17 / 38
16.胃痛の王族夕食会
しおりを挟むこの二日間は特に人の接触は無く、何事も無いまま平穏に過ぎていった。
国王の娘とはいえ、不貞の子の私に関わると面倒だという者が殆どなんだろう。
私のお世話をしてくれる侍女はいるが、極力私とコハクだけで自分達の身の回りのことをしているので、最低限の会話しかしていない。
『お城の人達は基本信用しちゃ駄目よ。周り全てが敵と思って、油断しないようにね』
お母さんのこの言葉を胸に刻み込み、常に警戒をしている。
けれど、オズワルドさんにだけは心を許している。
「彼なら大丈夫だと私も思いますよ。バカ正直者で嘘はつけないし、本当にリュシルカのことを心配しているのが伝わってきますし。貧乏くじを常に引く可哀想な人でもありますが」
と、コハクのお墨付きもあるので、きっと大丈夫だ。
今度、胃痛を和らげるお薬を買ってあげよう……。
ホークレイとすれ違うことはあるけれど、大抵ミミアン王女と一緒だ。ピットリと寄り添って腕を組み、時々ミミアン王女がホークレイに抱きついているのも見掛ける。
「ねぇ、ホークレイ。ワタクシの部屋に行きましょう? アナタと二人っきりになりたいのぉ。モチロンいいでしょぉ?」
「……畏まりました」
二人の寄り添う姿と、これ見よがしに聞こえる会話に、胸の奥に痛みは走るけれど……それだけだ。
「チッ……あの第一王女、リュシルカにわざと聞こえるように言ってますね。このお盛ん猿どもめが……っ。タンス――じゃなくてテーブルの角に足の小指をぶつけて悶え苦しみやがれ!! です」
「あー……うん、それ地味にとっても痛いよね……」
「ボクは何も聞かなかったことにしますね。でも小指の痛みは激しく同意です……。何度ぶつけても慣れない……痛過ぎる……」
「そんなに頻繁にぶつけることは無いのですが……。どんだけオマヌケさんなんですか」
「うっ、ヒドイですコハクさんー……」
「……ふふっ」
この二人のお蔭で、気持ちが随分と楽になれた。二人には本当に感謝だ。
ホークレイの、睨まれるような視線も気にしないことにした。ここにいるまでの辛抱だ。
私は、確実に前に向かって進んでいる。
――そして、王族が集う夕食の時間がやってきた。
用意されたドレスを着て、重い足取りで食堂に向かう。
「あぁ、逃げ出したい……。胃痛までしてきたよ……。オズワルドさんは常にこの痛みと戦ってるんですね……。本当にお疲れ様です……」
「いやぁ、あっはっはっ。そうなんですよ、照れますねぇ。ありがとうございます」
「いやそこ笑う部分と照れる部分とお礼を言う部分では無いと思いますが?」
いつの間にかボケとツッコミの間柄になっていた二人の、相変わらずの緊張感の無い会話に、私の沈んだ心がふっと軽くなる。
もうなるようになれだ!
気合を入れ、食堂に足を踏み入れると、既に全員が揃っているようだった。
デイビット王子は頭の後ろで両手を組み、足も組んで姿勢悪く座っている。
王子に作法を教えている先生、これ見たら涙目だよね……。
ミミアン王女の後ろには、白銀の鎧を身に着けたホークレイが目を閉じ姿勢良く立っている。一緒には食べないようだ。
そして――
王の横に座る、ブラウン色の髪と同じ色の吊り目の女性が、王妃であるアマンダ様か……。
初めて王城に来て王と謁見した時は姿を見掛けなかったから、今回が初の顔合わせだ。
私は席に着く前に、王と王妃に向かってカーテシーをした。
「ゾルダン国王陛下、並びにアマンダ王妃陛下に御挨拶申し上げます。アマンダ様、御挨拶が遅くなり大変申し訳ございません。私はリュシルカ・ハミルトと申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「ふーん……。貴女が、この人の捜していた女の子供なのね。ま、アタクシやアタクシの子供達に一切迷惑を掛けなければ、別にここにいてもいいわよ」
「……寛大な御心遣い、誠にありがとうございます」
「数日ぶりにお主の顔を見たが、相変わらずイレーナに似て美しいのう。目の保養になるわい、グフフ……。さぁ、席に座って夕食を食べようじゃないか」
え、王妃の前で言っちゃうのそれ!? いいのっ!?
慌てて王妃を見ると、彼女は特に気にした風でもなく澄まし顔をしている。
内心ヒヤヒヤしながらも、私は入口に近い席に着く。そのすぐ斜め後ろにコハクが立ってくれた。
オズワルドさんは、食堂まで護衛としてついて来てくれただけなので、この場にはいない。
――そして、緊張の夕食の時間が始まった。
私は、初めに出されたスープに、心の中で盛大に溜め息をついた。
他の皆のスープ皿は銀製なのに、私のは違うからだ。
他のスープ皿とよく似た風に作られているけれど、私は一目で分かった。
お母さんから、銀製の食器と他の食器の違いを頭に叩き込まれてあったから。
……てことは、入ってるよね……コレ。
……“毒”、が……。
コハクにチラリと視線を投げ、目で会話をする。
『これ、絶対に銀製のお皿じゃないよね? やっぱり入ってるよね、“毒”?』
『えぇ、いきなり早速きましたね。リュシルカ、バレないように自然体ですよ?』
『うぅっ、分かってるよ……』
私は心の中でメソメソと泣きながらスプーンを手に取り、スープをホンの少量掬い、静かに口に運ぶ。
……舌が、ピリピリする。
――やっぱり“毒”が入ってたーーっ!!
104
お気に入りに追加
2,517
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる