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妹のために
しおりを挟むマナとカイルの二人はカイルの父親からお使いを頼まれて市場に来ていた。
市場はいつも通り賑やかに活気づいていた。
人通りが多く、カイルとはぐれそうで、マナはカイルの袖をつかんだ。
その瞬間カイルがビックと反応した……が、カイルはマナの方を見ようともせず、さっさと歩いていってしまう。
マナがカイルの様子を窺うと、なぜかカイルの耳は赤くなっていた。
突然、カイルは足を止めた。
「何? 急に止まって」
「あれ」
カイルが指差す先にいたのはナナだった。
路地の方に入っていくのを見た二人は、後を追った。
ナナは数人の女子に囲まれているようだ。彼女たちの不穏な空気を感じとり、声をかけられず、二人はその場で様子を見る。
「ナナ、これがルビーのペンダントよ。綺麗でしょ」
女子グループのリーダーらしき女がペンダントをナナに見せびらかす。
ナナは下を向いたまま、黙っている。
「あ、そっか。ナナはルビーのペンダントなんか持ってないわよね。ごめん」
彼女の甲高い笑い声が響き渡る。取り巻きの女子達もさりげなくルビーのペンダントを見せながらクスクスと笑っていた。
ナナは唇を噛みしめ、拳をぎゅっと握った。
マナは見ていられなくて、ナナの方へ足を踏み出そうとしたが、カイルがそれを制した。
カイルは真っ直ぐナナを見ると、首を横に振った。
「どうして?」
「……」
カイルの手はきつく握りしめられ震えていた。彼もマナと同じ気持ちなのだ。
彼女たちはさらにナナに詰め寄った。
「ナナも早く手に入れられるといいわねえ」
「それは無理よ、だってこの子の家は、ねえ」
「かわいそうに、父親があれじゃあねえ」
次々に浴びせられる罵詈雑言にも耐え続けるナナ。
マナもカイルも、もう耐えられなかった。
「お姉さんの雀の涙ほどの収入じゃあ、手も足も出ないでしょうよ」
その言葉を聞いた途端、今まで沈黙を保っていたナナが動いた。
「てめえ! お姉ちゃんの悪口言う奴は、絶対許さねえ」
ドスの効いた低い声、人を殺しそうな鋭い目つき、一瞬で人の間合いに入り込むスピード。
その場にいた誰もが凍りついた。
ナナに首元を掴まれた子がガタガタと肩を震わせ涙目になる。
「もう、いいわ……帰りましょう」
彼女たちはナナから恐る恐る離れていくと、あっという間にいなくなった。
ナナは彼女たちが去ったあと、自分の服についた誇りを払い、何事もなかったかのようにその場を後にした。
マナとカイルは唖然とする。
ナナを絶対怒らせないようにしようと心に誓うのだった。
カイルは心配そうにマナを見る。
マナは思いつめた表情をしながら下を向いていた。
「マナ……」
「私、頑張る」
マナの瞳には決意が帯びていた。
「マナ……、無茶なことは」
「カイル、心配しないで」
マナは家族のこととなると無茶をするところがある。
カイルは胸に浮かんだ嫌な予感を拭い去ろうとしたが、なかなか消えそうになかった。
次の日からマナの忙しい日々が始まった。
マナの一日はこうだ、朝、家事と父の介護を済ませ、それが終わればカイルの店で夜まで働いた。一度家に帰ると、また家事と介護を済ませ、夜の仕事へと向うのだった。
新たに始めた仕事はバーでの仕事だった。
マスターが一人で経営しているお店での雑用係だ。夜の仕事は体力的にはきつかったが給料がよかった。
バーでの仕事を終え、家に帰ると、もう深夜0時を過ぎていた。
ナナと父はとっくに寝ていた。二人を起こさないように静かに移動する。
マナは月明かりの下、今日もいつもの椅子に座り一休みしていた。
「疲れたあ」
ぐっと伸びをし、一息つく。
そのとき、ギーッと小さく音がした。マナは驚いて音の方を見ると窓の扉に隙間ができている。
暗闇の中に人の気配を察知して、マナは椅子から立ち上がり身構えた。
「だ、だれ?」
暗闇から現れたのは、
「……え? 白怪盗……なの?」
月の光に照らされて現れたのは、白いタキシードにシルクハットをかぶった人物。その風貌から、マナは世間を騒がせている白怪盗だとわかった。
「怪盗が何のようですか? この家には盗るものは何もありませんよ」
怪盗は可笑しそうに笑った。
「いや、何かを盗もうというわけではありません、マナさん」
「……なんで、私の名を」
白怪盗はマナに近寄ると、スッと掌を差し出した。
「あっ」
「これを、どうぞ」
怪盗の手の上に光っていたのは、ルビーのペンダントだった。
「あなたには必要でしょう……差し上げます。大切な人のためにお使いください」
白怪盗が貧しい家に盗んだ物を配っているのは本当だったのだ。
マナのことをどこで調べたかはわからない。そんなことはこの際どうでもいい。
マナはルビーのペンダントが欲しかった。すごく、すごく欲しかった。でも……。
「……もらえません」
怪盗は驚き、不思議そうに首を傾げた。
「なぜですか? あなたが今一番欲しいものだと思ったのですが」
「欲しいです、喉から手が出るほどに」
マナは怪盗に背を向けた。
「ここでそれを受けとってはダメなんです。私はナナに胸を張れません。お気持ちは嬉しいですが、お帰り下さい」
「……そうですか、残念ですが、あなたの気持ち受け取りました。あなたは素敵なお方だ。またお会いしたいですね。それでは」
ばさっとマントを大きく翻すと、そこにはもう怪盗の姿はなかった。
しかし、怪盗がいた足下には先程のルビーが光輝いていた。
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