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Ⅲ、二人の皇子
40、六属性を操る魔物を倒す方法
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「やあぁぁぁっ!」
俺の腕を振りほどいたかと思うと、戦斧を構えたユリアがスキュラへ突撃する。水の結界で守っているとはいえ、無茶してほしくないんだが――
「たぁっ!」
「グアーッ!!」
大きく開いた獣の口から岩が飛び出す――かと思いきや、戦斧の横薙ぎに岩石ごと振り飛ばされた。
だがすぐとなりの首が口を開け――
バリバリバリッ
「じびびばばばばば」
「ユリア! 感電したのか!?」
獣は口から雷を吐いたのだ。金属製の戦斧でそれを防ごうとしたユリア、プスプスと白煙を上げて倒れ伏す。
「回収するわよー」
レモがその場にそぐわないのん気な声を出し、
「風舞鞭! 我が意のままに!」
風をひものように操ってユリアの身体をたぐり寄せた。
「なんだか首のコリがほぐれた気がするなぁ」
戻ってきたユリアは平気な顔して立ち上がったのだ。怪力の持ち主というだけじゃなく、身体防御力まで化け物級なのか? 心配して損したぞ!? などと思っていると、
「また雷が来るわよ!」
「よしっ、俺につかまれ!」
俺は翼を広げ、空中高く舞い上がった。金色の光線は、俺たちのいた空間を貫き、はるか遠くへ消えて行く――と同時に、別の首が空中の俺たちへ向かって炎を吐いた! 俺がひらりとかわすと同時に、
「吹夥矢!」
レモが風を吹かせて炎をスキュラに戻した。自分で吐いた炎であわや丸焦げに――と思いきや、
バシャーン!
別の頭が水を吐いて、火を消した。
「ちっ」
レモが残念そうに舌打ちしたとき、たった今火を消した獣の首が、俺たちに向かって水鉄砲を吐き出した。
「帰れ」
俺がにらむと一瞬で、間欠泉のごとき水柱は獣の首へ戻っていく。
「水刃と化して閃きたまえ!」
「グガァ!」
俺の言葉に従い刃と化した水が、水鉄砲を吐いた首に直撃する。獣頭はガクンと折れた。
「烈風斬!」
次はレモの攻撃。ねらいは――
「カハァッ!」
獣たちの上についていた、人間の女の首だった! だが本体とも見える首を風の刃に落とされたにも関わらず、残った四匹の獣たちはまったく動じない。
「あれは飾り物だったってこと!?」
目を見開くレモ。ラピースラが入るためにあけてあったのか? 勢いの衰えぬ獣の首は、俺たちに向かって炎を吐いたり、雷を落としたり、瘴気と思われる黒いもやを浴びせようとしたり、一斉に攻撃してくる。だがそのどれも、空中にいる俺たちには届かない。しかし残る一匹が大口を開け――
ブワーーーーッ
「嵐だと!?」
「相殺無風! 続いて烈風斬!」
レモが逆方向の風魔法で嵐を無力化すると同時に、その風に別の攻撃魔法を乗せて嵐を吐いた首を斬り落とした!
「よっしゃー! 三匹目!」
元気いっぱい、うれしそうなレモ。
「残るは、火と雷と瘴気か! 凍れる刃よ!」
ボオォォォ……
「とかしやがった!?」
勢い良く炎を吐いたのだ。これは氷以外の術を使う必要がありそうだ。
「烈風斬!」
レモがたった今、炎を吐いた頭をねらうが、同じ攻撃を二度受けるほど馬鹿じゃないのだろう。野生動物の俊敏さでかわしてしまった。
「クソ、ちょこまか動きやがって――」
体内の血液を沸騰させるという、あの我ながら鬼畜な所業とも言える攻撃を仕掛けようと思ったのだが、跳ね回るせいで精霊力を集中できないのだ。
「風鎖封!」
レモが風の術で縛ろうとしてくれるが、炎を吐きながら逃げ回るせいで、熱が対流を起こして風の鎖は宙に浮かび上がってしまう。
「腹立つわね! こんなときにユリアは寝てるし!」
「えぇっ!?」
抱えたままのユリアを見ると、俺の腕に豊かな胸を乗っけたまま、うつらうつらしている。道理で重いわけだ。精霊力を使っていなけりゃ、俺の華奢な腕が折れているところだった。
「風鎖封! 我が意のままに!」
レモは片腕で肩を組むように俺につかまったまま、下で右往左往するスキュラを狙って風の鎖を振り回す。そのとき――
ゴドッ
寝入ったユリアの手からすべり落ちた戦斧が、瘴気を吐く獣頭に激突した。
「…………」
あまりに間抜けな展開に一同、あぜんとする。一切殺気のない攻撃だから、よけられなかったのか?
