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36 嵐到来

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未だ夢に見るほど怯えている運命の番は、何とか現れていない。

先週末には神社にお祓いに行って、御守りを買って、「一ノ瀬さんに運命の番が現れませんように」ってお祈りもしてきた。


一ノ瀬さんは相変わらず僕を好きだと言ってくれるし、仕事ではお客さんの態度もいつも通り素っ気ないままだ。
もう慣れたけど。
まぁ、おばちゃんたちは普段と同じように接してくれるので、全く問題ない。


そんな平和な日々を満喫していた時のこと、、、

「あっ、やっぱり蘭丸じゃん。」

・・・・嵐が突然訪れた。
食堂にやってきて、唐突に僕を指差して来たのは、恵(めぐむ)。
僕の短大時代の友達にして、勇士くんの運命の番・・・・僕に最大級のトラウマを植え付けておきながら、ごめんの一言もなかった、あの・・恵だ。


「久しぶり~。」
「・・・・・・・・オヒサヒブリデス。」

僕が関わりたくないオーラを出しても、気付かず「何で敬語w?」とか言って笑っている。

というか、恵は何でここにいるんだろう。
頭で疑問に思っただけなのだが、恵がご親切にも自ら説明してくれた。


「いやー、ここの社長がパパの知り合いの人なんだけど、社会経験のためにこの間から秘書見習いしてるんだ~。
オメガなんだから、別に働く必要なんてないってパパに言ったんだけど、何事も経験!とか言われて、ほんと嫌になっちゃうよね~。」

恵の父親はどっかの企業の社長をしてるため、同じオメガでも僕と違って超裕福だ。
オメガは家庭に入ってこそ幸せって考えの持ち主でもある。

でも、、、ということは、勇士くんとはまだ結婚していないということか。
以前のBBQではプライベートなことは一切聞かなかった。
なんか聞いたら負けな気がしたし、未だに気にしてると思われるのも悔しかったから。

だけど、幸せいっぱいの今なら聞ける。
自分の心に余裕があるときは、人にも優しくできるのだ。


「勇士くんとは順調?」


聞いた!!聞いちゃった!!
自分でもそんなストレートに聞けると思ってなくて驚きだ。


「あーー、まぁね。結婚はもうちょっと先って話なんだ。
ほらっ、まだ若いし遊びたいじゃん?」

「そっか。」

二人のことを聞いても全く心が騒(ざわ)つかない自分に驚く。
聞いたら、絶対嫌な気持ちになると思っていたけど、驚くほどに凪だ。

今なら本当に、運命の番おめでとう。って言える気すらする。
絶対に言わないけど。


「そんなことより!僕アジフライ定食取りに来たんだった。社長が食べたいって言うからさっ、社長室に運ばないと!」


どうやらいつもの秘書さんの代わりにアジフライ定食を取りに来たらしい。

僕はサッとアジフライを揚げると、熱々ホカホカの定食を恵に手渡したのだった。

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