君の中へ

うなきのこ

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異世界で生きる為に

4 病院

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ルーデオに連れられ警備隊の詰所を出て目の前の大通り。
警備隊が持っているらしい馬車に乗り込み病院へと向かう。
海外観光行って乗ってきた友人らは「座面が柔らかそうなのに固くて尻痛いから乗らない方がいい」と言っていたが。
馬車に乗るの初めてなんだけど案外悪くないな
聞いていた話よりもだいぶ座り心地いいぞ

2人きりの馬車内では道中無言で馬車に揺られて、10分ほどで病院についた。
そんな距離なかったし歩いても良かったんじゃないだろうか
もしかして怪我人かもしれないから気を使った?
まぁ初めての馬車体験できたからいいか
「着きました。先触れを出していたのですぐ通されるでしょう」



「ポントさん、お待たせしました、こちらへどうぞ」

馬車で待つこと1、2分程度。
その間も会話はなかった。ちょっと居心地悪かったな…。
病院から出てきた高校生くらいの年齢の子が俺たちを呼びに来て先導する。
通された部屋は病院の診察室というより学校にある校長先生の部屋って感じだった。
そこにベッドと使用用途の分からない器具っぽいのが置いてあるだけ。
なんかここも日本の常識とは違うみたいで面白い。

ルーデオが俺の代わりにそのカードと紹介状らしき紙を渡す。

「ミオ=ダルガスさん。えーと?おやAランク職員が警備隊に連れてこられるなんてなにかに巻き込まれたのかい?
そこに座っていいよ
ルーデオくんは席を外してくれるかい」

差し出したのは先程作ったギルドカード?で、これは保険証兼免許証の役割があるわけか。

医者の言う通り何かに巻き込まれたっぽいのは確かだな
と医者の話していることが一部よく分からないなりに理解に勤しむ。

「申し訳ありませんが診察に付き添うように命を受けてます。書類確認お願いします」
「えっ」
まじで?個人情報ですよ?
「訳ありだから私を指定したのかな、彼は
…なるほど。記憶の混乱ね。秘匿か。

ルーデオくんは端の方に椅子持ってきて座ってなさい。
少し時間かかるかもしれないからね

さてダルガスさん…いやミスミさん。
これから貴方の担当になります、リンド=ライアスと言います。

隊長から預かった紙には君の認識しているものとギルドカードに齟齬がある、と記載されているのだけど一から自分のことを話してもらえるかな?」

30代後半くらいだろうか。医者は薄茶の前髪を軽く持ち上げただけの髪型に黒縁メガネで白衣着てないし服装は医者っぽくない。
三つ揃いのスーツをピシッと着こなして物腰柔らかに尋ねてくる。
「君の発言したものを一言一句写させてもらいたいのだがいいかな?」
「ええ、大丈夫です」
先程カイルが制作していた様に俺が発言すると連動したように紙に文字が刻まれていく。
読めないがの文字なのは間違いない。

リンドは俺の話を口を挟むことなく一通り聞き取り終えると雑談を始める。
これも診察の内なんだろう。

「ミスミさんはそのニホンという所で育って、他にもたくさんの国があったのか。
魔法はなかったようだけど代わりになるようなものがあったんだね。羨ましいな、自分の魔力を使わなくてもいい道具があるなんて」
「俺からしたら魔法の方が羨ましいですけどね。
そういえば俺の情報に魔法属性?ていうのがあって水と土が使えるらしいです。
分からないついでにその魔法の使い方聞いてもいいですか?」

紳士に話を聞いてくれるリンドなら扱い方も呆れることなく教えてくれそうだ。

「すまない、私は光魔法しか使えないんだ。
魔法属性の適性が違うと使い方も異なってくるから私からは教えられなくてね。案内した者がいただろう?あの子は君と同じ属性だから後で聞くといいよ。」

優しい…ちょっと前から気づいてたけど、リンドさん優しい!

「ありがとうございます」
「うん、君の言葉に嘘は無いみたいだ」
あなたも嘘をつくことは無さそうですね。
「はは、嘘なんてついてないですよ?」
「そうだね」

この人は俺の事を本心から心配してくれているし俺が話しやすいように口調を崩してくれているけど、本来は丁寧な言葉遣いを心がけているそうだ。
信頼に足る人だと認めれば肩の力は抜け、さっきまでの警備隊でのやり取りで溜め込んだ疲れが少し薄れる。

「それでカードの説明だが、公的機関のカードを作るための魔道具で表示されるものは改ざんできない。
でも君の話とカードに表示される情報が異なっていたのはなんだね。
きっと疑われただろう。
何度も話をさせられてうんざりしただろう?あの子は人の話を最後まで聞かないからね」

「ええまぁ。分からないって言ってるのに揉め事があったのか、だなんて決めつけられたりしましたね」

「偽る事情があったとしてもそっとしておいて欲しいものだろうに配慮がないのが良くないところだ」

頷かずには居られない。

「さて、さっきも言ったように改ざんはできないからもしかしたら頭を打っての記憶障害か、または精神的ストレスで無意識のうちに自ら記憶を塗り替えたのかもしれない。
この診察でどういった事情があったとしても口外はしないと誓おう。
警備隊には報告義務ができてしまったが。そこから漏れる事も無いので安心して。
身体、調べてもいいかな?」

「…はい。お願いします」

親身になってくれた医者の言うことを聞かないなんて選択肢は持ち合わせていない。
膝を突合せて座っていた椅子から移動してベッドへ座るように促される。
扉の横の椅子で座っているルーデオが目に入って「そういえば居たんだった」と思い出す。
何を考えているんだろうか…

ところでどうやって検査するんだろう。
精密検査するための器具は見当たらないけど。
ふいにベッドに座る俺の手をリンドが握ると繋げた手元が少しだけ発光しはじめた。
あぁ、これが魔法か
えー魔法ってつくづく便利だな…

…あれ?リンドさん……いやもしかして俺の…

「ミスミくん、こっち向いて私の目を見てくれるかな?」

わ、今更だけのリンドさんもイケメンだな…イケメンじゃなく年齢的にイケオジって言うやつか。

「…なにを考えているのか分からないけど熱視線は今は控えてくれるかな?なるべく何も考えずに私の目を見て貰った方が隅々まで調べることができるのだけど」

「ごめんなさい。」

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