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第二章 シルヴィアの店編

24.リゼッタは誘われる

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いつの間にか夏も本番になった。

朝はシルヴィアと共に市場へ出向いて、果物や野菜の仕入れを行う。そしてそのままパン作りに取り掛かって、パンの焼き上がりと同時に店を開店。

作ったパンがすべて売り切れると昼間は自由時間になる。シルヴィアの恋愛の話を聞きながらお茶を飲んだりして、二人の時間を楽しんだ。たまにエレンが仕事の合間に顔を出したりすると、シルヴィアは変に気を遣って「買い忘れがあった」などと言いながら店を空けることもあった。

今日も、昼ごはんのボロネーゼを食べている時にちょうどエレンが顔を覗かせたので、シルヴィアはそそくさと用事があると行って出て行ってしまった。


「何か勘違いしてるみたいですね…?」

気まずくなったので、遠慮がちにエレンの様子を伺った。

「シルヴィアは気が利くからね」
「でも…誤解は解かなければ」
「どうして?僕は勘違いしてくれた方が嬉しいよ」

エレンが時折見せるこの手慣れた雰囲気はどこかノアと重なった。余裕があるというか、どうもこちらの未熟さを痛感してしまう。こうした人たちを前にしても怯まない自分でありたいものだと強く思う。

「もう、揶揄からかわないでください!」
「本気なんだけどなぁ~」

軽いノリで笑うエレンは腕にめた時計に目をやった。彼が何の仕事をしているのか分からないが、おそらく昼休憩も終わる頃ではないか。

エレンが帰ったら、シルヴィアが戻るまで何をしよう。昨日は床で嘔吐した客が居たから、もう一度床拭きをしても良いかもしれない。惣菜の仕込みはきっともうシルヴィアが済ませているし、食べ物に関しては、私は缶詰のストックの確認ぐらいしかすることがない。

「ねえ、リゼッタ」

考え事をしているとエレンに声を掛けられた。

「どうしましたか?」
「今週末、デートしない?」
「……デート?」

思わず聞き返してしまった。それが相手にとって失礼な行為であると自覚して、慌てて言葉を続ける。

「ごめんなさい、ビックリしてしまって。あまりに突然だったので…ちょっと心臓の準備が」
「面白いこと言うね。君を口説くには予約が必要なの?」
「……そ、そういうわけでは…」

しっかりして、リゼッタ・アストロープ。
もう大人の女なんだから、いつまでも初心うぶな反応はしていられない。恋がもたらす春のような喜びも、冬のような辛さも今の私は知っているのだから。

「良いですよ。行きましょう、デート」
「嬉しいなぁ、断られるかと思った」

君はガードが堅いから、と笑うエレンに釣られて口元を緩めながら、待ち合わせの場所や時間について話し合った。

恋を忘れるためには新しい恋が一番なんて言うけれど、私は心の何処かでまだ、こういった風に他の男の人と楽しく笑うことを後ろめたく思っていた。申し訳なく思う必要なんてないし、私が誰かの手を取っても最早誰も気にしないとは分かっているけれど。

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