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異世界で生きる為に
3 身分証
しおりを挟むこの世界について考えることをやめよう、とはしたもののぐるぐると考えてしまうのが人間だ。
ルーデオに話しかけられたことでその思考の渦から浮上する。
「ミスミさん」
ルーデオは美しい金属細工に囲われた野球ボール程の水晶と黒色無地のキャッシュカードのようなものを机に置いてこれで身分証発行をするからと説明する。
「このカードを持って水晶の上に翳してください。
そのまま少し下ろしてカードを細工に触れさせてくれれば」
「わ…すご…」
ルーカスの指示に従って怪しい水晶にカードをかざすと『ミオ=ダルガス 24歳男性 出身地:不明 スキル:不明 属性:水 土 所属:商業ギルド Aランク職員』
これらがカード上のこれまた何も無い筈の空間に色濃く表示され、名前と年齢と所属だけがカードに刻まれる。
空間に表示されていたものがスっと消えた。
異世界っぽい!と刻み込まれた内容が読めなかった透は目を輝かせた。
「ん?ミオ ダルガス?トオル ミスミじゃなくてか?」
「この名前、さっき預かったカバンに入ってた身分証と名前が同じですよ?それに所属も年齢も」
「?あの?読めないから分からないんですけど何か不具合とかですか?」
「読めない?」
「はい」
え、読めないよ?なに?そんな変なこと言ってる?さっき違う世界から来ました、て言ったよね?常識も分からないってことを理解してくれてたよね?
訝しる顔で見ないでくださいってば
「ミオ・ダルガスと言う名前に心当たりは?」
「ないです」
「年齢は」
「24」
「商業ギルドマスターのアレク=ロッソと言う名前に心当たり?」
「ないです」
「はぁー…なんなんだ君は」
なんだと言われましても。
「どういう意味ですか?」
「…読めないって言ったな?
カードに刻まれたのはお前の情報だ。さっき色々話してもらったがあれに嘘はないと誓えるか?」
「嘘じゃないですよ」
まだ疑ってるか。疲れたんだけど…
「はぁ。まぁ一応、一つ一つ事細かに説明してやるよ。
ここに刻まれたのはさっき聞いたトオル=ミスミという名前ではなくミオ=ダルガス、年齢は24、スキルと出身国が不明と記載。まぁこれは貧困層出身なら自分の出自を自覚してなけりゃ刻まれないこともあるし問題ない。
それでだ。
さっき預かったカバンに入ってた身分証もミオ=ダルガスだったぞ。
つまり、お前は俺たちを騙そうとしたってことだな?
全く。職員ならすぐバレるってわかってただろう。何が不満だったんだ?その年でAランク職員だって言うなら給料も高いだろ」
「は?」
何言ってんの?誰か簡単に説明して?この人なにを言いたいの?
「待ってください。もう少し細かく説明してもらっていいですか?」
「これ以上細かく説明する必要も無いだろ?なんで知らないフリしたのかわからんがもう身元も割れたしさっさと戻りな」
「…隊長、ダルガ…いえ、ミスミさんの話ちゃんと聞いてあげた方が良さそうですよ。キョトンとしてます」
「あ?なんか事情あんのか?…ふむ、綺麗な顔してるし強姦されて身を隠したいとかなら俺らが対応してやるぞ?」
ねぇさっきからこのおっさんなんなの。まじで。
もう敬称も敬語もやめていい?
「さっきも言ったけどミオ=ダルガスという名前に心当たりありませんし商業ギルドというところにも心当たりありません。そもそも話した内容おぼえてますか?俺はこの国どころかこの世界の記憶すら持ち合わせていません。違う世界から来たんですよ。
ここで生きていたという記憶がないんです、
そのカードに刻まれたっていう情報は間違うことないんですか?」
「有り得んな。」
「過去に1度も間違った情報が刻まれたことはないって誓えます?」
「誓うさ。
だが…確かにお前の言ってることに嘘はなさそうだよな…無害そうだし。
どっか打って混乱してるとか?怪我は」
「…ありません」
言われて身体を一通り触ってみたけど外傷はなさそう。
いや、なんか頭にタンコブみたいなのはできてたけどそれ言ったら「病院行け」て言われそうだから黙っとこ。
「ルーカス、一応病院連れて行ってやれ」
「分かりました。行きましょう」
結果は同じだったか。
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