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隣国ヘーラクレール編
47 悩めるクロード
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裏庭とはいえ、剣の打ち合う音が神殿から聞こえるのは何かと物騒な気もしたけれど、神官さん達はあまり気にしてはいないようだった。
「この神殿とて、英雄ヘーラクレール様に付き従った神官が開いたものです。この国は武なくして平和は勝ち取れませんでした。それにシロ様の警護もクロード様にも手助けしていただけるのは心強いですよ」
「なるほど」
とにかくクロード様の毎日の来訪は歓迎されているようで一安心だし、クロード様がいらっしゃるのでトリルさんとメリンダさんは街への情報収集に時間をたくさん割けるようになって、色々聞き込みに回っているようだ。
「昔々倒されたという毒竜ヒュドラは首が九つあったらしいです。そしてその首はバラバラに斬り落とされて、落ちた場所に封印の塚を作り、その封印を代々聖女と神殿が担ってきた……歌い継がれた通りですね」
「一番でっかい封印の塚がお城にあるらしいんだけど、大丈夫なのかしらねえ?」
街の人達や冒険者もそれを心配しているようだった。神殿が配っているポーション水で人々の体の不調は少しづつ緩和されているみたいだけれど、原因が根本から解決していないんだから不安が広がっている……当たり前だと思う。
「封印とシロ様の成長を助ける聖女の必要性ですね……ルシアナは聖女となることができるのでしょうか……」
剣の休憩中にクロード様が呟いた言葉。それは私には分からないけれど……クロード様はルシアナ様のことを名前で呼ばれる。もしかして親しい間柄なんだろうか?ちょっと気になって聞いてみたいなと思ったけれど、本当に効いて良いものなのか判断ができない。わたしが、口を開きかけたり、閉じてみたりしているのをカールさんに目ざとく見つけられてしまった。
「なー、クロード様よう、アンタはルシアナ嬢と親しいのかい? 貴族は名前で呼ぶのはアレでナンだろ?」
「あ、はい。幼馴染なんですよ。父同士があんな感じで仲が良いので……そして二人でこの国を支えて行こうと誓い合った仲です」
「えーと、ルシアナ嬢は王太子の婚約者……ひいては王妃として。アンタは第二王女の旦那として?」
「ええ……そうです……」
視線を落として、少し残念そうでもあり苦いものを思い出している表情のクロード様。きっとお二人は自分を殺し、この国のためだけにお互いの人生を使うことを使命として育ってきたんだろう。理不尽に怒りを覚えたことも多いだろうに、きっと一人ではない仲間がいることが心強かったに違いない。
でもクロード様はその苦い任務から一人外されてしまった。そして今はルシアナ様が一人で背負っている……更に聖女という重い役目まで追加した。
「私は自分が不甲斐ない。ルシアナ一人に苦労を押し付けて……私がもっと強ければ、英雄ヘーラクレール様のように巨悪を打ち倒す力があれば違ったのかと己の無力を嘆くばかりです」
「そうだったのか……それは歯がゆいな」
近くで一緒に話を聞いていたアーサーも一緒にため息をつくことしかできない。
「ルシアナ嬢のことはまだわからないんだけどクロード、思ったことがあるんだけど、言っていいかい?」
「あー……アーサー。俺もおんなじこと思ったかもしんない。最近アンタと打ち合って気が付いたんだけどよ」
「お二人ともなんでしょうか?」
剣のことは私にはさっぱりわからないけれど、アーサーとカールさん二人が感じたことなら何かあるのかもしれない。
「クロード、貴族用の細い剣じゃなくて、カールさんみたいな大剣の方が良い気がするんだ」
「俺も思った。アンタ、もっとでかいの振り回した方が良い」
「え?」
「ジ! (くろーど、おじちゃんみたいにでっかいほうがいい!)」
「シロ様? ヘーラクレール様の剣は大きかったんですか?」
「ジイッ! (うん!シロがいっぱいのっかれるくらいおっきかったよ~かっこいいよねぇ~)」
「シロ様がいっぱい……それは可愛らしいですね」
「ジィ♪ジィ♪ (うん~!)」
楽しくなったシロ様がカールさんの大剣の上に飛び乗ってぴょんぴょん踊り出したので、剣の練習はそこで終了した。クロード様はブツブツと呟きながら悩んでいらっしゃる。
「今までの修業の成果を捨てても新しい形を取るべきか……?」
「ヘーラクレール様は大きな剣をお使いだったようですよ」
「ちょっと家にいって、見繕ってきます!」
クロード様は英雄にあこがれを強く抱いているらしく、シロ様から聞いたお話を伝えると悩みはすぐに消えてしまったようだ。お役に立てる助言ができたようで、ほっと胸を撫でおろす。そんな様子も二人に見られていたようだ……なんだか恥ずかしい!