「くーくー」
自分の武器を落としたことにも気付かないユリアの寝息だけが聞こえる。
「気を取り直して! 残るは炎と雷だけよ!」
レモがいまだ風の鎖を振り回しながら、士気を高める。
「よしっ! レモ、風魔法でスキュラを引き付けておいてくれ」
「了解! 何か考えがあるのね?」
「ちょっと大きい術を使ってみる」
言うなり俺は目を閉じて、故郷の海を思い描いた。モンテドラゴーネ村の高台から見下ろしていた、キラキラとした波、青空を悠々と旋回する海鳥たち、遠くに見える島々――
「大海よ、ここに来れ!」
ざ、ざぁぁぁぁぁん!
「できた! 亜空間に海を呼べた!」
「規格外のことするわねー、ジュキって。さすが水の精霊王というか、なんというか……」
犬かきするニ頭の獣を見下ろしながら、レモが感心しているのか呆れているのか分からない声を出す。
「俺も試してみたのは初めてだけど――」
「普通の街じゃ試せないもんね。こんな災害級の術」
うっ、確かに。
「じゃ、終わらせるぜ」
俺が下を見下ろしたとき、殺意を感じたのか獣の頭が炎と雷を吐いた。俺は背中の翼を羽ばたいて、余裕でかわすが――
バリバリッ
「え……?」
見下ろすと、スキュラの身体が無傷のまま、ぷかーんと海に浮いている。
「俺まだ攻撃してない……」
「自分で吐いた雷に感電したんでしょ」
レモが冷たい口調で解説した。
「まじか!」
「知能はあくまで獣並みだったってことね」
「うそー。俺の出番なくなっちゃったじゃん」
とどめを差すという一番かっこいいところを奪われた気分。
「あら。ジュキが大海原を召喚したから倒せたんじゃない。いつもの通り、大活躍だったわ」
優しいレモが褒めてくれた。
「あとは、どうやってここから抜け出すか、ね」
「亜空間を作る魔法が禁じられてるのに、ここから出る魔法なんてあるのか?」
─ * ─
いよいよ亜空間脱出編! 次話に続く!
俺の腕を振りほどいたかと思うと、戦斧を構えたユリアがスキュラへ突撃する。水の結界で守っているとはいえ、無茶してほしくないんだが――
「たぁっ!」
「グアーッ!!」
大きく開いた獣の口から岩が飛び出す――かと思いきや、戦斧の横薙ぎに岩石ごと振り飛ばされた。
だがすぐとなりの首が口を開け――
バリバリバリッ
「じびびばばばばば」
「ユリア! 感電したのか!?」
獣は口から雷を吐いたのだ。金属製の戦斧でそれを防ごうとしたユリア、プスプスと白煙を上げて倒れ伏す。
「回収するわよー」
レモがその場にそぐわないのん気な声を出し、
「風舞鞭! 我が意のままに!」
風をひものように操ってユリアの身体をたぐり寄せた。
「なんだか首のコリがほぐれた気がするなぁ」
戻ってきたユリアは平気な顔して立ち上がったのだ。怪力の持ち主というだけじゃなく、身体防御力まで化け物級なのか? 心配して損したぞ!? などと思っていると、
「また雷が来るわよ!」
「よしっ、俺につかまれ!」
俺は翼を広げ、空中高く舞い上がった。金色の光線は、俺たちのいた空間を貫き、はるか遠くへ消えて行く――と同時に、別の首が空中の俺たちへ向かって炎を吐いた! 俺がひらりとかわすと同時に、
「吹夥矢!」
レモが風を吹かせて炎をスキュラに戻した。自分で吐いた炎であわや丸焦げに――と思いきや、
バシャーン!
