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第三章 二人の冷戦編

45.リゼッタは苺を食べる

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翌朝、ヴィラを伴ってシルヴィアの元を訪れた。

もともと日曜日と月曜日に続けてお休みを貰っていたけれど、王宮に戻ることになっては働き続けることは出来ない。突然の報告で彼女を困らせてしまうことは申し訳なかったが、連絡は早い方が良いと思った。


「なんですって?婚約者の元へ戻る?」
「はい。確認したいことが出来たので」
「大丈夫なの?その……」

シルヴィアは私が以前話したことを意味しているのだと分かった。私が戻ったところで、そこには別の女が居ると言いたいのだろう。カーラの顔を思い浮かべながら、彼女の兄だと明かされたエレンのことを考えた。

「その件は大丈夫です。シルヴィアさん、エレンさんはいつからこのお店に?」
「え?さぁ、どうかしら?二年は経ってると記憶しているけれど…ちょっと定かではないわ」
「彼は軍隊に所属していたと聞きましたが…」
「ああ、そういえばそんな話聞いたことがある!南部の女の子と結婚するために除隊したのよね?」

まあ上手くいかなかったみたいだけど、と気の毒そうに煙草を揉み消すシルヴィアを見つめた。エレンはノアの罪を被って職を失ったと言っていた。服役していたことを隠すためにそんな嘘を吐いたのだろうか。食い違う説明に疑問を抱きながら、ヴィラの様子を伺う。

初めて王宮の外へ出て来た彼女は、アルカディア王国の進んだ食文化を大変お気に召したようで、シルヴィアに出された苺のシロップ漬けに舌鼓したづつみを打っていた。大通りで待たせている車のことも気にしながら、再びシルヴィアに向き直った。

「色々と教えていただき、ありがとうございました。短い間でしたが、お世話をしてもらえて本当に助かりました」
「リゼッタ…きっとエレンも悲しむわね」
「どうでしょうね、」
「婚約者に舐められちゃだめよ。貴女は自分を強く持って、したたかに生きなさい」

私はシルヴィアの薄い紫色の瞳を見つめ返す。

「でもね、それでも…もしも、」
「?」
「もしも、貴女がまた誰かに傷付けられて逃げ出したくなったら、また此処へ来て良いから。私はいつでも貴女を歓迎するわ。此処は貴女のシェルターよ」
「シルヴィアさん……」

胸が熱くなった。アルカディアに来てノアの居る王宮以外に居場所がなかった私は、彼の元から逃げ出したあの日、行き場がなくて本当に不安だったから。

シルヴィアの柔らかな手を取る。
美味しいパンを生み出す魔法の手。客たちを楽しく酔わせる彼女は本当に『最高の店主』なのだろう。

「また、遊びに来ます」
「ぜひ来て。噂の最低な婚約者、うちに連れて来たらワインのボトルでぶん殴ってあげる!」

ニヤニヤするヴィラの横で私は顔を引き締めて頷いた。
ノアとの静かな戦いは始まったばかり。






◆お知らせ

ストックの関係で明日からしばらく一日一回更新になりそうです。すみませんが、またある程度貯まったら頻度を上げたいので宜しくお願いいたします。

いつも栞やエール、感謝いたします。
こんな文章でも読み続けてくださる皆様、本当にありがとうございます。
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