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寄添う二人

第4話

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なんて事だ…。

真司しんじの結婚式が近づいて、倫との距離感が歪んでいると感じるまでになっていた。

りんが妙に身体を寄せてきたり、反対に離れて行ったりと忙しい。

もう泣く事は無くなったが、どうしたのだろう。

ソファで論文を読んだりしてると、俺を背凭れにして寄りかからせてきたり、ぺったり腕に張り付いて絡んできたりする。

疲れてるのか、寂しいのか…。
凭れかかる身体を摩ったり、トントンしたりしてやっていたが、暫くすると不機嫌になって部屋に引っ込んでしまう。

不機嫌になるのも分からないが、俺は片側にかかる重みが無くなって寂しくなる。
途轍もなく寂しくなってしまう。

倫が遠い。

困った。

タブレットや本を俺の傍や凭れかかったりして、触ってる姿に癒されてただけに、ふいっと去られるのは、居た堪れない。
焦燥感に苛まれる。

今の倫は、何かに似てる……猫みたいだ。

飼ったことないけど。


◇◇◇


優太ゆうたが釣れません。

べったりくっ付いてみたりしました。

昔みたいに『しよ?』の一言が言えませんが!

自分に嫌気がさして、優太から離れては、寂しくなってくっ付きます。

悪循環です!

真司くんの結婚式の為に、二人でスーツを新調した。
優太が行きつけの仕立て屋さんがアルトに事で連れてってもらった。

そこのテーラーさんの手つきに嫉妬したりしてます!

もう! もう!
優太のばかぁぁぁぁ!

オレのばかぁぁぁ!


***


仕上がったスーツを取りに来た。
一式着込んで、最終チェック。

オレは、真新しいスーツを鏡でチェック。
後ろで優太が見てる。
優しい顔。好き。

テーラーさんがサッとチェックしてOKが出た。
いい笑顔のテーラーさん。
職人さんだと思う。
会心の出来なんだろう。オレも解るよ。

優太のは微調整がいるかもと、テーラーさんがジャケット以外を着てくるようにと優太を追いやった。

オレのジャケットを脱がしながら、優太の話をしてくる。
ベストの細部をもう一度見て、脱がして畳む。

ん? なんでそんな話?

優太が出てきた。
テーラーの持つジャケットに腕を通す。

うむむむ…!
あのテーラー、こっちに見せつけるみたいに優太に触って!

これは挑発だ。
そうだ。挑発だよ!
ふふん。
そんな安っぽいのに乗せられるか! 

ーーーでも。
あのテーラー、オレの知らない30代の優太を知ってるみたいに話してた。

実際知ってるんだと思うけど。
優太、お客さんだもん。

優太の事、よく知ってるみたいに言ってた。
商売以外の付き合いがあったって事?

流れるような手付きで、各部をチェックしてる。指が……。

オレは、着替える為にその場を逃げるように後にした。

優太はオレだけって言ってくれてたんだよ。
オレ以外に、靡くワケないじゃん…。

……今も?

オレ…オレの…優太……取らないで。

鼻の奥がツーンした。
泣きそう。

あのテーラー嫌い。

そのテーラーに笑いかけてた優太。
あんな優太、嫌い!

こんなオレは、もっと嫌い!


◇◇◇


スーツを取りに行った。
倫は何を着ても似合う。

問題はなさそうだ。

テーラーの清水さんが、俺のスーツを手近づいてきた。
申し訳なさそうに微調整が必要かもと言う。
珍しい。
凖礼服だからか? パターンはわかってるから、いつも通りそのまま引き取るつもりだったが。

来てくるように促される。

二人を残して、試着室へ向かう。

ジャケット以外を着込んで出てきた。
サッとチェックして、ジャケットを着せてくれる。
その様子を倫が見てる。

やけに倫が清水さんを睨みつけてる気がする。
清水さんが変な事をしたのだろうか。

やはり職人の仕事というのは、倫にとっても興味深いのだろうか。

暫くすると、フイっと背を向けて着替えに行った。
なんだ?

明らかに倫が不安定だ。

チェックしながら、耳元で囁かれた。
「彼が例の想い人なんだね」
鏡越しに目が合う。

清水さんの糸目が更に細まった。
倫に何か言った?

二人きりにしない様に気を付けていたのだが、あの短時間に何を……。

清水さんは涼しい顔。
引っ掻き回さないでくれないかな。それでなくても、倫が変で困ってるってのに。

微調整は必要なく、二人とも納品となった。

さて、これで結婚式で事前に用意するものは一通り揃ったな。

倫さんの不安定さだけが心配だ。

清水さんは一体何を倫に蒔いた。
楽しそうにタネを植え付けてくれる。
芽吹かなければいいが、芽吹いた時は…トラブルの予感しかない。頭が痛い。

あの人は……。
テーラーの腕は良いのに。

倫に前もって話しておけば良かったのか?