別の頭が水を吐いて、火を消した。
「ちっ」
レモが残念そうに舌打ちしたとき、たった今火を消した獣の首が、俺たちに向かって水鉄砲を吐き出した。
「帰れ」
俺がにらむと一瞬で、間欠泉のごとき水柱は獣の首へ戻っていく。
「水刃と化して閃きたまえ!」
「グガァ!」
俺の言葉に従い刃と化した水が、水鉄砲を吐いた首に直撃する。獣頭はガクンと折れた。
「烈風斬!」
次はレモの攻撃。ねらいは――
「カハァッ!」
獣たちの上についていた、人間の女の首だった! だが本体とも見える首を風の刃に落とされたにも関わらず、残った四匹の獣たちはまったく動じない。
「あれは飾り物だったってこと!?」
目を見開くレモ。ラピースラが入るためにあけてあったのか? 勢いの衰えぬ獣の首は、俺たちに向かって炎を吐いたり、雷を落としたり、瘴気と思われる黒いもやを浴びせようとしたり、一斉に攻撃してくる。だがそのどれも、空中にいる俺たちには届かない。しかし残る一匹が大口を開け――
ブワーーーーッ
「嵐だと!?」
「相殺無風! 続いて烈風斬!」
レモが逆方向の風魔法で嵐を無力化すると同時に、その風に別の攻撃魔法を乗せて嵐を吐いた首を斬り落とした!
「よっしゃー! 三匹目!」
元気いっぱい、うれしそうなレモ。
「残るは、火と雷と瘴気か! 凍れる刃よ!」
ボオォォォ……
「とかしやがった!?」
勢い良く炎を吐いたのだ。これは氷以外の術を使う必要がありそうだ。
「烈風斬!」
レモがたった今、炎を吐いた頭をねらうが、同じ攻撃を二度受けるほど馬鹿じゃないのだろう。野生動物の俊敏さでかわしてしまった。
「クソ、ちょこまか動きやがって――」
体内の血液を沸騰させるという、あの我ながら鬼畜な所業とも言える攻撃を仕掛けようと思ったのだが、跳ね回るせいで精霊力を集中できないのだ。
「風鎖封!」
レモが風の術で縛ろうとしてくれるが、炎を吐きながら逃げ回るせいで、熱が対流を起こして風の鎖は宙に浮かび上がってしまう。
「腹立つわね! こんなときにユリアは寝てるし!」
「えぇっ!?」
抱えたままのユリアを見ると、俺の腕に豊かな胸を乗っけたまま、うつらうつらしている。道理で重いわけだ。精霊力を使っていなけりゃ、俺の華奢な腕が折れているところだった。
「風鎖封! 我が意のままに!」
レモは片腕で肩を組むように俺につかまったまま、下で右往左往するスキュラを狙って風の鎖を振り回す。そのとき――
ゴドッ
寝入ったユリアの手からすべり落ちた戦斧が、瘴気を吐く獣頭に激突した。
「…………」
あまりに間抜けな展開に一同、あぜんとする。一切殺気のない攻撃だから、よけられなかったのか?
「くーくー」
自分の武器を落としたことにも気付かないユリアの寝息だけが聞こえる。
「気を取り直して! 残るは炎と雷だけよ!」
レモがいまだ風の鎖を振り回しながら、士気を高める。
「よしっ! レモ、風魔法でスキュラを引き付けておいてくれ」
「了解! 何か考えがあるのね?」
「ちょっと大きい術を使ってみる」
言うなり俺は目を閉じて、故郷の海を思い描いた。モンテドラゴーネ村の高台から見下ろしていた、キラキラとした波、青空を悠々と旋回する海鳥たち、遠くに見える島々――
「大海よ、ここに来れ!」
ざ、ざぁぁぁぁぁん!
「できた! 亜空間に海を呼べた!」
「規格外のことするわねー、ジュキって。さすが水の精霊王というか、なんというか……」
犬かきするニ頭の獣を見下ろしながら、レモが感心しているのか呆れているのか分からない声を出す。
「俺も試してみたのは初めてだけど――」
「普通の街じゃ試せないもんね。こんな災害級の術」
うっ、確かに。
「じゃ、終わらせるぜ」
俺が下を見下ろしたとき、殺意を感じたのか獣の頭が炎と雷を吐いた。俺は背中の翼を羽ばたいて、余裕でかわすが――
バリバリッ
「え……?」
見下ろすと、スキュラの身体が無傷のまま、ぷかーんと海に浮いている。
「俺まだ攻撃してない……」
「自分で吐いた雷に感電したんでしょ」
レモが冷たい口調で解説した。
「まじか!」
「知能はあくまで獣並みだったってことね」
「うそー。俺の出番なくなっちゃったじゃん」
とどめを差すという一番かっこいいところを奪われた気分。
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優しいレモが褒めてくれた。
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