリアも手紙をのぞき込み、どうするの、と、聞きました。
噂なら否定したし、生徒会室に立ち寄れないエミール殿下との接点も、最近はめっきり減ってきていますが?
「とりあえず行ってみる。ミリアは先に生徒会室に行ってて」
もとは王宮だった建物を改装して建てられた学園の校舎の東には、物見に使われていた塔に通じる長い階段があります。下の廊下は東の校舎に通じる廊下になっているので、それなりに人が通りますが、一気に三階まで昇れる長い階段の一番上の踊り場のあたりはめったに人が来ません。
私は踊り場のところでフェリシアを待ちました。
そしてしばらくすると彼女がやってきましたが、私に意外なことを聞きました。
「あの、リーニャさん、いったい何の御用ですか?」
えっ、呼び出したのはあなたでしょ?
しかしフェリシアはポケットから、私の名で呼び出された手紙を見せました。
どういうこと?
二人で首をかしげていると、めったに人の来ない踊り場にまた誰かが来ました。
ミリアでした。
やはり心配して見に来てくれたのでしょうか?
事態がよく呑み込めないこともあってか、私はミリアに近づいて事情を説明しようとしました。しかし、ミリアは無言で私の胸を思いきり突いたのです。
えっ?
私はバランスを崩して宙に投げ出されました。
そしてミリアの叫び声が聞こえます。
「きゃーっ! フェリシア嬢がリーニャを!」
人がわらわらと集まってきました
下に転落した私は腰と背中を強く打ち、衝撃で口がきけず意識がもうろうとします。
「な、なにを言ってらっしゃるの!」
フェリシアがうろたえてミリアに問いかけます。
言ったもの勝ちとはよく言ったもので、集まった人たちは踊り場にいるフェリシアに非難のまなざしを向けました。
受付前に見目麗しい貴公子が立っておられました。
「王太子殿下!」
サラ様の声に後ろからついてきた私もびっくりしました。
王太子殿下はエミール殿下と同じ髪や目の色をされていますが、弟君に比べると見た目や物腰はもう少し柔和な感じがします。
「サラ、いつも言っているだろう。二人の時は『ジーク』でいいって」
その……、サラ様に隠れて小柄な私が見えなかったのでしょう。
後ろにいた私の姿を確認すると、殿下は少しきまり悪そうに微笑まれました。
何はともあれ、お二人の親しさの度合いがわかるというものです。
悪役令嬢といえば、その婚約関係は冷たいものと相場はきまっていますが、今の様子からはとてもそうには思えません。
「すいません、殿下。まだ少し仕事が残っていて……。そうだ、お手数ですがリーニャを寮まで送ってやっていただけないでしょうか? 話が長引いてつい遅くなってしまったので……」
サラ会長、何を言ってくれちゃっているのですか?
私を王太子殿下に送らせる?
そんな恐れ多いことを!
日が落ちるのが早い晩秋の季節、フォーゲル先生にも言われてましたし、薄暮の時間帯に私を一人で返すよりは、と、気を利かせたのでしょうが……。
「わかったよ、リーニャ君だっけ、行こうか。彼女を送って帰ってきたら、君はまだここにいるんだよね」
サラ会長に確認した後、王太子殿下は私を促して外に出ました。
うわああっ!
王族の使う馬車ですよ!
こんな機会、おそらく一生に一度でしょう。
生きた心地がしないけど夢見心地な状態で、体はしっかり硬直しながら学生寮までの道のりを馬車でドライブさせていただきました。
寮の入り口の門に王宮の馬車が停まると、そりゃ、目立つのでしょう。
玄関の方まで出てきて見に来た人もいたりして……。
その中でも、えっ、ミリア?
もしかして私が乗っているのがわかった?
どうして?
馬車を降りて玄関まで送ってくださる王太子殿下と一緒に歩いてきた私に走りよってきました。
「リーニャ、今日はどうしたの?」
いつもの調子で走り寄ろうとした途中で、私のそばにいるのがエミール王子ではないということに気づいたようです。
「じゃ、僕はここで」
私を玄関まで送ると、王太子殿下は再び馬車に乗りサラ様のところへ引き返していきました。
「いまのは?」
ミリアが私に尋ねました。
「えっと、今日はサラ会長に呼ばれて街に行っていて、帰りに王太子殿下に送っていただいたの……」
少し苦しい説明を私はしました。
「王太子殿下、今のが……」
なぜ一人で出かけたのか?
なぜサラ会長に呼ばれたのか(嘘)?
そして、どういう経緯で王太子殿下に送っていただいたのか?
質問されそうな事がいろいろあって私も身構えたのですが、ミリアは少しぼうっとしているようでした。
放心しているミリアに私はいつも通りに話しかけました。
彼女としゃべるのは久方ぶりです。
夕食後の自由時間にそれとなく、ミリアが言っていたゲームの内容と現実の違う点、例えばサージェス副会長の件とかを例に出しながら、ゲームの通りに人が動いたりするわけがない、と、いうことを主張していきました。
ミリアは小さく、わかった、と、返事をしました。
その日以降、私たちは前と同じようになりました。
私としては、ミリアも理解してくれたのだろうと解釈していたのです。
そんなある日、教室の私の机の引き出しに一通の手紙が入っていました。
『お話がありますので、放課後東の塔へ通じる階段上までご足労願えないでしょうか。必ず一人でお願いいたします。フェリシア・ブリステル』
何の話でしょう?
ミリアも手紙をのぞき込み、どうするの、と、聞きました。
噂なら否定したし、生徒会室に立ち寄れないエミール殿下との接点も、最近はめっきり減ってきていますが?
「とりあえず行ってみる。ミリアは先に生徒会室に行ってて」
もとは王宮だった建物を改装して建てられた学園の校舎の東には、物見に使われていた塔に通じる長い階段があります。下の廊下は東の校舎に通じる廊下になっているので、それなりに人が通りますが、一気に三階まで昇れる長い階段の一番上の踊り場のあたりはめったに人が来ません。
私は踊り場のところでフェリシアを待ちました。
そしてしばらくすると彼女がやってきましたが、私に意外なことを聞きました。
「あの、リーニャさん、いったい何の御用ですか?」
えっ、呼び出したのはあなたでしょ?
しかしフェリシアはポケットから、私の名で呼び出された手紙を見せました。
どういうこと?
二人で首をかしげていると、めったに人の来ない踊り場にまた誰かが来ました。
ミリアでした。
やはり心配して見に来てくれたのでしょうか?
事態がよく呑み込めないこともあってか、私はミリアに近づいて事情を説明しようとしました。しかし、ミリアは無言で私の胸を思いきり突いたのです。
えっ?
私はバランスを崩して宙に投げ出されました。
そしてミリアの叫び声が聞こえます。
「きゃーっ! フェリシア嬢がリーニャを!」
人がわらわらと集まってきました
下に転落した私は腰と背中を強く打ち、衝撃で口がきけず意識がもうろうとします。
「な、なにを言ってらっしゃるの!」
フェリシアがうろたえてミリアに問いかけます。
言ったもの勝ちとはよく言ったもので、集まった人たちは踊り場にいるフェリシアに非難のまなざしを向けました。
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