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一学期

とある日のテスト返し

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 月日というものはあっという間に流れる。打ち上げボーリングのあとクラスの雰囲気は明らかに柔らかくなった。順がひとりでいる時もクラスの中で緊張感というものが無くなったし、遥たちの周りでひそひそと噂するような人たちもいなくなったのも大きいだろう。
 そして、今日は遥、仁、順にとって大きな大きなイベントが待っていた。全てのテストが返却されたのだ。そして、その結果発表は放課後に行われることになった。

「まぁ、百点満点なんてそうそう取れるようなもんじゃないし、次の期末とかも同じことして盛り上がれるといいんだけどな」
「今、次のことは言うのよしておこうぜ……オレは達成感が半端ねぇんだからよ」
「よし、生徒会の仕事まで時間があまりないからさくさく行こう」

 遥たちの通っている学校では赤点は30点未満となっている。まずは3人の赤点の確認からである。

「俺は赤点はないな……英語が死ぬかと思ったけど何とかなった」
「オレもなんとかなったぜ。平均点以下が3つぐらいあるけど、赤点は回避だぜ」
「僕は言うまでもなく……というといやみに聞こえるか?」

 全員が赤点を回避したことに全員が胸をなでおろす。
 順は遥と遊ぶ時間が確保できたことによる安堵。
 遥はこれで高校最後の夏休みを満喫できるという安堵。
 仁は人生設計としてこんなところでつまずいていられないので、赤点なしは当たり前……2人が赤点を取らなかったことへの安堵である。どちらか一方でも赤点を取るとたぶん、どっちが赤点を取ったとしても取らなかった方は学校へ来ると言い出すことが目に見えていた。

「んで、百点だけど……まぁ、俺はないぞ。あんなん無理だろ」
「僕は社会で何とか1つとれた……まさか百点を取れる日が来るとは思えなかった。そこは本当にありがとう」
「マジかよ」

 ある意味では遥の予想通りの展開である。百点満点を取るのなら仁だと思っていた。

「くっそぉぉぉ……数学98点! オレの最高得点だけどっっっ!!」
「順の点数が俺より高い!?」
「はっはっはー! 他は赤点ぎりぎりを目指して、数学だけに注力した甲斐があったぜ」

 順が悔しがりながら答案用紙を机の上に思いっきりばぁんっっっと叩きつける。そこには確かにまぎれもなく98の数字が赤ペンで記入されている。これには仁も驚いている。仁も同じく98点なのだ。高校進学も危うかった順が、高校進学をサポートしてくれた仁と肩を並べる。成長で言えば順が一番成長したといえるかもしれない。因みに遥は78点である。

「とりあえず、仁は俺たちになにか命令が思いついたら連絡してくれよ」
「そうだな……くそー! 次もやろうぜ。オレなにかかかってた方が集中できるわ」
「あ、ああ、そうだな」

 遥と順が大きく伸びをして帰る支度を始める。しかし、仁は順の数学の答案をじっと見ていた。
 仁は順の間違えた問題がどうにも気になっていた。試しに自分の答案用紙と見比べると……順と仁は全く同じ過程を経て、全く同じ答えにたどり着いていた。仁の方では〇を付けられているが、順の方では跳ねられている。
 おそらく採点ミス。仁の方があってるにしても間違っているにしても……今回のテストは同点ではなく、順の方が上であることは間違いなかった。そして、場合によっては百点満点の数も同点となる。

 順もおそらく、遥とのデートのために命令権を使うだろう。なんやかんや言い訳をして……いや、順の事だから言い訳なんてせず、2人で出かけるということに命令権を使うのだろう。自分には決してできない芸当である。おそらく、順はそういう意味では僕が8年以上かけて伝えて来た好きという想いをはるかに上回る好きを遥にすでに伝えているように思う。
 僕は将来を見据えているから……一時の感情ではなく将来を過ごすつもりでいるからこそ慎重になっている。周りに全く文句を言わせないぐらいに稼いで偉くなるつもりである。だからこそ、こういったデートという愛情の補給地点で想いを再確認したい。そして、ライバルに差をつけたい……仁は思考を巡らせていく。

「おーい。仁、そろそろそれ返してくれよ。母ちゃんたちに見せたいしよ」
「……ふぅ……あぁ」

 仁はその答案を順に返す。仁が周りをよく見ると遥の姿がない。

「遥はどうした?」
「トイレだとよ」
「……そうか……順、ちょっと付き合え」

 仁は順のことを見くびっているわけではない。ライバルだと思っている。だからこそ、正々堂々ぶつかっていくのが楽しいのではないか。自分の考えるデートプランと順の考えるデートプラン。どちらがお気に召すのか……勝負するのもきっと悪くない。

「げっ……マジかよ」

 トイレから出て来た遥のSNSに画像が送られてくる。それは順の答案用紙が百点満点に直された画像だった。
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