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第8章

日曜日の寂しさ

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菜乃花の買い物は思っていたより時間がかかりました。
菜乃花が文房具やTシャツを買おうとしたのですが、菜乃花としては恵子の趣味に合うものを買いたくて、それで恵子にいろいろ尋ねるのですが、恵子は色が白色を好む以外にこだわりがまったくないため、菜乃花が買うものがなかなか決まらず、時間を費やしたのでした。
「んもう、恵子。せっかく恵子が気にいるものを買いたかっだのに、恵子、決めてくれないんだから」
「だって私、そういうのこだわらないから。そもそも菜乃花が使う物を買うんだから、菜乃花が選べばいいのよ」
「うわあ、恵子、ひっど~い。私が恵子を愛していること知っていてそんな冷たいこと言うんだ。愛する恵子が気にいる物を使いたいっていう乙女心が分からないのね、もう」
そうは言いながらも、菜乃花は恵子と買い物デートができたことに満足でした。
「恵子、今日はデートしてくれてありがとう。すごく嬉しかったよ」
「う、うん。あまり役に立たなくてごめんね」
「いいのよ、恵子。恵子がそばにいるだけで幸せだから。それじゃあ、また明日ね。愛してるよ、恵子」
(も、もう、菜乃花ったら。みんなの前で恥ずかしい‥)
恵子は恥ずかしがりながらも、そういう菜乃花がイヤではありませんでした。
「さあ、頼子さんと夕食だわ。家に帰ろう」

バーガーショップまでバスで戻り、そこからいつもの道を歩いて帰ります。
4月中旬も過ぎて緑が豊かになり、恵子は自然を満喫しながら歩いています。
「緑が多くなって空気がおいしくなった気がするわ。本当にいい気分ね」
大きく深呼吸しながら歩く恵子です。

「恵子ちゃん!」
詩絵美の家のすぐ近くで背後から恵子を呼ぶ声がしました。
「あら、貴浩くん!」
貴浩が自転車に乗って恵子に追いついてきました。
(あれ?頼子さんの話だと、今日は貴浩くんは遅くなるはずじゃないの?)
「貴浩くん、今、部活の帰り?」
「そうだよ。今日は本当は他の学校と合同練習だったんだけど、中止になったんだ」
(それじゃあ、頼子さんの家で夕食は無理ね。頼子さん、知ってるのかな?どうするか、後で聞いてみよう)

恵子と貴浩はお互いの部活の話をしながら、一緒に帰りました。
その様子を詩絵美が家の自分の部屋の窓から見ていました。
「どうして私は全然貴浩くんに会えないのに、恵子は一緒に帰ることができるの?恵子、まさか貴浩くんに未練があるの?でも、確かに昨日「詩絵美、愛してる」って叫んだわ。嘘じゃないよね?」
悶々とした気持ちで詩絵美は楽しそうな二人を見つめました。

貴浩と恵子が公園までやってくると、あの声が聞こえてきます。
「恵子ちゃ~ん」
いつもの園児2人組です。
「タイツな恵子ちゃん!あっ、ニセ彼氏もいる!」
「だから、彼氏とかじゃないのよ。全然そんな関係じゃないんだから」
恵子の言葉に貴浩は苦笑いです。

「恵子ちゃんのタイツ、やっぱり気持ちいい!」
スカートを捲り、タイツ脚やタイツお尻、そこから
秘部を触り始めると、恵子は貴浩の前で感じ始めてしまいました。
(ヤバい、気持ちいい、感じちゃうわ)
「ああっ、あ、あなた達、そ、そこはダメ。ああっ、感じちゃうから、ダメ」
「あれ、恵子ちゃん、変な声だ。恵子ちゃん、大丈夫?」
二人は手を止めて、心配そうに恵子を覗き込みます。
(ふう、助かったわ)
「大丈夫よ、心配いらないわ」
「そうだ。さっき、モスラちゃんも変な声だったよ」
「え?真由がここに来たの?」
恵子はかなり動揺しています。
「うん、いたよ。タイツ触ったら変な声だったよ」
「そ、そうなのね。他に何か言ってた?」
「誰かに愛の告白するみたいだったよ」
「そんなことないよね、恵子ちゃん。モスラちゃんが誰かの彼女になったりしないよね。そんなのイヤだよ」
園児の一人は涙目です。
恵子はそっと優しくその子を撫でました。
「そうね。どうなるかは分からないけど、真由はみんなに優しくしてくれることは変わらないよ」
「う、うん」
「二人ともごめんね。私、すぐに帰らないといけないから、また今度一緒に遊びましょうね」
「え?恵子ちゃん、帰っちゃうの?また、今度タイツ触るね。バイバイ!」
「バイバイ!」

恵子は園児達と別れると、急いで頼子の家に向かいました。
貴浩は事情がよく分からず、黙って恵子について行きました。
頼子の家の近くまで来ると、何か叫び声が家から聞こえてきます。
恵子と貴浩は思わず顔を見合わせました。
家のそばまで来ると、何を叫んでいるか、はっきり聞き取れます。
「頼子がセックスしてるんだ。相手は?」
貴浩が困った顔で尋ねます。
「あの声、間違いなく真由だわ。昨日、私と一緒にいた子よ」
「ああ、あの可愛い子だね。その子が何で頼子とセックスしてるんだ?そんな仲だったの?」
貴浩がそう言いながら恵子を見ると、恵子の表情が蒼ざめているのが分かりました。
「恵子ちゃん、大丈夫かい?」
恵子には頼子と真由がセックスしていることが信じられない思いでした。
もちろん、頼子も真由も恵子の恋人ではありません。
二人がセックスしても恵子が口を出すことではないことは、恵子も理解しています。
ただ、真由も頼子も恵子を置いてどこか遠くの世界へ二人で行ってしまったように感じて、何かやるせなさに襲われていました。

やがて、絶頂を迎えて「愛してる」という真由の大絶叫が聞こえてきました。
「真由と頼子さん、上手く結ばれたみたいね」
恵子の頬に一筋の涙が流れました。
(頼子さんも真由も、もう私のそばにいてくれないの?)
恵子は自分勝手な思いと分かっていても、心の中から次々に寂しさが湧き上がり、涙が止まりません。
大絶叫の後、家の中は静けさが漂っています。
今、真由と頼子は抱きしめ合ってセックスの余韻に浸っているのかと思うといたたまれなくなり、思わず貴浩の胸にしがみついて、むせび泣きしてしまいました。

「恵子ちゃん、帰ろうよ」
貴浩が優しく声をかけると、恵子は顔を上げて黙って頷き、家に向かって歩き始めました。
貴浩も黙って隣を歩いていきます。
その二人の姿を、離れた場所から詩絵美が混乱した様子でじっと見つめていました。
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