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戦争編〜第二章〜
第138話 真実とは愉快なものである
しおりを挟むクアドラード王国、元宮廷相談役のフェフィアは20年ぶりに王宮へ登城していた。
くそほど長い期間国のテッペンに居座った先代国王が退位して、20年でもある。少なくとも先代の子である現国王ロブレイク・クアドラードが生きている内に近寄る事はないと思っていた。
今回、ロブレイクより呼び出された。
魔の森という閉鎖的な土地にいても戦の音はエルフ領まで聞こえていた。
エルフは、本来あまり人間に関わろうとしない。フェフィアもそれは例外ではなく、エルフの祝福が授けられていると言われるクアドラード王家としか関わり合いを持たなかった。
……もう自分に関わる事はないと思っていた。
前国王が退位する原因ともなった。けじめを付ける為に、取られた現国王の取った政策が『ローク・クアドラードの王室離脱』と『ルフェフィアの宮廷相談役解雇処分』の2つ。
より一層関わるわけがなかった。
国王に呼び出されたから重たい腰を上げ、こうして王宮にいる。
王の要件は一つ。
息子である第4王子、ヴォルペールとあって欲しい。
「第3位も第4位も、確かまだ会ったことねぇな……」
第1王子は今年で28歳。大学校という学び舎に留学している。成人者しか通えない上に海外にしかない文化なのであるため、国内での評価はそこまで良くない。
第2王子は今年で21歳。騎士団の特殊部隊で武を鍛えていると聞く。とは言えど最後に会ったのが産まれたばかりであるため話にならない。
「第3位は確かロークのとこの双子の1つ下……。第4位はリアスティーンと同じだったか……」
噂の存在でしかない第3王子は、魔法に傾倒している様子。エルフが捕まればたまったもんじゃないだろう。
そして問題の第4王子は兄弟の中で1番立場が弱い。
第3王子が頼んでも国王がフェフィアと合わせるのを拒否していた、と。その話は伝わっている。序列が上の第3王子の望みは聞かずに第4王子の望みを優先させるとは。
「……生贄、か」
犠牲とも言える。
フェフィアは額に手を当て深くため息を吐──。
「……。来たか」
部屋の中で小さく呟く。
視線を扉に向けるとノックがなった。
「失礼、フェフィア様。ヴォルペール・クアドラード、ただいま参りました。入室の許可をいただければ恐悦でございます」
扉の外から告げられる丁寧な言葉。
あくまでも国民であるフェフィアは王族のその腰の低さにムッと眉間を寄せる。
出自が特殊だと聞いていたが、王子が元家臣にするには逆に失礼だ。嫌味ったらしく、非常に不愉快。
「どうぞ、開いております」
「……はい。失礼致します」
ヴォルペールの従者であろう男が重厚な扉を開いた。まだ子供である。護衛はいない。
フェフィアはより一層そのチグハグさに目がいった。
ヴォルペール第4王子は扉の外から頭を下げたまま歩もうとしない。髪はサラサラとこぼれ落ちている。色は──黒。なるほど、クアドラード家らしくない。
「悪ぃが俺はあくまでも元宮廷相談役。今は完全に身分が無い状態だ……。口調やら不敬やらに関しては勘弁してもらう」
「えぇ、突然呼び出したのは私です。今回は形式ばった挨拶な言い方は無礼講ということにしたいのですがよろしいでしょうか」
「……構わない、が」
フェフィアの座る席は上座。部屋の奥だ。
ずっと頭を下げたまま話すヴォルペールに嫌そうな顔をした。
「ではお言葉に甘えて」
そしてヴォルペールは、顔を上げてその碧眼でフェフィアを見た。
「リィンの事で話があるんだ、リィンの師匠さん!」
悪戯を企むような笑顔を浮かべて。
フェフィアはギョッと目を見開くと数秒。椅子に背を預け……──腹の底から笑った。
「アッハッハッハッハッ!! なんっっっだそりゃ!!」
「どーだ驚いただろ!」
「その身分、小娘は知ってんのか!?」
「教えてねーんだなこれがまた!」
ふふん、とドヤ顔で偉そうに腰に手を当てるヴォルペール。その様子も更に面白くてフェフィアは思わず涙が出るほど笑った。
いやはや、実に愉快。
──従兄妹が互いに身分を隠したまま遊んでいるとは!
