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第二章 王都
閑話 静かな夜
しおりを挟む「まものって、なんですか?」
「魔物?」
「はい。なぜ、いるのですか」
「それはまた、哲学的な問いかけですね」
「ラウルは、まものはもうじゅうといっしょ、といいました」
「猛獣」
「はい。にゃ…にゃくにく、きょうそ、く…?」
「弱肉強食」
「はい。つよいからよわいもの、たおす、といいました。でも」
「ナガセは違うと思うんですね?」
「はい…わたし、みました、まもの。あれはなんだか…だめです、いやなかんじでした」
「どんな風にダメでしたか?」
「ええと…あの、ひつよう、ではない、うーん、いきる、ためではない、ただ、こわいだけ」
「なるほど…それは、合ってると思います」
「あってる」
「私もそう思います」
「クラウスさまも」
「魔物は生き物とは違う理の中にあるものだと思います。あれは存在してはならない」
「…でもなぜ、いるのでしょう」
「そうか、それでその質問に戻るんですね」
「みんなをくるしめます。そのことに、いみはありますか」
「…ナガセは優しいですね」
「?」
「以前、教会で聞いた説法…お話では、魔物は人の黒い心の現れだと言っていました」
「ひとの、くろいこころ」
「人々の心の闇が生み出すのだと。それが本当なら、魔物がいなくなる日などずっと来ないでしょうね」
「……………じゃあ、へんきょうの、とりでのみんなはしろい、ですね」
「白い?」
「そうです。とりでのみんなは、いつもまもの、たおします。だからみんなくらしています。とりでのみんな、わたしたちをまもる」
「………」
「だから、とりでのみんなはしろい、こころです。ひとの、いいこころ」
「……ふふ、そうですか、砦の兵士たちはとてもそんな心根を持った奴等ではないですけどね」
「みんな、やさしいです。わたしは、ここがすきです」
「それはナガセが一生懸命だからですよ」
「わたし、がんばります」
「十分頑張ってます。あまり無理しないように」
「はい。ありがとうございます」
「ナガセ」
「レオニダスさま」
「閣下、お疲れ様です」
「クラウス、今日は非番か」
「ええ、昨日夜番でしたので」
「そうか、昨晩は魔物が二番砦の辺りに出ただろう。素早く対処できたと報告を受けている。ご苦労だった」
「はっ」
「邪魔したな、ゆっくり休むといい。ナガセ、帰るぞ」
「はい。クラウスさま、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
「あ、クラウスさまこれ、どうぞ」
「?」
「じゃあまた! さよなら!」
* * *
「何貰ったんだ?」
「これは……サンドウィッチ、でしょうか」
「ああ、今日なにやら一生懸命作ってたぞ。俺も少し味見したが美味かった。独り者のお前に気を遣ったのか」
「オーウェン殿もおひとりかと」
「俺はあちこちにいるんだよ」
「それは失礼しました」
「今日は月が明るいですね」
「ま、こういう日は魔物も出ないだろ」
「ええ。ではもう一杯頂けますか」
琥珀の液体が注がれグラスの氷がカランと音を立てる、今夜は静かな夜。
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