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一学期
ある日のボーリング
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テスト終わりの打ち上げをしたい……そう思うのはどこの高校生も同じようでボーリング場も混んでいた。打ち上げの参加者は全員で16人。端の4つのレーンを借りれたのは奇跡と言っても差し支えないだろう。
「生徒会長なんかイメージと違う私服だな……」
「僕の趣味なわけないだろう。上半分は順の趣味で、下半分は遥の趣味だ」
「割田って最高スコアいくつぐらいなんだ?」
「最高は230ぐらいだな。あれはもう二度と出せない気がするぜ……」
「マジか……やっぱガタイがいいやつは運動能力が違うな」
「遥ー。名前どうする?」
「そうだな……じゃんけんして負けたやつは勝ったやつの考えた名前にするか」
「なんだそれ、面白そうだな。遥いつもそんなことやってんのか」
「いつもやってるわけじゃないけど、最近はなんかそういうことを楽しむ立場になりつつある」
遥、仁、順は見事に別々のレーンに振り分けられた。1学期ももう終わりそうな状況だが、親睦を深めるために遥たちだけではなく、参加した人たちの仲良しグループをあえて分ける采配をした結果である。順と一緒のレーンに振り分けられた人たちは最初こそおっかなびっくりだったが、順はノリがいい不良なのですぐに打ち解けていった。
「よっ。ムテキング。おい、みんな、ムテキングが投げるぞ!」
「……うっせぇ! ムテキング舐めるんじゃないぞ!」
「遥、知らない間に改名したのか」
「ムテキングって、最高な名前つけてるじゃん! ムテキング! オレとボーリングのスコアで勝負しようぜ!」
遥は無事、じゃんけんに負けて画面に表示されている名前が『ムテキング』となった。3秒ぐらいでぱっと思いついた単語がこれだったらしい。周りから笑われながら遥が投げる。可もなく不可もない8ピンである。残ったピンはスプリットで1つも倒せずに終わる。
順は見た目通り力任せにピンをなぎ倒し、仁は最初だからエンジンがかかっておらず死にそうになりながら一番軽いボールを投げていた。
「なぁ、遥、好きだ、付き合ってくれ」
「……順ー聞いてくれよ」
「ちょちょちょ、ちょいまちっ」
順番が回ってくるまでの間、クラスメイトの1人が、遥に愛の告白をした。しかし、遥は知っている。自分の恋愛的高感度の残り的は、仁か順以外に告白されるほどないのだ。なので、この告白が何らかの目的をもってされたものだということは明白であり……とりあえず、近場にいて暇そうだった順に声をかけようと思ったが告白した本人がそれを止める。
「で、なんだよ。罰ゲームかなんかか? 1年ぐらい前の俺なら面白いって爆食できてたと思うけどよ」
「ま、まぁ、罰ゲームっていうのもあるんだけど、遥がさ、その、あの2人と二股かけてて、男なら見境なしに篭絡してるとか……実は女だとかそんな話が拡がっててよ」
「男子校にどうにかして入学した女の子か……夢はあるけど、それはねぇし、第一付き合ってもねぇし」
噂というのはあてにならないものである。そして、尾ひれがつきまくっているのだなと改めて遥は感じていた。
「第一、その噂が本当だったらお前はどうしてたんだよ」
「……なんだろう、確かにどうしたかったかと言われると……わからん」
「そんなもんか……まぁ、うん、そうだな。とりあえず、そんな事実はない」
そんなことを言っている間に、遥の順番が回って来た。
「割田、好きだ。抱きしめてくれ」
「うん? さばおりすりゃいい?」
「よくねぇな。やめてくれ」
遥とほぼ同じ時間、順も同じことをされていた。順はきょとんとしながら、同級生の背骨に深刻なダメージを与えるべく両手を広げる。クラスメイトはそれを素早く遠慮しながら下がっていく。
「いや、遥と順が付き合ってるなんて噂があったから、確かめるためにと思って」
「べ、べべべ、べつにつきあってねぇよ」
「だよなぁ」
「あったりまえだろ、まだそんなじょうたいじゃねぇ」
順と同じレーンにいたクラスメイトはほぼ同時に順に一斉に視線を送ったが、睨んでいると勘違いされても困るのですぐに視線を逸らす。それと同時に、こんなに単純で子どもっぽいやつだったのだなとクラスメイトの視線が優しいものに変わった瞬間でもあった。
「仁、好きだ。つきあってくれ」
「すまん、勉強に集中するべき時だから断る」
「ちょ、ちょ、ちょいまちちょいまちっ」
仁はそういって、自分の順番が回ってきそうだったので準備に立ち上がろうとする。それを静止するクラスメイト。
「じょ、冗談、冗談だからな」
「あぁ、そうだったのか。どちらにしてもそういうのを遊び半分でやるのはどうかと思うぞ?」
「そ、それはそうだけどよ……しっかし、仁と遥が本命だと思ってたけど、これは順と遥だったか?」
クラスメイト……やはり考えることは同じのようで仁にも同じようなものが仕掛けられていた。仁はそれを真面目に受け取り、慣れたように返事をよどみなく返していた。クラスメイトは当てが外れたなと呟きながら首をかしげていたが、その隣に勢いよく仁が座る。
「それもない。それは絶対にない。僕が保証してやろう。遥は付き合っている人物はいない」
「お、おう、わ、わかった、わかったから近い近い」
「……すまない。事実を誤認されると今後、僕たちが気まずくなるから誤った噂は流さないようにしてもらえると助かる」
