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本編
80. 野獣の苦衷と乙女の幸福論。
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恒例のフェリクスさんもだもだタイムです。
リィナの調教……意識改革奮闘タイムとも言いますか…
最後に一発お付き合いください。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
リィナが身に着けていた物を全て取り払ってから、フェリクスは自身の纏っていたガウンを脱ぎ捨てる。
もう何度か目にしているその体躯に、けれどまだ『見慣れる』なんてところまでは行っていないリィナは直視する事が出来ずに少しだけ視線を逸らす。
ギシっと僅かにベッドが軋んで、フェリクスの太い腕がリィナの顔の横につかれて、もう片方の手で顎を軽く持ち上げられるままに見上げると、フェリクスの真剣な瞳とぶつかった。
「フェルさま……」
吸い寄せられるように、ゆっくりと落ちて来た口付けを受け入れる。
何度か触れるだけのキスを交わして、ちゅっと軽い音とともに、少しだけ顔が離れた。
顎に添えられていた手で唇を、頬を、撫でられる。
「要らねー苦労かけっかもしれねーけど……リィナの事は、必ず幸せにする」
「──はい。私も、フェリクス様の事、幸せにしてみせますわ」
微笑んだリィナのその言葉に、フェリクスがくっと笑う。
「そういや、それがプロポーズの返事だったな。──だがな、悪ぃが俺は幸せになんてなれねぇ。そんな資格、ねーからな」
リィナの頬を撫でながらどこか諦めたような笑みを浮かべたフェリクスに、リィナは僅かに眉を寄せる。
「資格、ですか…?何故……?」
「"何故"? 当たり前だろう。俺は人殺しだ。数え切れないくらいの命を、狩った」
「けれど、それは戦のせいで……フェリクス様のおかげで幸せになった方達だって、大勢います」
その言葉にフェリクスはもう一度リィナの頬を撫でてから、髪を一筋掬う。
「1人の命を奪ったら、何人を不幸にしてると思う?家族や友人や恋人や──。英雄だなんてのは、まやかしだ。俺はな、6年前の奴らと俺は、何も変わりがねぇと思ってる。俺の手は血濡れていて、とんでもねえ数の人間を不幸に突き落とした。赦される事など、あるはずもない。だから伯爵位を、領地を与えられたことも、その領地のせいで狙われる事も、甘んじて受け入れてきた。だが、リィナ──お前が、俺が良いと。俺でないと嫌だと、言ってくれて……絆されちまったせいで、誰も巻き込むつもりのなかった俺の人生に、お前を巻き込んじまった」
「フェリクス様が巻き込んだのではありません。私が勝手に飛び込んできたんですよ?」
ふわふわとリィナの髪を弄んでいたフェリクスの手を握って怒ったように見上げれば、フェリクスは小さく笑って少しだけ膨れているリィナの頬に口付ける。
「それでも……逃がしてやる機会はあった。逃がしてやれば良かったと、本当は今でも思ってる──だがもう、無理だ。誓約がどうのって事じゃなく……俺が、リィナを、離せなくなってる──だから、リィナ。例え俺がどこへ堕ちようとも、何があろうとも、リィナだけは護る。必ず、幸せにする」
握っていた手を、指を絡められて、ぎゅっと力が込められた。
リィナも指に力を込め返して──そして微笑む。
「でしたら、フェリクス様──私も一緒に堕ちますわ。フェリクス様とならどこへだって行けます。私達夫婦になったのですもの。喜びも悲しみも苦しみも、罪だって罰だって、なんだって全部半分こですわ。ねぇ、フェリクス様。フェリクス様が私を幸せにして下さるのなら、私もフェリクス様を幸せにします。だって私の幸せの中にはフェリクス様の幸せも入ってますもの。フェリクス様が幸せでないなら、私の幸せも半分になってしまいます」
