最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第二章〜

第139話 覚悟の違い

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 クアドラード王国の会議室では騎士団や大臣らが話し合いをしていた。

「しかし、受けるだけでは被害が出ます。こちらからも攻めねば」
「いや、それだと戦力を投下される恐れがある。トリアングロの戦力次第では無駄に騎士を消費するだけだ」
「とにかく時間を稼がなければならない。一斉に戦力集中すべきだ」
「エルフの力を借りてはどうだろうか」
「既に借りている状況だ。軍の進軍自体はエルフの力を借り魔の森を進ませる。それだけで早く着くだろう」
「北の街道の復旧はまだか」
「いや、北は潰したままでいいのではないだろうか。向こうの進軍ルートが南だけに絞らせてしまえば罠などが張りやすく」
「その北の街道封鎖ですら向こうの手であれば奴らの狙い通りだろう!」
「まて、お前のその話だと南の街に壊滅的な火の手が上がる。北の街道の復旧で敵戦力を分散すべきだ」
「それだと騎士団も二分割することになり」

 話は進まず、頭を悩ませてばかりだ。
 第4王子が率いるクアドラード志願兵はファルシュ領からグリーン領にかけての街道で戦となる。
 余談であるが志願兵は騎士団の各員とファルシュ領民、各貴族の私兵、そして本当に志願した平民により成り立っている。


「ではこうしましょう。我々青の騎士団で街道北よりトリアングロで戦力確認に参ります」

 発言したのは青の騎士団の副団長、レイジ・コシュマール。大陸から漂流し、クアドラードに帰化した騎士爵の男だ。

「コシュマール騎士、何故か伺っても」
「トリアングロ王国に『攻める意識』を見せるためです。要するにありもしない敵を想像させて警戒させます。青の騎士団の精鋭部隊であればトリアングロに一撃離脱戦法が取れるかと」
「ふむ」
「それにトリアングロの対応が青の騎士団に手間取れば手間取るだけ時間も稼げます」

 青の騎士団副団長の意見にいくつか反応はあったが、何より街道ではなく北にある険しい山脈を通過できるルートがあると見つけ出している。少々大規模な偵察として考えれば青の騎士団の約半数というのは有効であろう。

「……では、そういうことで」


 青の騎士団副団長、レイジ・コシュマール。
 ──もとい、トリアングロ空軍幹部、アーベント・グーフォは微笑んだ。




 ==========




 トリアングロ王国とクアドラード王国を結ぶ国境は主に三種類に別れてある。
 一つ目は平野。街道も設備されており、見晴らしもいい。ただし両国砦を作ってあり、それぞれの国に関所がある。
 二つ目は川。クアドラード王国のストゥール川が平野の北側に流れ、海へと流れていく。
 そして三つ目は岩山。かつて国境を作る際、川の所有権を得るために川の更に北側にある棘岩山もトリアングロが所有したのだ。

 棘岩山からトリアングロ本土へ向かうには吊り下げられた渓谷に作られた橋を渡るしかない。しかも棘岩山の先も、木々が生えているとはいえ険しい山道。進軍には向かないのだった。



「おぉ、本当に川の水量が減っている……」
「副団長、流石です」

 青の騎士団の役半数が棘岩山の細道を通り、橋の下へとやって来た。
 水傘と川底の岩と傾斜のせいで川は船も渡せない。

 ところがどっこい。
 今、青の騎士団が目にしている川は流れが穏やかで人が渡っても問題ない水位になっていた。

「あぁ、戦争がいつ起こるか分からないしな、多数のルートを確認していた。この時間だけ川の流れがこうなるようだ。この山に来てもトリアングロの兵は見当たらなかったし……」

 バシャ、っと水音を立てて川に足を入れる。川底は小さな岩と大きな岩が点在しており、問題ない。

「団長も来れたら良かったんですけど」
「そう言うな。青の騎士団を二分割する以上、私か団長で別れなければならない」
「まぁ、そうですよね」
「その分、ここには少数精鋭しか連れてきてないんだ。キリキリ働いて貰うからな」

 いくら人気がないと言えど敵国の中。
 青の騎士団は副団長を先頭に素早く川を渡った。

 ある程度の水分を絞ると部隊は再び足を進める。

「あれ、魔法が使えません」
「ん、知らないのか。この国では魔法が使えないんだ」
「えっ、そうなんですか!?」
「あぁ、どうやら魔法を使わない特性のせいで土地が魔法を受け付けないのだと。……まぁ、だからこそ騎士団の出番なんだ」

