雨宮課長に甘えたい

コハラ

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佐伯リカコの本心

《8》

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「先生、酔ったんですか?」

黙ったままの先生に訊いた。

「いや」と呟いて、先生は何かを考えているよう。

一体何を考えているのだろう? 拓海さんが映画の脚本を書いたと言ったら、急に先生の様子が変わった気がする。

「中島さん、先生はこうなっちゃうとどうしようもないのよ。ふぐちり食べましょう」

今日子さんに言われた。

今私たちの前には熱々のふぐちり鍋が運ばれて来た。
もうコースは最後の方。

ふぐのプリプリの身が美味しい。
締めの雑炊も楽しみ。

拓海さんも楽しんでいるかな?
拓海さんの方を見ると、いつの間にか席にいなかった。隣の佐伯リカコも。

二人だけでこっそり抜けたような気がして、嫌な予感がする。

「ちょっとお手洗い行ってきます」

お箸を置いて、今日子さんにことわってから席を立った。

とりあえずお手洗いに行くけど、佐伯リカコの姿はなさそう。
拓海さんの姿も見かけない。

二人はどこに?

もしかして、お店の外?

そう思った時、廊下の突き当りの部屋から男女のひそひそ声がする。

「リカ、大丈夫か? 酔ったのか?」

この声は拓海さん……。

「ごめん。拓海。久しぶりに飲んだら酔いがまわった。一杯ぐらい大丈夫だと思ったんだけど。拓海がいて助かった。佐伯リカコが酔って気持ち悪くなっているなんて、みっともない姿さらせないから」

そしてこのちょっと色気のある声は佐伯リカコ。

拓海さんの事、『拓海』って呼ぶんだ。しかも呼び方が慣れた感じがして胸がキリキリする。

私なんて最近だものね。雨宮課長から拓海さんになったの。

はあー。面白くない。

面白くないと思いながらも、二人の会話に聞き耳を立ててしまう。

「マネージャーの森さんはまだ来ないのか?」
「なんか渋滞に捕まったって」
「タクシーを呼んだ方が早いんじゃないか?」
「じゃあ、拓海がタクシーで送ってよ」
「子どもじゃないんだから、一人で帰れるだろ」
「冷たいのね。恋人でしょ」
「恋人のふりだろ。男とはどうなんだ? ちゃんと別れ話はしてるんだろうな?」

そうよ。どうなってるよ。早く別れてよ。

「気になる?」

気になるに決まってるでしょ!

「大いに気になるね。俺は早くこの茶番を終わりにしたいんだ」

私も茶番を終わりにしたい。

「拓海、好きな人いるの?」
「いるよ。彼女を泣かせたくないんだ。だから早く終わらせたい」

拓海さん……。
私の事を考えてくれているんだ。
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