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婚約破棄編

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 建国記念の大舞踏会当日。私が実家で支度を済ませ迎えを待っていると、侯爵家から使いの人がハリソン様の手紙を届けにきた。

 手紙の内容は何時も如く迎に行けない。エスコートも出来ないと書いてある。使いの人も重大さを認識しているせいで真っ青な顔で今にも倒れそう。何時もごめんなさいね。こうなると分かってはいましたけどね。

「内容は承知致しました。後はこちらで何とかしますのでお帰りなさい。ご苦労様です」

「あ、ありがとうございます!」

 使いの人は溢れんばかりの笑顔でお礼を言うと急いで侯爵家に戻って行った。きっと報告に行くのだろう。ご当主も大舞踏会に出席で不在だから執事長辺りに伝えるのかしらね?

やっぱり今回も来なかった。

 私の感想はその一言。魔力の強さに目をつけて無理矢理結んだ婚約にハリソン様は納得していなかった。初対面の時から不満をぶつけられていたけど、学園に入学しながら魔法が使えない事に更に態度を悪化させエスコートのドタキャンは当たり前になっていた。家族もこれを承知で兄のサイオスが念のためギリギリまで待機してくれていたのだ。

「サイオスお兄様、行きましょう」

「……今日こそ殴って構わないよな」

「お願いですから止めて下さい」

 馬車に乗り向かいに座る兄の顔を伺えば八歳上の大人の雰囲気は消え、額に青筋が浮かびオーガの様な赤い顔になっていた。

「お兄様、折角のイケメンが台無しですわ」

「……妹に褒められてもなぁ」

 そう思うなら怒りを納めて貰えませんかね!父に似た平凡な焦げ茶色の髪と瞳の私と違い、社交界の白百合姫と吟われた母に似た兄はプラチナブロンドのサラサラヘアーに晴れた日の海を思わせる輝くマリンブルーの瞳。社交界では紳士な態度と妹思いの対応に釣書は山のように届いている。しかし、

「ルナが落ち着くまでは結婚なんて考えられない」

 その一言で全ての釣書を送り返し、私は更に孤立させる結果になっていた。兄よ。私は、そろそろ妹離れして欲しいかな?

「それに……」

「お兄様、何か気になることでも?」

「いや、何でもない」

 何か言いかけた兄は途中で言葉を切ると、私の質問も誤魔化して続きは教えてくれなかった。進み始めた馬車に揺られながら、先日、先生が言っていた龍人の事を思い出した。

「そうでした。お兄様、学園のアラン先生から今日、龍人の方を紹介すると言われましたが何方か分かりませんか?」

「は?龍人って……今日の大舞踏会に出席している方なら団長か部隊長か……後は知らないなぁ。しかし、急に何事だい?」

 お兄様が首を傾げながら私に問い返す。急に会った事も無い方々の話が出れば驚くわよね。

「それが先生が仰るには龍人の方なら魔法が発動しない原因が分かるかもしれないと言われましたわ」

「原因が……あぁ、確か部隊長に魔法の解析に特化した龍人が就任したと話題になっていたな」

「解析特化……解析出来れば良いですけど……」

 お兄様が考える方と先生が言った方が同じか分からないけど、解析して原因が分かるなら何でもして欲しいわ。



 
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