 グーフォは適当なことを言いながら森へと足を踏み入れる。急勾配の森は木々が葉を大きく広げるせいで陽の光が当たらない。おかげで地面は湿気ており、土の匂いが激しい。

 ザッザッ、カツカツ。
 滑らない様に足を踏み込む音。激しい動きで鎧が擦れる音。

 この森を抜けると第二都市に近いはずだ。

 傾斜が激しい中、副団長が足を止め、部隊は動きを止めることになる。

「副団長?」
「点呼を。はぐれたものは居ないか?」

 その命令にそれぞれの小隊長は部隊の人数を確認する。

「第1部隊から第3部隊、全員居ます」
「そうか、それは」

 ──良かった。

 グーフォがそう言おうとしたその瞬間。ドン、と銃撃の音・・・・がした。

「……え?」

 コフリ。部隊の1人が血を吹いて倒れた。
 敵襲である。

「くっ!」

 副団長である男は剣を抜き空気を切るような剣筋を見せると、キィンという金属がぶつかる音と共に割れた銃弾が地面を転がり落ちた。

「う、うわああああ!?」
「て、てきしゅ」
「ふ、副団長……!」
「下がれ! 今すぐ下がれ! 囲まれた!」

 咄嗟に魔法を使って防御をしようとした騎士、槍や弓、剣を持った騎士。それらが森の至る所から飛んでくる銃撃に次々と倒れ伏す。どこから撃たれているのか、簡単に考えれば木の上なのだが、そこに攻撃しようとしても死んでいく。

 盾を持った者や勘の良い者や運の良い者は傾斜の険しい山を登り、下り、川まで辿り着く。
 森から離れるまでに更に何人もの騎士が死んだ。

 混乱している。
 だから、青の騎士団の残された騎士は慌てて川を渡りクアドラード王国へ逃げ帰ろうとした。


 バシャバシャと水を跳ねさせる。
 いつの間にか視界に入る位の人数で、命令を下す副団長の姿は既に見えなかった。

「早く、早く戻れ!」

 川を渡り切る前に、眩い光が森の中から放たれた。

 魔法なのだろうか、一体何なのだろうか。考えるより先に、ゴゴゴゴという地響きの音がした。
 一体、この音は……!


 そして川上を見た騎士は絶望を目に入れた。


 まるで魔法のような大きな水の塊が、木や岩を含ませながら大きな真っ白い水しぶきを立て勢いよく流れてきたのだった。

 魔法が使えないため、重い防具をしっかり付けた騎士は一体どうなるだろうか。

「ーーーーーーッッッ!」




 ==========



「………………。川が流れましたね」

 森の中、木の枝の上で指示を出した〝鶴〟ブレイブ・グルージャは緊張を発散するように深く息を吐いた。

「生き残りの確認を。見つけ次第、殺してください」
「はい!」

 同じく木の上で銃を構えていた兵士は弓に武器を持ち替えて、森の中と川下で生存者を探すために走り出した。

 新鮮な血の匂いと積み重なる死体。
 木の上から降りたグルージャはその塊に向かって話し掛けた。

「その中、生き残りはいませんよね?」

 すると死体の山はモゾっと動き出し、中から1人の男が現れた。

「あぁ、いないな」
「それなら安心しました」
「案外こういう作戦でも上手く行くもんだ」
「貴方がクアドラードで信頼を高めていたおかげですよ、梟さん」
「……俺はその梟さんって言われ方好きじゃないんだが」
「それは失礼」

 〝梟〟アーベント・グーフォである。
 団員の血を被り銃撃を避けていたのだ。

 今回の作戦は青の騎士団を森の中まで誘導し、絶好の狙撃ポイントで部隊の殆どを狙撃。
 そして川移動の位置から見えない川上で、ダムを作っていた。岩や鋭く削った木などを混ぜたダムを。
 逃げ帰る騎士が川の真ん中に移動したタイミングで、閃光の合図を。後は水を堰き止めていた木を破壊し、放水するだけだ。

 これで青の騎士団の半分が削れた事になる。

「生き残りが居たとしても、裏切りはバレないだろう」

 目に入らないように血を拭いながらグーフォは剣を抜いた。

「鶴、確か会うのは初めてだったな」
「えぇ、お会い出来て嬉しいですよ」
「…………なんというか」
「あっ、兄と比べられるの地雷なのでやめてもらえると」
「……すまん」