気持ち悪い態度も何やら納得が聞く。偽物の仮面貼り付けた、ただの小僧だったとは。悪戯が上手いものだ。
「あー、笑った。ひっさびさにこんな愉快な話があるとは」
「……あの、俺が言うのもなんですけどそんなに面白かったんですか?」
「ん、いや。こっちの話だ」
「…………もしかしてリィンが金髪なのと関係あります?」
「へぇ?」
フェフィアは片足を膝の上に乗せ、それを支えにするように肘を着いた。
「第4位、リィンの出生について何か分かったみたいだな?」
「いや、実際のところあまり」
ヴォルペールは下座の椅子に腰掛けると無作法に胡座をかいた。表情は疲れたような、そして諦めたような顔だ。
「ただ、リィンは元々王族の誰かの隠し子だと思って。金髪、ってのが鍵なら辺境伯のローク・ファルシュ殿も遠縁者だろと」
「まぁ、確かにローク・ファルシュは血が入ってるな」
「あの方が辺境伯にいるなら元々クアドラード王家の血が辺境伯に多いのかもしれない。それでリィンは、ファルシュ辺境伯の近縁者か、もしくは庶民に流れた血が覚醒したと考えられます」
「ほぉ」
「…………合ってるか分からないですけど、リィンは言語とかもそうですし考え方も平民寄りなんで。俺の結論としてはローク・ファルシュ辺境伯の隠し子で、スラムや下町で親も知らずに育った、とか」
……惜しいな。
フェフィアはそう考えてふと気付いた。
辺境伯令嬢があんな口調で育てられるわけが無い、ということに。
むしろなんでリアスティーンはあんなに教育しても口調が治らないのか。多分七不思議なのだ。『形状記憶系不思議語』的な。きっとしばらくすると十不思議くらいに増えているはずだ。
「ま、半分当たりだ」
「あー……。やっぱりファルシュ辺境伯の子ってのはファンタジー過ぎましたね」
アハハ、と苦笑いを浮かべるヴォルペールの姿を見てフェフィアは思わず吹き出した。違う、そっちじゃない。
「はぁ、まぁいい。んで、主題を聞こうか」
「前提としてこの戦争の幕開けは知ってますか?」
「ん、あぁ、約150年前この島は世界規模で発生した魔力爆破の性で土地の性質が変わり雨の恵みを得られず、ついに100年前2国は飢えと乾きを満たす為に開幕し……」
「待った待った! そこまで遡らないでください! 俺が言いたいのは、つい半月前に再開された今の戦争のことです」
「いや、知ねぇな。エルフ族は特に情報に疎い」
長寿種故の感覚というか。ちょっと魔の森でゴロゴロしていたら知ってる人間はほぼ軒並み死ぬとかざらにあるのだ。
フェフィアはそれ対策のために王宮に一部屋用意されていたのだが。
よって、魔の森に暮らすエルフの中で耳の早い者でも知っているのは『戦争が始まった』くらいである。
「実は──」
──状況説明中……。
「………………なるほどな、まっったく、あの小娘はどうしてこんな厄介事ばっかり」
深くため息を吐いた。
「いやまぁ、それでリィンはトリアングロに行ったんですけど。……幹部の傷口に塩塗り込むわ布団中に入り込むわで、更に言うなら現在は傍から見ても強そうな獣人のしっぽ握って屋根にいます」
「なんでだ?????????」
自分の弟子の行動が全く読めない。性格悪いのは確実だし、なんだかトリアングロが可哀想に思えてくる。
すまんなトリアングロ、追い詰められた魔物を野に放ってしまって! (笑顔)
「それで。元宮廷相談役のフェフィア様。力を貸していただきたいことがあるんです」
「……。」
どうせ厄介事なんだろう。
第4王子個人がついた役職は……恐らく御旗役。うち抜けば燃える守りのない王族の象徴だ。
リィンの話を持ち出し場を掴み、頼み事を聞いてもらいやすくするための技か、と。先程のテンションなと知らぬ顔をして冷たい目で見た。
「で、それはなんだ」
ヴォルペールは悪戯笑顔で、フェフィアに言った。そしてフェフィアは、本日2度目の大爆笑を起こすのだった。
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