「この神殿とて、英雄ヘーラクレール様に付き従った神官が開いたものです。この国は武なくして平和は勝ち取れませんでした。それにシロ様の警護もクロード様にも手助けしていただけるのは心強いですよ」
「なるほど」
とにかくクロード様の毎日の来訪は歓迎されているようで一安心だし、クロード様がいらっしゃるのでトリルさんとメリンダさんは街への情報収集に時間をたくさん割けるようになって、色々聞き込みに回っているようだ。
「昔々倒されたという毒竜ヒュドラは首が九つあったらしいです。そしてその首はバラバラに斬り落とされて、落ちた場所に封印の塚を作り、その封印を代々聖女と神殿が担ってきた……歌い継がれた通りですね」
「一番でっかい封印の塚がお城にあるらしいんだけど、大丈夫なのかしらねえ?」
街の人達や冒険者もそれを心配しているようだった。神殿が配っているポーション水で人々の体の不調は少しづつ緩和されているみたいだけれど、原因が根本から解決していないんだから不安が広がっている……当たり前だと思う。
「封印とシロ様の成長を助ける聖女の必要性ですね……ルシアナは聖女となることができるのでしょうか……」
剣の休憩中にクロード様が呟いた言葉。それは私には分からないけれど……クロード様はルシアナ様のことを名前で呼ばれる。もしかして親しい間柄なんだろうか?ちょっと気になって聞いてみたいなと思ったけれど、本当に効いて良いものなのか判断ができない。わたしが、口を開きかけたり、閉じてみたりしているのをカールさんに目ざとく見つけられてしまった。
「なー、クロード様よう、アンタはルシアナ嬢と親しいのかい? 貴族は名前で呼ぶのはアレでナンだろ?」
「あ、はい。幼馴染なんですよ。父同士があんな感じで仲が良いので……そして二人でこの国を支えて行こうと誓い合った仲です」
「えーと、ルシアナ嬢は王太子の婚約者……ひいては王妃として。アンタは第二王女の旦那として?」
「ええ……そうです……」
視線を落として、少し残念そうでもあり苦いものを思い出している表情のクロード様。きっとお二人は自分を殺し、この国のためだけにお互いの人生を使うことを使命として育ってきたんだろう。理不尽に怒りを覚えたことも多いだろうに、きっと一人ではない仲間がいることが心強かったに違いない。
でもクロード様はその苦い任務から一人外されてしまった。そして今はルシアナ様が一人で背負っている……更に聖女という重い役目まで追加した。
「私は自分が不甲斐ない。ルシアナ一人に苦労を押し付けて……私がもっと強ければ、英雄ヘーラクレール様のように巨悪を打ち倒す力があれば違ったのかと己の無力を嘆くばかりです」
「そうだったのか……それは歯がゆいな」
近くで一緒に話を聞いていたアーサーも一緒にため息をつくことしかできない。
「ルシアナ嬢のことはまだわからないんだけどクロード、思ったことがあるんだけど、言っていいかい?」
「あー……アーサー。俺もおんなじこと思ったかもしんない。最近アンタと打ち合って気が付いたんだけどよ」
「お二人ともなんでしょうか?」
剣のことは私にはさっぱりわからないけれど、アーサーとカールさん二人が感じたことなら何かあるのかもしれない。
「クロード、貴族用の細い剣じゃなくて、カールさんみたいな大剣の方が良い気がするんだ」
「俺も思った。アンタ、もっとでかいの振り回した方が良い」
「え?」
「ジ! (くろーど、おじちゃんみたいにでっかいほうがいい!)」
「シロ様? ヘーラクレール様の剣は大きかったんですか?」
「ジイッ! (うん!シロがいっぱいのっかれるくらいおっきかったよ~かっこいいよねぇ~)」
「シロ様がいっぱい……それは可愛らしいですね」
「ジィ♪ジィ♪ (うん~!)」
楽しくなったシロ様がカールさんの大剣の上に飛び乗ってぴょんぴょん踊り出したので、剣の練習はそこで終了した。クロード様はブツブツと呟きながら悩んでいらっしゃる。
「今までの修業の成果を捨てても新しい形を取るべきか……?」
「ヘーラクレール様は大きな剣をお使いだったようですよ」
「ちょっと家にいって、見繕ってきます!」
クロード様は英雄にあこがれを強く抱いているらしく、シロ様から聞いたお話を伝えると悩みはすぐに消えてしまったようだ。お役に立てる助言ができたようで、ほっと胸を撫でおろす。そんな様子も二人に見られていたようだ……なんだか恥ずかしい!
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