リィナは指を絡めたままの手を持ち上げて、フェリクスの指先を自身の唇に引き寄せる。
「ですから、フェリクス様──見ていて下さい。フェリクス様が亡くなる時に、幸せな人生だったって思ってしまうような人生にしてさしあげますわ」
挑む様に微笑みながらちゅっと指先に口付けられて、フェリクスは瞠目して──そして苦笑を零す。
「どっからくんだ、その自信」
「自信なんてありませんけど……でも、そうですね。一つ約束します。私、何がなんでも生きます。そしてフェリクス様を看取って差し上げますわ。だってフェリクス様はおっさんですから、きっと私より先に旅立ってしまうでしょう?」
「リィナ……」
「残されるのは、寂しいですけれど……だからフェリクス様、私にたくさん下さい。子供に囲まれて賑やかにしていれば、フェリクス様が先に旅立ってしまってもきっと寂しくありませんもの」
「リィナ」
「ね、フェリクス様。私達、幸せになりましょう?」
「幸せ、に──」
躊躇うようなフェリクスに、リィナは絡めていた指を解いて、その頬に手を伸ばす。
「ねぇ、フェリクス様。私、フェリクス様はとっくに赦されていると思いますわ。だって、赦されていなければ、戦で、襲撃で、どこかで命を落としているのではないでしょうか。フェリクス様は伯爵になって、立派に領主様をなさっていますもの。戦で共に戦った皆様にも、お屋敷の皆様にも、町の皆様にも、愛されてますもの。6年前に亡くなってしまった方達だって、フェリクス様の事を恨んでなどいないと思います」
「そんなの………」
「えぇ。聞く事は出来ないから、分かりませんわ。でも、私でしたら。夫を失って途方に暮れていたところに救いの手を差し伸べて下さった方を、恨んだりなんてできません」
リィナはフェリクスの頭を緩く引き寄せて、そして子供をあやす様にその頭を抱き締める。
「フェリクス様を赦せていないのは、フェリクス様ご自身ですわ──10年経って、6年経って、それでもまだ赦せない、償いたいとおっしゃるのなら、私これから毎日フェリクス様の為に、亡くなった方達の為に、祈ります。そして領地の為に、領民の皆様の為に、残された子供達の為に、尽くしますわ。そうやって一緒に──少しずつでも一緒に、償いましょう。そうしていつかフェリクス様の憂いが晴れたら、今度は私と、きっとその頃には生まれている子供達を、たくさんたくさん、愛して下さい」
リィナの腕の中で黙っていたフェリクスが、ぎゅっとリィナを抱き締める。
「──ばぁか。お前は小難しいことなんて考えずに能天気に笑ってりゃ良いんだよ」
くぐもった声でそんな事を言われて、リィナはまぁ、と声を上げる。
「ひどいです。私一生懸命考えたんですよ」
リィナはフェリクスの頭を抱き締めていた手を背中に下ろすと、広い背中をぺちぺちと叩く。
ちっとも痛くなんてないはずなのに、フェリクスは痛ぇなと呟いて、そして小さく笑った気配がした。
「……悪ぃな」
小さな小さな呟きと共に、フェリクスの腕に僅かに力が込められる。
リィナは今度は指を握り込んで、ぽかりとその背を叩く。
「何も悪い事をしていない方に謝られるのは、好きではありません」
その言葉にフェリクスは顔を上げて、そして頬を膨らませているリィナとこつんと額を合わせる。
「──頑張んなくて良い。リィナはそのまんま……いつでもふわふわ笑いながら、俺の傍にいてくれ」
そう言われて、リィナはフェリクスの頬を包み込むと、そっと唇を重ねる。
「──はい。ずっと、お傍に」
ふんわりと微笑んだリィナの唇を何度か軽く啄んで、そうしてフェリクスは、重ねるだけの長い長いキスをした。
「だが、まぁ」
ちゅっと音を立てて唇を離すと、フェリクスが喉の奥で笑う。
「これから散々啼かせるんだけどな」
何だかとんでもなく悪そうな顔で笑われて、リィナはもぅ、と唇を尖らせる。
「雰囲気が、台無しです」
フェリクスは拗ねたような表情をしてみせたリィナの頬を撫でて、悪ぃと、ちっとも悪くなさそうに笑って、もう一度リィナに口付ける。
