上 下
144 / 191
Ⅲ、二人の皇子

41、亜空間から脱出できるのか!?

しおりを挟む
「亜空間を作る魔法が禁じられてるのに、ここから出る魔法なんてあるのか?」

「あるわよ」

 レモは即答した。

「確実にあるのよ。じゃなかったら皇子は、モンスターを放ったりしない。私たちを亜空間に閉じ込めるだけで充分だったはずよ」

 亜空間から出てくるのを防ぐため、魔獣と一緒に閉じ込めたってわけか。

「とりあえず下に降りるか。――海水よ、在りし場所に帰りたまえ」

 海は一瞬にして消えた。眼下に残されたのは濡れそぼったスキュラの死体と、海水に濡れて光るユリアの戦斧バトルアックス

 地面でもなんでもない亜空間の底に降り立つと同時に、ユリアが目を覚ました。

「クンクン、なんか磯の香りがする。クラーケンの墨壺まっくろパスタが食べたくなってきたな」

 寝ぼけて食いもんの話をするユリアは無視して、俺はスキュラの死体に向かった。

てつけ」

「これでようやく、アカデミーが危険なモンスターを作っている証拠を持って帰れるわね」

「ここから出られればな」

 不安を払拭できない俺は、つい暗い声を出す。ユリアを振り返り、

「あんたの高性能な亜空間収納バッグに、このモンスター入る?」

「もっちろーん! ルーピ伯爵家ご用達バッグだもん!」

 ユリアは先のことなど何も気にしていない様子。

「ジュキ、心配しないで」

 レモが優しく俺の腕をなでてくれた。

「私のギフトがなんだか覚えているでしょ?」

風魔法アリアと――」

 いつも風魔法ばかり使っているから、こちらは忘れるわけがない。

魔術創作クリエイションよ」

 そうだった。今からここで、亜空間を破る魔術を新たに考え出すってことか。

「でも魔術書もなしにできるのか?」

「ハンドブックだけはいつも持ち歩いてるの」

 レモは亜空間収納になっていると思われる小さなポシェットから、「上級魔術ハンドブック」を取り出した。

「皇子の使った『亜空間展開ハイパースペース』は禁術だけど、亜空間自体は魔道具として身近なものよ」

 レモは俺を安心させるようなほほ笑みを浮かべて、ポシェットを目の前にかかげて見せた。

「禁止されていない術式どうしを組み合わせるんだな?」

 俺が納得すると、

「その通り。しかも空間魔法は風魔法の上位魔術。私の得意分野よ!」

 レモはウインクするとその場に座り込み、貴族令嬢というより魔術研究に人生を捧げる魔法オタクみたいなオーラを放ちながら、ハンドブックのページをめくり始めた。

「ジュキくん、レモせんぱいに任せておけば平気平気。こっちで一緒におやつ食べよう」

 ちょいちょいと俺を手招きするユリア。

「ユリア、食べ物はとっておいたほうがいいんじゃないか?」

 あとどれくらい、ここに閉じ込められているか分からないのだ。

「だいじょぶだよ。いっぱいあるから」

「でもあんた、いっぱい食うじゃん」

「えー、今倒したモンスターはすごく大きかったから、平気だよ?」

 いや、ちょっと待て。

「スキュラ、上半身ヒトガタだったじゃん!? しかもあんた狼人ワーウルフ族なのに、犬っぽい魔物食うの抵抗ないのか!?」

「ジュキくん、果物だって野菜だって命だよ。わたしたちは色んな命をいただいて生きているんだ」

 一見いいこと言って丸め込みにかかってる!?

「できた――かも」

 レモの声に振り返ると、小さな手帳にこまごまと呪文を書き込んでいる。

「マジで!?」

「うまく行くかまだ分からないわ。二人とも私のそばへ」

 俺はもぐもぐしているユリアを引っ張っていく。二人を守るように水の結界を展開しつつ、レモのとなりに立った。もとの空間に戻ったら目の前に皇子がいて、いきなり攻撃してくる可能性だってあるのだ。

聞け、風の精センティ・シルフィードくうべるぬしよ。我らつどいしこの場はかりそめなるもの」

 レモは空間魔法の印を結んで、できたてほやほやの呪文を唱える。

あやしなるさかい破りて我らが身、うつつへ転じたまえ。亜空間消滅リアルリターン!」

 白い光が弧を描いてレモの両手から舞い上がる。原色の絵の具が混ざりあったかのような霧がすぅっと薄くなり、切れ目が生じた。

「あっ、さっきの応接間!」

 俺は思わず指さした。


 ─ * ─


亜空間から抜け出せるのか!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた 少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

追放された貴族の子息はダンジョンマスターとなりハーレムライフを満喫中

佐原
ファンタジー
追放された貴族が力を蓄えて好き放題に生きる。 ある時は馬鹿な貴族をやっつけたり、ある時は隠れて生きる魔族を救ったり、ある時は悪魔と婚約したりと何かと問題は降りかかるがいつも前向きに楽しくやってます。追放した父?そんなの知らんよ、母さん達から疎まれているし、今頃、俺が夜中に討伐していた魔物に殺されているかもね。 俺は沢山の可愛くて美人な婚約者達と仲良くしてるから邪魔しないでくれ

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...