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寄添う二人

第5話 (※)

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帰ってきたはいいが、なんとも気まずい。

何故なにゆえ気まずい?

ーーーー照れくさいんだな、これは。

りんは、自室に入っていったが、引き出物の紙袋とジャケットを置いて、すぐ出てきた。
シャツの腕を捲ってる。

ピッタリとしたベストが倫の身体のラインを際立たせる。

手洗いに行ってしまった。
「なんか飲む?」
その背に声を掛けた。

俺はジャケットを脱いで、背もたれに掛けると、シャツをざっくり腕まくりして、キッチンで手を洗う。
コーヒーかビールかというところだろうか?

落ち着かない。
返事を待つ間に、俺は袋の中身をテーブルに並べて、それぞれを振り分けていく。

優太ゆうたは、マメだね」
戻ってきた。
「ん? ダメかなぁ」
「そこも好き」
ハッと倫を見た。
緩く笑ってる。可愛いな。

ーーーーー好き。

今までと違う響き。
やっぱり聞き違いじゃないんだ……。

テーブルの作業をそのままして、倫に近づいて抱きしめていた。

「優太、どうしたの?」

「このまま。もう少し…このまま」

「うん……」

倫の匂いを胸いっぱいに満たしていく。

俺の、俺だけの倫…。

サラッと衣擦れの音と共に倫の腕が俺の背中に回ってきた。
ぎゅっと抱きついてくれる。
倫の体温も圧迫感も全てが嬉しくて。
いつまでも、このまま、このままずっと。

「くすぐったいぃ」

肩口に頸にと鼻を押しつけて、ゆるゆると匂いを堪能してたら、俺の髪が倫の頬や首をくすぐっていたようだ。

「ごめん」
慌てて離れる。
「こっちこそ、ごめんね。我慢出来なかった」
スッと倫から身体を寄せて抱きついてくれる。
倫の髪が頬を擽ぐる。

「倫。ーーーキスしていいかな? いや、したい」
クスッと笑われた。
「初めてかも。ハッキリ言葉でキスしたいって言われたの」
ピッタリくっついて喋るから、声の振動が身体に響いて気持ちいい。

「そうか?」
「いつも言葉にする時は、オレにお伺いって感じだったよ?」

そう言えば、俺のしたいは二の次。何より倫が優先。倫の願いが最優先だった。

倫がいいと言ってくれるまで待てる自信がある。

ーーー今日は、俺の願いを聴いてほしい。

返事が待てないーーー日頃の自信が木端微塵だ。

グッと両肩を掴むと多少強引に引き離して、目を合わせた。

目元を赤くした倫が少し驚いてたが、微笑んで、目を閉じた。

俺の目にはスローモーションのようにゆっくりと映ってる。

迎えてくれる唇は緩く結ばれて、まつ毛が僅かに震えていた。

態度でOKが出てる。
待たせたらダメだな。

さっきから心臓の音がうるさい。

早る気持ちが前のめりになりそうなのを、抑えて、ゆっくりと近づく。
吐く息が熱い。
俺の乾いた唇が、倫のしっとりとした唇に触れた。

天にも昇るとは、こういう事だろうか。

15年ぶりの確かなキスは、俺の全身を幸福で包んだ。

チュッ…チュパ…と音を立てて、キスをしてる。
耳でも感じたくって、浅いキスを繰り返していた。
背中に回った手がするりと動く。

もっと深くと、倫が望んでる。ーーーでも、もう少し……。

チュッ、クチュッ……

下唇をハムッと含むと、甘く感じて、上唇もと移り、含んで舐める。甘い。

クチュ、チュッ、クチュグチュ……

お互いに唇を啄み、舐めて、濡れて、もっと奥にと互いに身体を腰を擦り付けていた。

スルリと舌を差し込むと、倫の身体が微かに震えた。
感じてくれる。
もっと…深く…でも…。

唇の内側の柔らかい肉を舌先で撫でで、擦って、突く。

「あふぅ…うぅん……はふぅぅ…」

合間に倫の吐息が漏れる。

焦れた舌先が、こっち、もっと奥にと、誘ってくる。
ツンツンと催促する舌をいなしながら、唇を余すとろなく、堪能していく。
腫れぼったくなるかも。
外から内からと舐めて吸って、ハムッと含んで、離す。