リィナはそれに小さく笑みを返して、そうしてゆっくりと、フェリクスの首に腕を絡めた──
リィナの調教……意識改革奮闘タイムとも言いますか…
最後に一発お付き合いください。
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リィナが身に着けていた物を全て取り払ってから、フェリクスは自身の纏っていたガウンを脱ぎ捨てる。
もう何度か目にしているその体躯に、けれどまだ『見慣れる』なんてところまでは行っていないリィナは直視する事が出来ずに少しだけ視線を逸らす。
ギシっと僅かにベッドが軋んで、フェリクスの太い腕がリィナの顔の横につかれて、もう片方の手で顎を軽く持ち上げられるままに見上げると、フェリクスの真剣な瞳とぶつかった。
「フェルさま……」
吸い寄せられるように、ゆっくりと落ちて来た口付けを受け入れる。
何度か触れるだけのキスを交わして、ちゅっと軽い音とともに、少しだけ顔が離れた。
顎に添えられていた手で唇を、頬を、撫でられる。
「要らねー苦労かけっかもしれねーけど……リィナの事は、必ず幸せにする」
「──はい。私も、フェリクス様の事、幸せにしてみせますわ」
微笑んだリィナのその言葉に、フェリクスがくっと笑う。
「そういや、それがプロポーズの返事だったな。──だがな、悪ぃが俺は幸せになんてなれねぇ。そんな資格、ねーからな」
リィナの頬を撫でながらどこか諦めたような笑みを浮かべたフェリクスに、リィナは僅かに眉を寄せる。
「資格、ですか…?何故……?」
「"何故"? 当たり前だろう。俺は人殺しだ。数え切れないくらいの命を、狩った」
「けれど、それは戦のせいで……フェリクス様のおかげで幸せになった方達だって、大勢います」
その言葉にフェリクスはもう一度リィナの頬を撫でてから、髪を一筋掬う。
「1人の命を奪ったら、何人を不幸にしてると思う?家族や友人や恋人や──。英雄だなんてのは、まやかしだ。俺はな、6年前の奴らと俺は、何も変わりがねぇと思ってる。俺の手は血濡れていて、とんでもねえ数の人間を不幸に突き落とした。赦される事など、あるはずもない。だから伯爵位を、領地を与えられたことも、その領地のせいで狙われる事も、甘んじて受け入れてきた。だが、リィナ──お前が、俺が良いと。俺でないと嫌だと、言ってくれて……絆されちまったせいで、誰も巻き込むつもりのなかった俺の人生に、お前を巻き込んじまった」
「フェリクス様が巻き込んだのではありません。私が勝手に飛び込んできたんですよ?」
ふわふわとリィナの髪を弄んでいたフェリクスの手を握って怒ったように見上げれば、フェリクスは小さく笑って少しだけ膨れているリィナの頬に口付ける。
「それでも……逃がしてやる機会はあった。逃がしてやれば良かったと、本当は今でも思ってる──だがもう、無理だ。誓約がどうのって事じゃなく……俺が、リィナを、離せなくなってる──だから、リィナ。例え俺がどこへ堕ちようとも、何があろうとも、リィナだけは護る。必ず、幸せにする」
握っていた手を、指を絡められて、ぎゅっと力が込められた。
リィナも指に力を込め返して──そして微笑む。
「でしたら、フェリクス様──私も一緒に堕ちますわ。フェリクス様とならどこへだって行けます。私達夫婦になったのですもの。喜びも悲しみも苦しみも、罪だって罰だって、なんだって全部半分こですわ。ねぇ、フェリクス様。フェリクス様が私を幸せにして下さるのなら、私もフェリクス様を幸せにします。だって私の幸せの中にはフェリクス様の幸せも入ってますもの。フェリクス様が幸せでないなら、私の幸せも半分になってしまいます」
リィナは指を絡めたままの手を持ち上げて、フェリクスの指先を自身の唇に引き寄せる。
「ですから、フェリクス様──見ていて下さい。フェリクス様が亡くなる時に、幸せな人生だったって思ってしまうような人生にしてさしあげますわ」
