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第8章

日曜日の混乱

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「恵子と貴浩くん、一体どうなってるの?貴浩くんの家を見て恵子が泣いているようだけど、どういうことなの?」
怪訝な表情で貴浩と恵子を追いかけようとして頼子の家の玄関の前に来たとき、不意にドアが開いて、頼子と真由が出てきました。
(真由!?)
二人は詩絵美に気づかずに抱き合い、ディープキスを交わします。
(え?うそ?)
詩絵美は目の前の光景が信じられず、後退りしようとして足音を立ててしまいました。
その瞬間、物音に気づいた頼子が目を開けました。
「し、詩絵美ちゃん、何でここにいるのよ?」
「え?詩絵美?何で?」
二人は慌てて離れ、詩絵美を見ました。
「何か用事なの?」
「え?いや、これは、何もないです、いや‥」
頼子の強い詰問に、詩絵美はしどろもどろです。
「何も用事ないのにどうしてここにいるの?」
頼子の表情が一気に険しくなります。
「詩絵美ちゃん、「友達でも触れられたくないことがあるってことは分かってあげてね」って昼に言ったはずだけど、こういうことをするのね。あなたのやっていることは完全にストーカーよ」
「詩絵美、ひどいわ」
真由の顔が蒼ざめ、泣きだしてしまいました。

「ち、違うんです」
貴浩と恵子の後をつけていたと真由の前では言い出せない詩絵美です。
そもそもそれは貴浩をストーカーしていたことになり、頼子にも上手く説明できず、焦るばかりです。
もう、貴浩や恵子どころではありません。
「とにかく、ストーカーしていたんじゃありません。真由、お願い、信じて」
真由は黙って走り出しました。
「あ、待って、真由。お願い、待って」
詩絵美は急いで真由を追いかけます。

頼子は、冷静に考えたら詩絵美がそんなことをしても何の意味もないことは分かります。
「もしかして貴浩と何か関係があったのかも‥」
詩絵美を追いかけようと思いましたが、今夜は恵子が訪ねてくる予定です。
まだ時間があるとはいえ、万が一長引くと恵子を待たせることになります。
「詩絵美ちゃんに悪いことしたわ。後で連絡しなきゃ」

「真由、お願い、待って、真由」
ようやく真由が走るのをやめました。
真由はまだ泣いています。
「真由、私、あなたを覗こうとしていたわけじゃないから。それは信じて、お願い、真由」
「分かってるわ、詩絵美。詩絵美はそんな人じゃないわよ」
真由は頼子とセックスできて幸せを感じていました。
ただ、まだ夢を見ているみたいで、現実に起こっていることが信じられない気分でした。
その幸せの余韻に浸っていたい気分だったところへ詩絵美が現れてしまい、真由の幸せに土足で踏み込まれたような気分になり、気持ちが混乱していたのでした。
そして、走っている間にようやく気持ちが落ち着いてきました。

一瞬立ち止まった後、真由はすぐに歩き始めました。
詩絵美も隣を一緒に歩いて行きます。
「詩絵美、さっき私と頼子さんがキスしてるの見たよね」
「う、うん。でも覗こうと思っていた訳ではないから」
「それは分かっているわ。詩絵美、私は見ての通りレズビアンよ。詩絵美が軽蔑するなら構わないわ」
真由は泣き止んで、堂々と歩きながら話します。
「軽蔑なんかしないわ。恵子も菜乃花もレズビアンよ。私は男性を愛するけど、男性を愛するのも女性を愛するのも真由の自由だわ」
詩絵美が答えると、二人はしばらく無言で歩き続けます。

「詩絵美、私、頼子さんに告白したわ。頼子さん、私の初恋の人なのよ。初めて会ったのがもう2年以上前で、一目惚れだったわ。私、頼子さんのS女子学院の制服姿に憧れて受験勉強を頑張ったのよ。私がS女子学院に合格できたのも、頼子さんのおかげなのよ」
詩絵美は驚きながら、歩いています。
「真由にそんなことがあったんだね」
「でも一言も話をする機会がないまま、会えなくなってしまったのよ。私は頼子さんのことがずっと好きで会いたくて、そして想いを伝えたいって思っていたわ」
「それで昨日、恵子がカフェに真由を連れて行ったら頼子さんに再会したってことなのね」
「そうなの。恵子も驚いていたけどね」
真由は頼子と再会したときの場面を思い出しながら微笑みました。

「告白したら頼子さん、OKしてくれたのね」
真由の表情が一瞬曇りました。
「付き合ってほしいって言ったら、断られたわ」
「え?」
詩絵美はてっきり二人が付き合うことになったと思い込んでいたため、驚いて真由を見ました。
「他に好きな人がいるからって言われたわ。片思いだけど自分の気持ちを分かってくれてセックスもしてくれるから、それで幸せだって」
真由は少し涙目です。
「それでも、私の頼子さんを愛する気持ちがすごく嬉しくて、私とセックスしたいって言ってくれたの」
再び笑顔になった真由に詩絵美が尋ねます。
「それでセックスしたのね?」
「うん。すごく気持ちよかったし、すごく嬉しかったわ」
「真由はそれで幸せなの?」
「もちろんよ。だってこれからも頼子さんのそばに居られるし、セックスもできるんだから幸せよ。頼子さんがこれからも恵子を愛して、恵子とセックスしても私の幸せは変わらないわ」
「え?恵子?」
詩絵美の戸惑いは真由の耳に届いていないようです。
「でも頼子さんが今は恵子を見ていても、いつか私を見てほしいって思いはあるわ。頼子さんに気に入ってもらえる女の子にならなきゃって思っているのよ、詩絵美」
真由は詩絵美を幸せいっぱいの笑みで見つめます。
詩絵美は真由のポジティブな考え方に、自分は一体どうなのかと少し恥ずかしさを感じていました。
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