「……もう…」
倫が吐息を漏らすように訴えてる。

「もっと」
止まらない。倫の唇が甘い。

「んん…」
ジャケットの上から摩る手も、もっと深くと強請って行ったり来たりと焦ったく動いてる。
俺は倫の唇に夢中だった。

ベスト内側に手が入れたいんだろう。布の上を手が滑ってる。
上手く入り込めなくて焦れてる。
ボタンを外すと、スルスルとベストの中に手が滑り込んでくる。
もっと隔たりを無くしたいと、キュッとシャツの背を握った。

焦らすつもりはなかったのだが。
スルリと舌を倫の歯を越えて、奥に入り込んで、舌を撫でた。
シャツを握る手と同じく切なげに絡んできた。
ベストを脱がそうと手が動いてる。
腕を動かして手を貸す。
トスンと床に落ちる。あー、シワになるなぁと頭の隅で思っていたら、舌先が乱暴に突いてきた。

こっち向いて。かな?
すまなかったと緩く上顎を舌先で撫でる。
クンと背に力が入る。
ぎゅっと抱き込むと力が抜ける。

「うふぅん…キライ」


キライ?
聞き違い…じゃないな…。
唇を離すと、銀の糸が伸びて切れた。

あ……。名残り惜しく切れた先の濡れた唇から視線が離せない…が、今はこっち。

「キライ?」
訊きたい事は今訊く。

「ん?……ああ」

キョトンとしてたけど。思い至ったようで、突然、軽やかに笑った。
欲望に濡れてた瞳に日常の光が灯って、アンバランスさに欲情する。

「うふふ。このスーツに罪ないのにね。テーラーさんの事がね…勝手なヤキモチだよ」
『なんだ、そんな事か』と、スルスルと抱き締めた。
安心して余計な事を言ってしまった。

「あの人とは何もない。昔、俺が狙われてただけ…」

ぼんやり倫の唇を見ながら、清水さんの事を告げた。終わった事だ。
解決。
キスの続きをしよう。
吸い込まれるように、うっとりと唇を寄せる。
あと少し。

「えー?!」
水を差される。しくじった。

「もう終わった事」
キスがしたいのに…。

「狙われてたの? 後ろ?」
あー、トロンと溶けてた目に好奇心の光が侵食してきたよ…。

「言い方」
「あー、ごめん」
まだ訊きたそうだが、俺が保たない。

「倫。キス。続けたい」
「…うん」
緩く重ねると、舌を絡めて、頬裏の肉にも舌を這わし、歯茎を舐めて、上顎を擦るように刺激した。

キスってこんなに気持ち良かったんだな…。


◇◇◇


「…ん…ぅふ…」

やっぱり優太とのキスは気持ちいい。

でも、こんなに焦らされるとは思わなかった。
今は口腔を余すところなく蹂躙されている。まだまだ続きそう。
唇が痺れてる。
オレも続けたい。
今は舌が痺れるかも…。

唾液だって混ざって飲んじゃってる。
もっと優太を味わいたい。

オレがもっと先をって誘ってるのにいなされる。
もう吐息か喘ぎか分かんないのが、聞こえる。

これってオレのか?

オレどうなっちゃうのぉ?

