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12.薄れていく君の存在

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 かさかさと地面を走る枯れ葉が目立ち、いよいよ冬が近づいてきたことを知る。長袖の上にコートを羽織って出かけるのがすっかり当たり前になった。クローゼットの中の彼女の服は、結局そのまま残してある。いつ帰ってきてもいいように。そう思っていたのに、すっかり季節違いの服になってしまった。布団を被るたびに香っていた甘い匂いも、もうしない。

 相変わらず、彼女の夢だけは毎晩見る。日に日に胸の痛みが強くなる。顔も名前も思い出せないくせに、僕は彼女に会いたくて堪らないんだ。


 終業後、少し残らせてもらって実技試験の練習をすることが常になった。過去の試験内容を確認しながら、時間を計って実際に手を動かす。日によって吉野さんが見てくれたり、田辺さんが見てくれたりする。貴重な時間を無駄にしないように、普段の業務とさほど変わらない集中力で臨むから、帰る頃にはくたくたになってしまう。

「工藤、飯食ってくか?」

 帰り支度をして出ていこうとしていたところを熊谷さんに声をかけられた。これから帰って自炊するのも大変だけど、だからといってスーパーの総菜も最近は体が受け付けない。でも、迷惑じゃないだろうか、と悩んでいると、熊谷さんは僕の頭を優しく小突いた。

「遠慮するなって。梨花も賑やかなほうが好きみたいだし、頑張ってるご褒美だと思ったらいい。あ、でも猫が待ってるんだっけ?」
「猫……は特に飼ってないですが」
「あれ、記憶違いか。まあ、特に用事がないなら寄ってけ」

 そう言って歩き出した熊谷さんの後をついて歩く。猫なんか飼っていないはずだ。だけど、家にある見慣れないものの中に猫用の皿やキャットフードもあった。やっぱり、最近よく見かけるあの黒猫は彼女に関係しているのではないだろうか。彼女と一緒に猫を飼っていた? 思い出せなくて、やきもきする。
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