挑む様に微笑みながらちゅっと指先に口付けられて、フェリクスは瞠目して──そして苦笑を零す。
「どっからくんだ、その自信」
「自信なんてありませんけど……でも、そうですね。一つ約束します。私、何がなんでも生きます。そしてフェリクス様を看取って差し上げますわ。だってフェリクス様はおっさんですから、きっと私より先に旅立ってしまうでしょう?」
「リィナ……」
「残されるのは、寂しいですけれど……だからフェリクス様、私にたくさん下さい。子供に囲まれて賑やかにしていれば、フェリクス様が先に旅立ってしまってもきっと寂しくありませんもの」
「リィナ」
「ね、フェリクス様。私達、幸せになりましょう?」
「幸せ、に──」
躊躇うようなフェリクスに、リィナは絡めていた指を解いて、その頬に手を伸ばす。
「ねぇ、フェリクス様。私、フェリクス様はとっくに赦されていると思いますわ。だって、赦されていなければ、戦で、襲撃で、どこかで命を落としているのではないでしょうか。フェリクス様は伯爵になって、立派に領主様をなさっていますもの。戦で共に戦った皆様にも、お屋敷の皆様にも、町の皆様にも、愛されてますもの。6年前に亡くなってしまった方達だって、フェリクス様の事を恨んでなどいないと思います」
「そんなの………」
「えぇ。聞く事は出来ないから、分かりませんわ。でも、私でしたら。夫を失って途方に暮れていたところに救いの手を差し伸べて下さった方を、恨んだりなんてできません」
リィナはフェリクスの頭を緩く引き寄せて、そして子供をあやす様にその頭を抱き締める。
「フェリクス様を赦せていないのは、フェリクス様ご自身ですわ──10年経って、6年経って、それでもまだ赦せない、償いたいとおっしゃるのなら、私これから毎日フェリクス様の為に、亡くなった方達の為に、祈ります。そして領地の為に、領民の皆様の為に、残された子供達の為に、尽くしますわ。そうやって一緒に──少しずつでも一緒に、償いましょう。そうしていつかフェリクス様の憂いが晴れたら、今度は私と、きっとその頃には生まれている子供達を、たくさんたくさん、愛して下さい」
リィナの腕の中で黙っていたフェリクスが、ぎゅっとリィナを抱き締める。
「──ばぁか。お前は小難しいことなんて考えずに能天気に笑ってりゃ良いんだよ」
くぐもった声でそんな事を言われて、リィナはまぁ、と声を上げる。
「ひどいです。私一生懸命考えたんですよ」
リィナはフェリクスの頭を抱き締めていた手を背中に下ろすと、広い背中をぺちぺちと叩く。
ちっとも痛くなんてないはずなのに、フェリクスは痛ぇなと呟いて、そして小さく笑った気配がした。
「……悪ぃな」
小さな小さな呟きと共に、フェリクスの腕に僅かに力が込められる。
リィナは今度は指を握り込んで、ぽかりとその背を叩く。
「何も悪い事をしていない方に謝られるのは、好きではありません」
その言葉にフェリクスは顔を上げて、そして頬を膨らませているリィナとこつんと額を合わせる。
「──頑張んなくて良い。リィナはそのまんま……いつでもふわふわ笑いながら、俺の傍にいてくれ」
そう言われて、リィナはフェリクスの頬を包み込むと、そっと唇を重ねる。
「──はい。ずっと、お傍に」
ふんわりと微笑んだリィナの唇を何度か軽く啄んで、そうしてフェリクスは、重ねるだけの長い長いキスをした。
「だが、まぁ」
ちゅっと音を立てて唇を離すと、フェリクスが喉の奥で笑う。
「これから散々啼かせるんだけどな」
何だかとんでもなく悪そうな顔で笑われて、リィナはもぅ、と唇を尖らせる。
「雰囲気が、台無しです」
フェリクスは拗ねたような表情をしてみせたリィナの頬を撫でて、悪ぃと、ちっとも悪くなさそうに笑って、もう一度リィナに口付ける。
リィナはそれに小さく笑みを返して、そうしてゆっくりと、フェリクスの首に腕を絡めた──
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