仁はそれだけいうとボール拭きを始める。クラスメイトはそんな反応に……お互いに見つめ合った後にうなずき合うのだった。
「生徒会長なんかイメージと違う私服だな……」
「僕の趣味なわけないだろう。上半分は順の趣味で、下半分は遥の趣味だ」
「割田って最高スコアいくつぐらいなんだ?」
「最高は230ぐらいだな。あれはもう二度と出せない気がするぜ……」
「マジか……やっぱガタイがいいやつは運動能力が違うな」
「遥ー。名前どうする?」
「そうだな……じゃんけんして負けたやつは勝ったやつの考えた名前にするか」
「なんだそれ、面白そうだな。遥いつもそんなことやってんのか」
「いつもやってるわけじゃないけど、最近はなんかそういうことを楽しむ立場になりつつある」
遥、仁、順は見事に別々のレーンに振り分けられた。1学期ももう終わりそうな状況だが、親睦を深めるために遥たちだけではなく、参加した人たちの仲良しグループをあえて分ける采配をした結果である。順と一緒のレーンに振り分けられた人たちは最初こそおっかなびっくりだったが、順はノリがいい不良なのですぐに打ち解けていった。
「よっ。ムテキング。おい、みんな、ムテキングが投げるぞ!」
「……うっせぇ! ムテキング舐めるんじゃないぞ!」
「遥、知らない間に改名したのか」
「ムテキングって、最高な名前つけてるじゃん! ムテキング! オレとボーリングのスコアで勝負しようぜ!」
遥は無事、じゃんけんに負けて画面に表示されている名前が『ムテキング』となった。3秒ぐらいでぱっと思いついた単語がこれだったらしい。周りから笑われながら遥が投げる。可もなく不可もない8ピンである。残ったピンはスプリットで1つも倒せずに終わる。
順は見た目通り力任せにピンをなぎ倒し、仁は最初だからエンジンがかかっておらず死にそうになりながら一番軽いボールを投げていた。
「なぁ、遥、好きだ、付き合ってくれ」
「……順ー聞いてくれよ」
「ちょちょちょ、ちょいまちっ」
順番が回ってくるまでの間、クラスメイトの1人が、遥に愛の告白をした。しかし、遥は知っている。自分の恋愛的高感度の残り的は、仁か順以外に告白されるほどないのだ。なので、この告白が何らかの目的をもってされたものだということは明白であり……とりあえず、近場にいて暇そうだった順に声をかけようと思ったが告白した本人がそれを止める。
「で、なんだよ。罰ゲームかなんかか? 1年ぐらい前の俺なら面白いって爆食できてたと思うけどよ」
「ま、まぁ、罰ゲームっていうのもあるんだけど、遥がさ、その、あの2人と二股かけてて、男なら見境なしに篭絡してるとか……実は女だとかそんな話が拡がっててよ」
「男子校にどうにかして入学した女の子か……夢はあるけど、それはねぇし、第一付き合ってもねぇし」
噂というのはあてにならないものである。そして、尾ひれがつきまくっているのだなと改めて遥は感じていた。
「第一、その噂が本当だったらお前はどうしてたんだよ」
「……なんだろう、確かにどうしたかったかと言われると……わからん」
「そんなもんか……まぁ、うん、そうだな。とりあえず、そんな事実はない」
そんなことを言っている間に、遥の順番が回って来た。
「割田、好きだ。抱きしめてくれ」
「うん? さばおりすりゃいい?」
「よくねぇな。やめてくれ」
遥とほぼ同じ時間、順も同じことをされていた。順はきょとんとしながら、同級生の背骨に深刻なダメージを与えるべく両手を広げる。クラスメイトはそれを素早く遠慮しながら下がっていく。
「いや、遥と順が付き合ってるなんて噂があったから、確かめるためにと思って」
「べ、べべべ、べつにつきあってねぇよ」
「だよなぁ」
「あったりまえだろ、まだそんなじょうたいじゃねぇ」
順と同じレーンにいたクラスメイトはほぼ同時に順に一斉に視線を送ったが、睨んでいると勘違いされても困るのですぐに視線を逸らす。それと同時に、こんなに単純で子どもっぽいやつだったのだなとクラスメイトの視線が優しいものに変わった瞬間でもあった。
「仁、好きだ。つきあってくれ」
「すまん、勉強に集中するべき時だから断る」
「ちょ、ちょ、ちょいまちちょいまちっ」
仁はそういって、自分の順番が回ってきそうだったので準備に立ち上がろうとする。それを静止するクラスメイト。
「じょ、冗談、冗談だからな」
「あぁ、そうだったのか。どちらにしてもそういうのを遊び半分でやるのはどうかと思うぞ?」
「そ、それはそうだけどよ……しっかし、仁と遥が本命だと思ってたけど、これは順と遥だったか?」
クラスメイト……やはり考えることは同じのようで仁にも同じようなものが仕掛けられていた。仁はそれを真面目に受け取り、慣れたように返事をよどみなく返していた。クラスメイトは当てが外れたなと呟きながら首をかしげていたが、その隣に勢いよく仁が座る。
「それもない。それは絶対にない。僕が保証してやろう。遥は付き合っている人物はいない」
「お、おう、わ、わかった、わかったから近い近い」
「……すまない。事実を誤認されると今後、僕たちが気まずくなるから誤った噂は流さないようにしてもらえると助かる」
仁はそれだけいうとボール拭きを始める。クラスメイトはそんな反応に……お互いに見つめ合った後にうなずき合うのだった。
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