***


倫は短期撮影旅行に出てしまった。

結婚式の前には余裕持って帰ってくると言ってたが。
倫が不義理な事をする事はないとは思うが、清水さんの件があるし、ゆっくり話がしたかったのだけど。

倫の部屋に入ってみると、スーツが吊ってあった。

浮かれてただろうか。

倫と揃いのものを作ったのは初めてだった。

俺は、どんな倫も愛そうと覚悟を決めて、離れても、倫を想い続けてた。
想うだけは許して欲しい。
重いだろうか。

俺のところに帰って来てくれた。

舞い上がる思いで、倫に触れるのも、愛おしくて、腫れ物を触るみたいにしか、触れない。
大事な、大切な、俺の倫。

でも、倫は、全てを愛してる。
俺だけのには永遠にならない。

ーーーー分かってる。


◇◇◇


飛び出して来てしまった。

分かりやすい逃避です。

優太と話し合わないといけないのだと思う。思うんだけど……。

どの写真も寂しそうになる。
談笑してるおばあちゃん達なのに、なんだか影が濃くなる。

うーーーん。違うんだよなぁ。

おばあちゃん達のは悪いけど、これはボツだな。

今回は人物より風景かなぁ……。

ファイトォー、ファイトォー、いち、にぃー、さん、しぃー……
遠くで懐かしい掛け声がする。

どこからだろう……。
部活だな…。

キョロキョロしながら歩いてると、視界が開けて、高いフェンスが立ちはだかった。

高校かな?

ザッザッと、フェンスの向こうをジャージの男子学生が走って横切って行った。

陸上部の子かな。
黙々と走ってる。長距離かもしれないな。

優太のあの写真、どうしたんだったか。

ーーーー楽しそうに跳んでたな。

嗚呼、あれは跳ぶ事を楽しんでたんだ。
閃き、ストンと落ちた。
今なら解る。

あの頃は、光とかコントラストがとか考えに凝り固まってた。あの頃は気づかなかった。バカだな。

だから、行き詰まって、辞めたんだ。

オレ、今、楽しいかなぁ……。


***


そろそろ帰らないと……。

今回はあの高校で世話になった。
始めは不審者扱いだったけど。

フェンスのところで、カメラ持った男がじっとしてたら…ね。
解るよ。解るけど。
ーーー怖かった。

向こうの先生方も怖かったよね。
途中からお互い様って笑っちゃったけど。

ーーーお互い様か。

優太と話そう!

この気持ちも、想いも、全部全部!
聞いて貰って、優太の事も、想いも、全部!訊くんだ。

車窓からの景色をスマホで撮って、メッセージと共に送る。

『帰る』


◇◇◇


結婚式。
晴れた。雲一つない晴天の青空。
真司の性格のように抜けるような空だ。

真司……大きくなったなぁ。
兄というか親の気分というより孫を見てる気分だよ。

もう可愛がりまくってたよなぁ。
向こうは迷惑だったかもな。

これからは、嫁さんに可愛がって貰え。

隣りの倫の様子を伺う。

目も鼻も赤い。
ハンカチが手放せないようだ。

カメラを扱ってる時だけ、キリッとしてる。
専属のカメラにも気遣って、位置取りしてる。

途中見せて貰ったら、花嫁さんが綺麗に写ってた。真司と幸せそうに。

温かい写真だ。


***


二次会は不参加。
当たり前だな。
倫は誘われてたみたいだが。

チャペルを眺めてた。

式までに倫と話がしたかったのだが、色々と忙殺されて、何も話せず。ギクシャクしたままここに来てしまったが。

倫も何か言いたそうだった。
聞いてやれずに申し訳なくて……。

短時間で花嫁さんと仲良くなってた倫が、ハグで別れを惜しんで、手を振って見送ってる。

こちらに駆けてきて、横に並んでチャペルを見た。

「綺麗だね」
息を弾ませて、明るい声だ。
「うん。ーーー倫」

言葉が溢れてきた。
横に立つ倫をじっと見つめていた。

何度目、もう数えて切れないな。
最後の告白をした。

「好きだ。愛してる」

嗚呼、正面を見て、手を握れば良かっただろうか。
想いのまま口をついてた。

驚きなのだろうか。
彼の見開いた目が、揺らいて、一筋頬を流れ、粒が光ってる。

柔らかく微笑んだ。

「オレも好きーーー愛してる」

今までの響きと違う何かがあった。

なんだろう……?

心の奥に染み込んでくる、好き。

これは……俺が求めてたものなのだろうか。

この多幸感はなんだろう。

スッと肩が当たった。
寄り添う倫の肩を抱き寄せた。

「帰ろうか?」
「うん」

俺たちの家に。



===========

テーラーの清水さんのお話は、スピンオフがございます。
『テーラーのあれこれ』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825350246/266780014
です。合わせてどーぞヽ(*´∀`)
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