 図星だった様だ。
 グーフォは普通に『前の鶴と比べて普通で驚いた』と言おうとしていたのだった。

「さて、鶴、頼めるか」
「あー、えっと、別に構わないんですけど」

 グーフォはグルージャに剣を差し出した。
 剣を受け取ったグルージャは困ったように眉を下げる。

「左だけで大丈夫なんですか?」
「元々俺は左利きだ。クアドラード内では右で通しているが」
「うわ……利き手と逆の剣で副団長まで登りつめるとか……クアドラード弱すぎ……?」
「どうだろうな」

 グーフォは判断に悩んだ。
 クアドラード王国内では身体強化魔法を使ってるフリをしているが、他の団員の様に様々な魔法は使えない。
 自分が副団長まで登りつめることが出来たのは、外国から帰化したという設定のおかげで、重宝されている様なものだったりする。そんじょそこらの平団員に負ける気は無いが、魔法ありだと分からない。

「ま、俺たちが鍛えている時間、魔法を鍛える国だ。一概に弱いとも言えない」
「騎士団って、武を持って民を守る、みたいな感じの組織でしたっけ」
「あぁ、魔法を使ったことがないやつでも入れるようになっている。本当に攻撃魔法重視は魔法師になるしな」

 特に宮廷の魔法師達は本当に好きになれないが。

 グーフォは話がひと段落ついたところで右手を出した。
 その様子を見て、グルージャが受け取った剣をギュッと握り締める。

「頼む」
「下手くそでも、文句言わないでくださいね……っ!」

 ざしゅ。

 グーフォの右手が、飛んだ。

「……っ、大分上手い方じゃないか。空軍を辞めて陸軍にでもなる方がいい」
「冗談やめてください。前線で戦うほどの戦闘狂じゃありませんから。それにトリアングロ軍を率いているのは我ら空軍の幹部ですよ」
「は、違いない」

 グーフォは持っていた紐で傷口を止血する。
 そして左の手で剣を戻すように催促すると、グルージャはその手に傷をつけた剣を戻した。

「治療用具持ってますけど、応急処置は必要ですか?」
「いや、要らない。あったら困るだろ。何より『片腕を切り落とされても国へ伝えるために夜通し走り報告する忠誠心の高い青の騎士団副団長』の設定が揺らぐ」

 ある程度の血を振り払うとグーフォは剣を鞘に戻した。

「あぁ鶴。向こうに渡す情報を今ここで独り言として喋ってくれるか」
「は、はぁ?」
「魔法で嘘か本当か、見抜かれると困る」

 そう、第4王子がその厄介な魔法を持っているのだ。

「なるほど」

 ゴホン、とグルージャは咳き込んで、クアドラード王国へ伝える『虚偽』情報を確認する様に独り言を口に出した。

「フゥ、海岸線の監視も張ってますし、どう考えても正面からでしか兵は動かせないでしょう。問題は警備の薄くなる夜中に戦力を投下されることですが……」

 これでいいですか、と言うように視線を向けられる。
 グーフォはその視線に頷いた。

「そろそろ俺は追っ手が居なくなったらクアドラードへ向かう。それと第4王子の手の内にある冒険者が地雷の情報を手に入れていた。更に言えば第2王子の居場所も王都だとバレている」
「……それは、厄介ですね」
「クアドラード王国の方針は『時間稼ぎ』だ。長期戦に持ち込んで、トリアングロ王国に取り込まれ魔法が使えなくなったとしても暮らせるように改革をするようだ」
「……!」
「未だに方針で揉めている最中だ。だが、今が1番攻められ時だな……」

 グルージャはもたらされた情報に思わず目を見開いた。それってつまり、今の間に降伏させてしまえば完全掌握になるのでは無いか。

「元々トリアングロ王国は短期戦。下手に和解に持ち込むよりはさっさと攻めた方が良さそうですね」

 そう言い、グルージャはグーフォから背を向けた。
 他の空軍はグーフォの姿を知らず、逃げ延びた騎士だと思うだろうが。……まぁ相手は幹部、問題無いだろう。

「──必ずこの戦争は、俺たちの代で終わらせるんだ」
「絶対、自分達が勝って、この悲しみの連鎖を断ち切る」

 求める先は完全敗北か完全勝利。
 王の喉元に牙を突きつけた者が……この戦争を終わらせられる。


 トリアングロ王国は、必ずこの燻りを無くす。
 例えそれで、この大陸が滅んだとしても。
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