君の中へ

うなきのこ

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異世界で生きる為に

2 疑惑

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五分ほど歩いて連れられた先は何百年も前からある様な立派な建物だった。
仰々しい入口の扉を抜け、更に3つほど扉を通り過ぎて通路の突き当たり。
同じ警備隊の服を着た人が10人くらいいる部屋の端に通された。そこは衝立があるだけの大部屋でそこのソファーへ座らされて少しすると30代位のガッチリした男性が入ってくる。
「待たせたな」
「急な呼び出しに応じて下さりありがとうございます。」
ガッチリした男性は待ち人を出迎え敬礼をしたルーデオへ椅子に座るように促して自らも席に着くと俺へと向き合った。
「私は首都ボーロッコスの警備隊隊長のカイル=ヴェンソールと言います。それで?そのバッグは盗んだんですか?いつ?」

彫りの深い美しい顔を携えながらもがっちりとした身体を持つ30代くらいのカイル=ヴェンソールさん。
そんな顔で見ないでください。
盗んだだなんて決めつけないで!
所で貴方も日本語話せるんですね?

聞き覚えのない首都名を言われるが全く記憶になく、とりあえず今覚えていることだけ伝える。
「えぇっとですね…まず、多分盗んでないと思うのですが」
「多分?思う?…あのな、犯罪なんだぞ?隠すような事は言うな。正直に言えよ」
隊長さん、怖い顔で話を遮らないで最後まで聞いてください。
「待ってください!分からないんです!知らない間に知らない土地に立ってて俺の持ってたはずのバッグとも色も形も違うし…どうやってここに来たのか全く分からなくて」
「…覚えていることを話して貰えますか?」
俺の話を聞くとあちらもひとまず態度を改め聞く体勢をとる。

自分が泊まる予定だった宿(ホテルって単語が通じなかった)に向かう途中に眩しい光に包まれて目を開いたら路地裏にいた。
と簡潔に話すがにわかに信じ難い、といった顔をされるがとりあえず話をちゃんと聞いてくれるらしい。

持っていた誰かのカバンを彼らに預けて事情聴取されている。
名前は三角みすみとおる。日本出身で偏差値の高い有名大学卒業後に都会の大企業に勤めていたが辞めてきたところだ、と簡単に説明した。
「じゃあミスミはニホン?から来たんだな。知らないうちにここに来てた。経緯も分からず…か。」
「分かりません。そもそもここがどこなのかもよくわからないです。」
日本語話してるのに日本がどこかも分からないってどういうことだ…訳分からん。考えるのやめよう。

「ここはウォールグルザン国の首都ボーロッコスです。
この国に入るのに身分証が必ず必要なんですが持ってないようですし預かり物の中にもトオル=ミスミという人物のカードはありませんでした」

ソファーの向かいに座るルーデオとカイルは最初こそ盗みを疑っていたのだが俺が事細かに話すにつれ真面目に取り合ってくれるようになった。
彼らは俺にこの世界の一般常識がないと分かるや否や呆れながらも都度説明してくれる。

青年ルーデオは世界地図を取り出し机に広げここがどこかを指し示すが…世界地図…世界地図?
日本なんて小国は要らないから潰されたのかな☆
冗談言ってる場合じゃない
日本どころかアメリカも中国もヨーロッパ諸国だってないじゃないか

いよいよが有力になってきた…
そう。異世界。
だってさっきからおかしいんだ。

"机に地図を広げた"なんて言ったけど正確に言えば"突然現れた"が正しい。突然、何も無い空間に、だ。
地球にもホログラムは存在したけどそれは映し出すための媒体が必要だったがそれがどこにもない。

それとこの部屋には衝立ついたてがあるが、すぐ隣には沢山の警備隊がいて仕事をしている様子が見えたのだが、さっき通った時に聞こえていたざわついている筈の隣から音が聞こえないのだ。

更には目の前にいる彼らの声も聞こえない。
ひそひそ話をしている。
口元を隠そうともしてないのはどういうつもりか。舐めてんの?
もし魔法みたいなのが存在していて声を届けない魔法があるのなら俺にもかけて欲しい。思いっきり暴言吐いてやる。

──記憶のないフリをしてる割に設定が杜撰だな──
──でっちあげで丸め込もうとしてるんじゃないですか──
──あのカバンから出てきた商業ギルドカードの身元わかったんだが1週間前から行方不明の職員だった。こいつが殺したとかの可能性も無くはないから注視しとけよ──
──分かりました──
── 一応仮発行でカード作るから準備してくれ。あれなら誤魔化しは効かないから本当に記憶喪失なり異世界人なりならすぐ分かるだろ──
──持ってきます──

誰が殺人犯だよ。怖いレッテル勝手に貼るんじゃない。
口は災いの元、ですよーー?お二人さん?
魔法で(?)聞こえはしないと言ってもなんでこんな堂々と話せるんだこいつらは。
隊長、副隊長って言うならどんな相手でも警戒しておけよ。仮にも殺人疑ってるんだろ?
そりゃ俺は無害だけどな!殺人なんて犯せないけど!

「お待たせしてしまいすみません。とりあえずミスミさんの身分証はこちらで仮発行させてもらいますね。裏付けが取れるまで警備隊が身柄を預かります事、ご了承ください」

つまりは監視だよな。
まぁ得体のしれない輩が居れば警戒するのは当然だろうが疑いが晴れるまで窮屈そうだ。
身分証発行に必要なものを持ってくると言ってルーデオが席をたった。
カイルは俺の発言をまとめてる。
紙はあるけどペンがない。なのに文字が刻まれていく。
すっごく便利そう
あとさ、そんな無防備でいいんですかー?殺人を疑ってるんですよね?
まぁね。俺は無害ですけどもね。それに俺と貴方とでは明らかに俺の勝ち目ないですもんね。
俺なんて筋トレしても全然筋肉つかないし。
でもやれなくない程のは持ってるんだぞ。

監視付けられるのなら今後の振る舞いにも気を配らなければ。
考えることが多くて頭が痛くなってくる。

魔法があって、どうやら異世界で、彼らは俺の話を疑ってて、監視をつけられて…
気が重いな…



日本で読んだ流行りの作品には"異世界物"と言うジャンルがあってそれらにはほとんどの場合、元の世界に帰れないっていうのが通説だ。
ファンタジーとして楽しんでいたけど実際こうして有り得ない事象を体験してしまっては受け入れるしかないだろう。

となるともしかしたら異世界設定を作った人は体験談だったのではないだろうか…
異世界物で帰れたっていう話はほとんど無いから帰るのが望み薄なのは有難いな。
だってと会わなくてもいいってことだろ?
戻ってやりたいこともあるが、今後アイツに会わなくてもいいのなら素直に喜ぼう。



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