続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

旅路〜ルーシュピケ〜

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ーーーそれが、突如として森が戻ってきたのだ。

　ハニエル老は嬉しそうにニッコリとイオリを見上げた。

「薄暗かった空から虹色の雨が降り注いだ。
　また、何かの前兆かと我々は怯え逃げ惑ったのだ。
　しかし、そうではなかった。
　その虹色の雨は我らの疲れと汚れを癒し、綺麗に洗い流してくれた。」

　思い出すように恍惚に微笑んだハニエル老の隣ではフェンバインが目端に流れる涙を拭った。

「虹色の雨に打たれた大地から草木が芽吹き、乾いた泉から水が湧き出始めた。
　そして、一夜にして“パライソの森”が蘇ったのだ。」

　全てが5日の出来事だった。

「虹色の雨が降り始めた日の夜、私とフェンバインは大樹に呼び出されたのだ。」

「呼び出された？」

　イオリが首を傾げれば2人は、至極真剣な顔で頷いた。

「夢枕にな、明日の朝に大樹に来いと・・・。」

「俺達は2人だけで向かったんだよ。」

ーーー爺様は俺が担いだ。

　ニヤリと笑うフェンバインにハニエル老も愉しげに頷いた。

「早朝に向かえば、大樹は復活しておらなんだ。
　灰色となった大樹を前に、がっかりしたのを覚えておる。
　大樹は森のエネルギーの源。
　我らにとって母なる樹だ。」

　ルーシュピケの住人は母なる樹という言葉に頷いている。
　自然を求めるエルフだけではなく、獣人にも大樹は大切なのだ。

「するとな、灰色の大樹の幹から小さな小さな子鹿が現れたのだ。
　ピョコンと耳を立てて、愛らしい子鹿であった。」

　子鹿と聞いて、イオリは目を見開いた。

「ヒヒヒ。」

　イオリの反応を見てハニエル老が笑った。

「子鹿は黙って、大樹を見上げておった。
　するとな、見た事もない大きさの鹿が音も立てずにやって来たのだ。
　大きな鹿は自分の事を“パライソの守護者・アマメ”と名乗ったのだ。」

　それにはイオリではなく、“ルーシュピケ”の獣人が驚いた声をあげていた。
　どうやら、今まで聞かされてなかったようだ。

「アマメとは、古から伝えられた、我らが神獣様の名だ。
　大きな鹿は我らに言った。」

　ーーー人によって、息子が拐われた。
　　　　
「息子が拐われた事で荒ぶり、自分の核を闇に染める危険を冒したと・・・。
　だから、森が荒廃したのだと。
　自身も知らぬうちに、他の土地に送られていたと・・・。」

　ハニエル老の言葉に“ルーシュピケ“の住人達は怒号を上げた。

「人族の仕業！！」

「また、人族なの？」

「やっぱり、人族を信用できない！」

　“ルーシュピケ”の住人達の怒りは尤もだった。
　ヒューゴは不安気なニナを徐に抱き上げた。

ダンッ！！

「うるせー！話は終わりじゃねぇゾウ。」

　すると、フェンバインが足を踏み鳴らし住人達を制した。
　それでも、住人達の怒りは収まっていない、怒りの矛先は2人の代表者にも向かった。

「2人は、どうして黙ってた！」

「そうだ！
　俺達に何故、教えない！」

　国に王が存在しない。
　こんな時が、1番纏め上げるのが難しい。

　2人にも怒る住人を前にハニエル老は溜息を吐いた。

「その時の事を私達は国の皆には話しておらなんだ。
　混乱を招くようで、恐ろしかったのも事実だ。
　何よりも、私達が懐疑的であったのだよ。」
　
「分かります。」
　
　眉を下げるハニエル老にイオリは頷いた。
　そんなイオリにハニエル老は再び微笑んだ。

「“パライソの守護神”であられるアマメ様は仰った。
　自分を助けてくれたのも、また人間であると。」

　自分達を害したのも人間であるが、助けたのも人間である。
　その事実に“ルーシュピケ”の住人達は息を呑んだのだった。