あ……垂れちゃった。

飲み損ねた唾液が口端から漏れた。

顎を伝って、首に垂れる……。

ジュルッと唇が離れる。
あっ……、寂しい。
そんな事を思ってると、垂れる先に舌先が触れ、べったりと舌全体が張り付くとズルズルと這い上がってきた。

同時に、ゾワゾワと背中を何かが這い上がる感覚がシンクロしていく。

「はぁぁぁんぅぅん……」

吐息と共に出たのは明らかな喘ぎ声。

ぼーっとする視界にちょっと吊り目のメガネの男前な優太がいる。

ーーーー大好き。

しっかりセットされた黒髪に指を差し入れて、クシャッと崩した。
額にひと房垂れる。

少し顔を顰めて、鬱陶しそうにしてる。

うふふ…可愛い。

指に絡めて掻き上げる。
カッコイイなぁ。

髪の移動をぼんやり目で追ってると髪で遊んでたオレの指を絡みとられた。

手の甲に唇が当たる。
ゾクっと背中に何かが走る。

唇がそのまま滑って移動していく。
手首の内側の薄い皮膚の上まで行くと、腕を伝って上へシャツに阻まれて止まった。少し戻ってチロリと舐められ、チリッと痛みが……。
赤い跡がついた。

唇を追っていた視線を、優太の目に移すと、視線が絡んだ。
優太の瞳がメガネの向こうで、欲情に濡れてる。
薄っすら赤くなった皮膚を見せつけるように、さっきまで唇と舌を痺れさせた舌が這うように舐めた。

ゾクゾクが止まらない。

腰が抜けそう。

抜けてた。
ガッチリ優太に支えられてた。

手と腰に回った腕に引き寄せられて、これからダンスでも踊るのかという格好だけど、腰に当たるのが、別のダンスを想像して、想像だけで、イきそうだ…。

熱い吐息が漏れる。

その吐息ごと塞がれ、吸われる。

舌が熱い。息が、唾液が、身体が、全てが熱い。

もっと深く。

ゆっくり爪先立ち、片足を上げて彼に絡ませて、空いた腕を首に回し、後頭部に添えて、全てを押し付けた。


◇◇◇


倫が熱い。

視線も瞳も、全てが濡れて熱い。

俺のも勃ち上がってたが、倫もだった。

舌が深く絡んでくる。
クチュグチュと、唇が腫れてしまうのではないかと音を立てて吸って舐めて絡んでる。

もっと深くで倫を味わいたい。
深く繋がりたい。

ピッタリとしたベストとスラックスのラインが、エロい。
腰回りを撫で回してた。

その手を取られて、前に導かれ、倫が自分の前に押しつけて、存在を認識させてくる。

「お風呂…一緒に…入る?」
キスの合間に囁いてくる。

「ぅん……入る。俺が脱がしたい」

ベストのボタンに指を掛けてた倫の手に、俺の手を重ねて止める。

手を見て、顔を上げた倫がうっそり笑う。
「オレも…したい」

チュッと唇を重ねて、互いのボタンに手をかける。
倫は両手でおぼつかない手付きで外してる。俺は倫の腰を支えながら、片手で外していた。
早る気を抑えながら、ベスト脱がし、ネクタイを抜き、下へ落としていく。

二人の腰が互いを求めて、兆してるものが、焦ったくスラックス越しに擦れあわせる。

Yシャツが肌けた時には、もう倫が立っていられなくなっていた。
横抱きに抱えると、倫の腕が首に回って抱きついてくれた。

首筋に顔を埋めて匂いを吸い込む。倫だ…俺の…。

倫が眠りそうだ。
今日は朝から大変だった。
気疲れもあったんだろう。

擦り寄って、ふぅんぅぅっとため息とも吐息とも聞こえるものが唇から漏れると、俺の腕の中ですーっと重みが増していった。

眠ったのか……。

行き先を寝室に変えた。

ベッドに着くと、横たえたが、離れ難く、そのままの状態で抱きしめて俺も横になった。

前が辛いといえば、辛いが、放っておけば治るさ。

少しも離れたくない。

シワなんてどうでもいい。
ベルトだけ抜きとる。

しっかり抱き込んで、倫が目覚めるまで、この時間に身を任せて、揺蕩って倫の温もりを感じてるうちに、俺も眠ってしまっていた。



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