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15.とある忍の独白
しおりを挟む私は、ある辺境の里で産まれました。
そこは『忍』と呼ばれる、陰で暗躍する集団の里でした。
私もその一員として、幼い頃から厳しい修行と鍛錬の日々を繰り返していました。
私の名前は、ありません。親からも数字で呼ばれていました。
十歳になり、幾つか任務を任されるようになりました。成功したら親が『よくやった』と一言だけ褒めてくれ、とても嬉しかったことを覚えています。
ある日、とある偉い人の“暗殺”の任務を与えられました。
私は、それを拒否しました。親から怒鳴られても怒られても拒否しました。
“人殺し”なんて非道な行いは、絶対にしたくなかったからです。
そんな私を、親は『親不孝者』『忍失格』『臆病者』と罵り、里の長は私を『出来損ない』とし、処分しようとしました。
私は命からがら逃げ出しました。
追手から一生懸命逃げて、逃げて逃げて――
気が付けば、血みどろで地面に倒れていました。
あぁ、私の命はここで終わるんだ、本当に意味の無い人生だった、と思いました。
意識が朧気になってきた時、誰かの甲高い悲鳴が聞こえました。
朦朧としながらも薄目を開けると、そこには黄金色の髪と綺麗なエメラルドグリーンの瞳をした、同じ年くらいの女の子が、両手を口に当て私を見ていました。
あぁ、怖いんだな、と思いました。何せ私は血みどろですから。
驚かせてごめんなさい。もうすぐ死ぬから放っておいても大丈夫ですよ。
そう言いたくても、もう口さえも動かせません。
「大丈夫っ!? 今、村まで連れてくから! それまで頑張って!!」
女の子の必死の声が聞こえたかと思ったら、身体がフワリと浮かび上がりました。
女の子が、私をおんぶしたのです。
私の汚い血が髪や服にへばり付くのも構わずに、女の子は歯をギリリと食いしばりながら、私を背負って少しずつ歩いていきます。
私は、女の子より身長も高くて重いです。辛いに決まっています。
「降ろして……」
何とかそれだけ言葉に出来ました。
けれど女の子は、
「やだっ!! 絶対に連れてくっ!! 絶対に助けるんだからっ!!」
と言って、額に汗を吹き出しながらも歩き続けます。
村の入口まで来た時、女の子が、
「おかーさぁーーんっ!! この子を助けてぇーーーっ!!」
と、馬鹿でかい声で叫びました。
すると、大人達が何人かこちらに向かって駆け寄って来て、そこで私の意識は無くなりました。
目を覚ますと、私は包帯をグルグルに巻かれた状態でベッドの上に寝ていて、助けてくれた女の子の顔がどアップで目の前にあってビックリしました。
「あっ! お母さん、この子目を覚ましたよ!」
「あらあら、本当に良かったわ」
女の子の後ろから、彼女と同じ黄金色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持った美人の女性が現れ、優しく微笑みました。
「結構血は出てたけど、切り傷だけで命に別状は無いってお医者さんが仰ってて安心したわ。大変な目に遭ったのね……。御両親は?」
私はその問いに、無言で首を左右に振りました。
「……そう……。帰る所はあるの?」
その問いにも、首を横に振って答えます。
「もう、お母さん! まずは自己紹介からでしょ? 私、リュシルカっていうの! あなたのお名前は?」
また首を左右に振ると、リュシルカと名乗った女の子はキョトンとして首を傾げました。
「お名前、ないの……?」
首を上下に振ると、女の子はうーんと考え、何かを思い付いたのかパッと目を輝かせました。
「じゃあ、私がお名前考えていい? あなた、とてもキレイでステキな琥珀色の瞳をしているから、コハクって名前はどう?」
「……コハク……?」
私の瞳の色を褒めてくれたの、この子が初めて……。
里では『変な色』と馬鹿にされていたけれど、私はこの色をとても気に入っていたから。
――だから、とても嬉しい……。
「うん、気に入ってくれた?」
「……はい、すごく」
「やった! コハク、よろしくね! ねぇお母さん、コハクに帰る場所がないんなら、私達の家族にしようよ! いいでしょ?」
……え? いや、そんな簡単には……。
「えぇ、勿論いいわよ」
そんな簡単でいいんですかっ!?
「コハクちゃんは大丈夫? 私達の家族になってくれる?」
女の子とそのお母さんが、ニコニコとして私を見ています。
その温かく穏やかな視線に、私の目から涙が零れ出てきました。
「……よろしく、お願いします……っ」
泣きじゃくる私を、女の子とお母さんが優しく抱きしめてくれて。
忍の里では、決して感じることの無かった温もりで――
――その時、決意したんです。
リュシルカとお母様は、私が命に代えても絶対に守る、と。
本当の家族の“温かさ”と“優しさ”を教えてくれた二人には、感謝しかありません。
私は、私の心から愛する二人が幸せなら、私も幸せだから。
だから、二人を泣かせたり、害する者は、誰であろうと決して許しません。
それが、例え一番偉い国王であろうと、リュシルカが“愛する者”であろうとも――
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