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番外編

後日談:兄弟

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 リンジェーラは今、2人の獣人同士の睨み合いの間に挟まれている。
 1人はリンジェーラの夫であるゾディアス様・・・、もう1人はゾディアス様の兄・・・のようだ。兄の方も上位種のようで、ゾディアス様と同じ髪色をしていた。ゾディアス様よりもガタイが大きく筋肉質で、髪はクセがあり野生感がある人だ。

 ゾディアス様に兄弟がいると知ったのは、ついさきほどのこと。

 自分の番探しのため、放浪の旅に出たと言う兄が、わざわざゾディアス様が嫁をとり、子供ができたと言うことで帰ってきたのだった。

 しかし、出迎えたのがゾディアス様ではなく、薬草の世話をしていたエプロン姿のリンジェーラとたまたま遭遇してしまったのだ。


 だからか、使用人と勘違いされ他のか、気に入ったといいだしリンジェーラを担ぎ上げた。そして、ゾディアス様が現れリンジェーラを気に入ったからもらうと宣言してしまった。

 その言葉を聞いたゾディアス様は、いきなり屋敷におしかけてふざけた事をいう彼の鳩尾に一発食らわせた。そしてリンジェーラを奪い返して現在にいたる・・・。


「いきなり現れたと思えば、俺の番に勝手に触れるとはな」
 ゾディアス様の表情は、かなり険しい顔つきで自分の兄を睨みつけている。


「知らなかったのだから仕方がないだろ。それに気にいってしまったんだ・・・本能にはさからわん」
 ゾディアス様の番だと説明しているが兄の方は、悪びれもせず本能だといいきる。


「彼女は俺の番だから、諦めて今すぐに帰ってくれ。たとえ兄でもリンジーに触れたやつは許す気がおきん」
 ゾディアス様は不快感を隠す事なく対峙する。


「せっかく祝いに来てやったんだ。そう追い返そうとするな。それに人族は我々とは違う。番の概念などない。だから彼女が私を受け入れれば問題はなかろう。お前の番は、俺とも相性がいいかもしれないしな」
 そういい、彼はまたしてもリンジェーラの腰に手をかけ引き寄せてきた。つまり彼は、自分にもリンジェーラを共有させろとゾディアス様に言ったのだ。

 彼がリンジェーラを引き寄せたとたん、ゾディアス様からは殺気がダダ漏れた。だがリンジェーラはゾディアス様の兄に、普段と同じ要領で、痴漢撃退スプレーを容赦なくお見舞いしてあげた。


 彼もゾディアス様と同じ獣人・・・。大変よく効いたようで、強烈な匂いにのたうちまわりだす。

「なんだッこれは、何をかけたッ」


「私、よく痴漢にあっていましたので、獣人ようの撃退スプレーを携帯しているのです。どうしても夫以外から触られると・・・虫唾が走り、反射で、つい・・・かけてしまうのです。ですから、私にむやみに触れない方がよろしいですよ?」
 やってしまった後ではあるが、繰り返さないためにリンジェーラは笑顔で、ついやってしまうと強調し注意した。


「これでは、ゾディアスも被害をうけるではないかッ」
 彼は眉間に皺がよっているゾディアス様を指差した。


 リンジェーラはゾディアス様の顔色をみて、憤慨している彼には見られないように、例の薬を口に含んでゾディアス様に口づけ、服薬させようとした。


 それなのに、ゾディアス様は薬を理解しているはずなのに、リンジェーラの薬を遊ぶように口内で転がし、リンジェーラを翻弄しはじめてしまう。側から見たら、ただただ口づけを見せつけているだけだった。

 口づけはしたが、ゾディアス様が離してくれないとは思わず、リンジェーラは深くなる口づけに抗議するように、ゾディアス様の胸板を叩いてやっと唇が離される。


「ゾディアス様ッ。遊ばないで下さい」

「リンジーからの口づけに嬉しくてついな・・・許せ」
 ゾディアス様はさらりと、リンジェーラが弱い甘い笑みを浮かべて許せと言った。


「何をしてるッ正気か!」
 側では彼がうるさく吠えた。リンジェーラの行動に、驚いているようで、信じられないという表情をして叫んだのだ。彼からしたら獣人が嫌いな匂いを放つ者からの口づけだ。ゾディアス様がどうにかなると思ったのだろう。


「ゾディアス様は平気ですよ。私が認めた方ですから・・・それに私はゾディアス様と結婚するまでは、常に獣人が嫌うこのような匂いをまとっていましたので、耐えられない方とは男女の関係にすらなりえません。まあ、ゾディアス様は最初から嫌な顔をせず私に接してくれてましたが・・・」
 そこでふとリンジェーラは不思議に思ってしまった。

「そういえば・・・何故だったんでしょう?ゾディアス様は匂い、平気でしたか?」


「さあな・・・ただ、匂いよりも惹かれるものがあれば、その匂いは気にならなかったのではないか?」
 

「・・・・・・そう、かもしれませんね」
 リンジェーラの疑問にゾディアス様はさらりと答えられたが、それはゾディアス様が初めからリンジェーラが好きだと言っているも同然で、リンジェーラの声は照れてちいさくなる。


「俺は未だリンジーに惹かれ続けているからな・・・早く兄を追い出して、今日も可愛い妻をめでたいくらいだ」
 ゾディアス様は、またしてもサラリとリンジェーラが恥ずかしくなる事を口にし、さっさと自身の兄を追い出しにかかった。

 
「リンジーに拒否されたのだから、諦めて早く帰ってくれ。彼女を誰とも共有するつもりはないし、リンジーを狙う男を近寄らせたくはないし、視界にも入れさせたくない」

 ゾディアス様に捲し立てられて、彼は渋々だが、諦めの発言をして追い出されるように帰って行くのだった。


「よかったのですか?諦めてもらえましたし、折角帰ってこられたのだから、娘にくらい会ってもらえば良かったのに」
 リンジェーラはおいだす形になってしまったのを、少し申し訳なく思ってしまう。

「いい・・・。次は娘を嫁にくれと言い出しかねないからな」
 だが、ゾディアス様は、また別の懸念を口にした。

「そんな訳・・・」


「ある」


「そうですか・・・」
 ゾディアス様はだいぶ自身の兄に対して警戒心が強いようで、速攻で断言されてしまった。

 そして、触られた所を消毒しようと言い、ゾディアス様はリンジェーラをかかえあげ、寝室に連れられてしまうのだった。

 そもそも、匂いがしっかりついていなかったのが原因でもあるとゾディアス様は考え、しっかり寝室でマーキングをされる数日間を送る羽目になるのは、まあ別の話・・・。


 





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