上 下
62 / 262
第一章

60話 皇城へ

しおりを挟む
「ここから皇城まではかなりありますので、馬車で参りましょう」

「うむ。それでは行こうか!」

 父はそう言い、私たちがここまで来た馬車に乗り込んだ。

「あぁ、いえ。送迎の馬車はこちらで用意してありますよ」

「おっと、これは失礼いたした!」

 ヴァルターが指を鳴らす。その合図とともに、迎賓館の奥から一台の馬車が現れた。
 それは私たちの馬車よりも一回り大きく、オープンカースタイルだった。

「どうぞ、お乗りください」

「ありがとうございます」

 ヴァルターに促されるまま、真っ赤な座席に腰掛けた。どこまでも沈んでいきそうなくらいふかふかで、私たちが乗ってきた長距離用の馬車とは大違いだった。
 続けて父や歳三たちも乗り込む。

「さてさて。では私(わたくし)が先導致します。皇城まで、皇都の美しき景色をお楽しみください」

 彼は元から細いその目をさらに細めて、顔を傾げて微笑みながらそう言った。
 華奢なヴァルターは軽やかに馬に跨り、私たちを振り返る。

「では参ります。君、いつもの十倍気を付けなさい」

「は、はい!」

 私たちの馬車の御者は背筋を伸ばし、強く手網を握った。
 その様子に、また怖いぐらいの笑顔を浮かべ、ヴァルターは馬を走らせ始めた。

 左には皇都の兵士、右にはアルガーらウィルフリードの兵士。その様子はまるで小さなパレードかと思うほどだ。




 中央に向かうにつれ皇都の道は、石畳からその隙間をコンクリートの様なもので埋めた道に変わっていく。従って、木でできた車輪の馬車でもほとんど不快な揺れはなかった。
 もちろん、このふかふかな座席の効果もあるだろうが。

「あ、あちらが帝国一を誇る武具屋シュヴェールトです! ドワーフの中でも伝説の名工、ザーク氏の腕は本物です! S級の冒険者や貴族のみが制作依頼を許されています! 是非お立ち寄りしてみては!」

 頼んでもいないのに、突然御者が語り始めた。ヴァルターから観光案内の命令でもされているのだろうか。
 だが、その情報は私たちに取ってとても有用なものであることに違いなかった。

「ふうん? コイツは耳よりな話だなァ? 刀の件、ここで頼めるかもしれねェな」

「あぁ、そう言えばそうだったな」

 ファリア戦で剣を投げ捨て歳三の救援に向かった私に、歳三が一振刀をプレゼントしてくれるんだった。

「ここは我々貴族では有名な店なんだぞ。ここの剣や鎧を持っていることが、一種のステータスにもなっている。……まぁ、魔剣を召喚できる俺には関係ないがな!」

 手入れ無しで切れ味も常に最高。更には場面に応じた属性攻撃の使い分け。
 いくら名工とはいえ、父の能力の前に普通の剣は不要だろう。

「ふむ。ここでなら書物で目にした「魔法を使える武器」などもあるかも知れませんね……」

 個人的には孔明には風の魔法が付与された羽扇を使って欲しい。

「もし魔導具に興味があるようでしたらあの店もあります。あまりオススメは出来ませんが……」

「……? それは何故ですか?」

 歯切れの悪い御者に、思わず私は聞き返してしまった。
 彼は答えにくそうに呟く。

「なんでも魔法が使えない魔女がいるとか……。変わり者で有名ですが、魔導具の開発に関しては彼女の右に出る者はいないでしょう……」

「それはまさに苦心惨憺(くしんさんたん)ですね。是非ともお会いしてみたい」

「彼女の工房は東地区の外れにありますが……、商品自体はある程度の大きさの店ならどこにでもありますよ」

 私は孔明の顔を伺う。その表情を見る限り、どうやら孔明も私と同じ考えのようだ。
「会って話をしてみたい」それは魔法のない世界から来た私たちにとって、魔法の使えない彼女との出会いは必ずなにか掴めると確信していた。




「これは、かの大賢者ヴァイザー様が水魔法で堀を埋め、土魔法で築いた橋なのですよ! 戦闘だけでなく、本当の意味で帝国の礎を築いた方なのです!」

「この川幅は十尺は軽く超えていますね……。これ程の大規模な魔法も古代には存在した、と……。ふふ……興味深い……!」

 それは帝国ができる前の、実在したか分からぬ半分神話の登場人物だ。まぁ、神と戦った云々を置いておけば、ただの凄腕建築家にも思えた。

 だが、この魔法という不可思議な事象。神や賢者という存在。必ずしも否定できるような要素は何処にもないのも事実だ。
 この世界はまだまだ私の知らないことが沢山ある。




 などと考えているうちに、いよいよ我がウィルフリードの今後を大きく左右する運命の場所が近づいてきた。
 過去に目を向けるのも良いが、まずは目の前のことからだ。

「陛下の勅命を受け、ウルツ様御一行が到着された! 門を開けよ!」

 見かけからは想像できないほどの大声でヴァルターが叫ぶと、巨木を金具で固定し作られた門が大きな音を立てながらゆっくりと開き始めた。

「いよいよだなレオ。覚悟はできているな?」

「はい父上……!」

 私は拳を握りしめた。

「お上に謁見たァ俺も初めてだ。何だか緊張してきちまったぜ……」

「懐かしいですね。玄徳が皇帝の座に就いた時のことを思い出します……。さて、この国の皇帝は彼に適う人物なのでしょうか。それとも……ふふふ…………」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...